庭師見習いは見た!お屋敷は今日も大変!

NO*NO(ののはな)

文字の大きさ
上 下
23 / 36

マイクの話

しおりを挟む
物心ついた頃にはサティと暮らしていて、ある程度育ってからは2人で旅をしていた。
サティは母というより、友であり、師匠だった。
国中を周り、いろんな人と出会った。

サティが僕を“裏”に預けて居なくなったのは、僕が10になる時だった。
不思議と、置いていかれたとは思わなかった。

「これからは君の人生だからね!」

サティは花が咲くように笑う人だった。

だから僕は地面にしっかりと根付いて咲く花が好きなのかもしれない。
水をあげた瞬間の、しゃんとして居住まいを正すような感じも好き。

根を張って風になびき、雨に打たれてかてにする。
真っ当に生きる、っていうのはそういうことだよ。

サティがよく言っていた言葉を噛みしめながら、僕は“裏”の施設での訓練を受けた。

オーガストと初めて会ったのは僕が14になる時だった。
僕の片耳が飛ばせることに気付いたのがオーガストだった。

異常に耳が良い時と、むしろちゃんと聞こえていない時があること。
無意識にボーッとしたり、バランスを崩したり、陸にいるのに船酔いの症状が出ること。

目を通せる限りのあらゆる書物を読んでいたオーガストは、大昔に存在した某伯爵が、両目と両耳をそれぞれでも全部でも飛ばせる能力があったという記述を覚えていた。

少しずつ飛距離を伸ばす訓練を続ける内にバランスを保てるようになった僕は、どちらの耳というより、聴力を半分残して半分飛ばすという状態に落ち着いた。
それ以上の聴力を飛ばすのは怖かったし、オーガストも無理はさせなかった。
僕の本体に聴力が無くなるリスクは高過ぎた。

僕が出自を教えられたのは、18になる誕生日の夜だった。

8年ぶりに会ったサティは丸っきり変わっていなくてビックリした。
「美魔女?」って聞いたら「美女!」って笑ってた。

サティとオーガストは、彼ら自身が18だった時の話から始めた。

男爵令嬢、男爵令息として過ごした学園での話。
オランディーヌ公爵令嬢と婚約していたレモネル王太子とサティが不貞ごっこをしていた話。

オランディーヌ嬢が妬いてくれないと言っては落ち込み、妬いてくれたと言っては舞い上がる面倒くさい王太子の話が、今の国王陛下と結び付かなくて苦笑いした。

へえ~、ふ~ん、と呑気にしていた僕に衝撃が走ったのは、その2人が僕の両親だと聞かされた時だった。

その後の話は悲劇への序章だった。

“辺境伯の子供たち”による粛清を経て、輝かしく結婚した2人は幸せな日々を過ごし、やがて第1王子アーサーが生まれた。
しかし、次の子がなかなか生まれず、有力貴族からの側室を持つべきだという進言に悩まされた。
本意ではない噂ばかりが先行して、“煮え切らない国王陛下と可哀想な王妃”から人心は離れていった。

そんな中での王妃の懐妊。

噂に翻弄されて疑心暗鬼になっている風潮に隠れて国政を操り、私利私欲に走っていた者たちは慌てた。

そこから、“辺境伯の子供たち”と、小狡い古狸や証拠を残さずに暗躍する小悪党たちとの闘いは激しくなっていった。

狙われる王妃にはサティと筆頭侍女フランが張り付いて守り、“辺境伯の子供たち”の全勢力を投入して国中に捜査網を張り巡らせたが、掌から珠は零れた。

突発した隣国との諍いで国王陛下不在の折に、産後で弱っていた王妃と共に、生まれて間もない第2王子マクロスも暗殺されそうになったのだ。

王妃は侍女フランに第2王子を預け、フランは誘拐する形で第2王子を逃してサティに託した。

そして、王妃は殺害され、第2王子マクロスであるマイクをサティに渡した後、ダミーの布包みを抱えて囮となったフランも死んだ。



その話を聞かされた上で、僕は言われた。

市井に生きるのか、“裏”として生きるのか、それとも…。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】黒隼の騎士のお荷物〜実は息ぴったりのバディ……んなわけあるか!

平田加津実
恋愛
王国随一の貿易商に仕えるレナエルとジネットは双子の姉妹。二人は遠く離れて暮らしていても、頭の中で会話できる能力を持っていた。ある夜、姉の悲鳴で目を覚ました妹のレナエルは、自身も何者かに連れ去られそうになる。危ないところを助けてくれたのは、王太子の筆頭騎士ジュールだった。しかし、姉のジネットは攫われてしまったらしい。 女ながら巨大馬を駆り剣を振り回すじゃじゃ馬なレナエルと、女は男に守られてろ!という考え方のジュールは何かにつけて衝突。そんな二人を面白がる王太子や、ジネットの婚約者を自称する第二王子の筆頭騎士ギュスターヴらもそれぞれの思惑で加わって、ジネット救出劇が始まる。

【完結】無能烙印の赤毛令嬢は、変わり者男爵に溺愛される☆

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢ルビーは、見事な赤髪を持って生まれた。 「赤毛の子は一族の救世主」との伝承から、ルビーは大切に育てられるが、 至って平凡な娘と分かり、《期待外れ》の烙印を押されてしまう。 十九歳になったルビーは、伯爵の跡取り子息エドウィンと婚約したが、結婚式の二週間前、突如、破談になった。 婚約破棄を言い渡したエドウィンの隣には、美しい姉ベリンダの姿があった。 二人は自分たちの保身の為に、ルビーを他の男と結婚させようと画策する。 目をつけた相手は、《変人》と名高い、ラッド・ウェイン男爵。 ルビーは乗り気では無かったが、思いの外、男爵に気に入られてしまい…??  異世界:恋愛 (全27話) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

処理中です...