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マイクの話
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物心ついた頃にはサティと暮らしていて、ある程度育ってからは2人で旅をしていた。
サティは母というより、友であり、師匠だった。
国中を周り、いろんな人と出会った。
サティが僕を“裏”に預けて居なくなったのは、僕が10になる時だった。
不思議と、置いていかれたとは思わなかった。
「これからは君の人生だからね!」
サティは花が咲くように笑う人だった。
だから僕は地面にしっかりと根付いて咲く花が好きなのかもしれない。
水をあげた瞬間の、しゃんとして居住まいを正すような感じも好き。
根を張って風に靡き、雨に打たれて糧にする。
真っ当に生きる、っていうのはそういうことだよ。
サティがよく言っていた言葉を噛みしめながら、僕は“裏”の施設での訓練を受けた。
オーガストと初めて会ったのは僕が14になる時だった。
僕の片耳が飛ばせることに気付いたのがオーガストだった。
異常に耳が良い時と、むしろちゃんと聞こえていない時があること。
無意識にボーッとしたり、バランスを崩したり、陸にいるのに船酔いの症状が出ること。
目を通せる限りのあらゆる書物を読んでいたオーガストは、大昔に存在した某伯爵が、両目と両耳をそれぞれでも全部でも飛ばせる能力があったという記述を覚えていた。
少しずつ飛距離を伸ばす訓練を続ける内にバランスを保てるようになった僕は、どちらの耳というより、聴力を半分残して半分飛ばすという状態に落ち着いた。
それ以上の聴力を飛ばすのは怖かったし、オーガストも無理はさせなかった。
僕の本体に聴力が無くなるリスクは高過ぎた。
僕が出自を教えられたのは、18になる誕生日の夜だった。
8年ぶりに会ったサティは丸っきり変わっていなくてビックリした。
「美魔女?」って聞いたら「美女!」って笑ってた。
サティとオーガストは、彼ら自身が18だった時の話から始めた。
男爵令嬢、男爵令息として過ごした学園での話。
オランディーヌ公爵令嬢と婚約していたレモネル王太子とサティが不貞ごっこをしていた話。
オランディーヌ嬢が妬いてくれないと言っては落ち込み、妬いてくれたと言っては舞い上がる面倒くさい王太子の話が、今の国王陛下と結び付かなくて苦笑いした。
へえ~、ふ~ん、と呑気にしていた僕に衝撃が走ったのは、その2人が僕の両親だと聞かされた時だった。
その後の話は悲劇への序章だった。
“辺境伯の子供たち”による粛清を経て、輝かしく結婚した2人は幸せな日々を過ごし、やがて第1王子アーサーが生まれた。
しかし、次の子がなかなか生まれず、有力貴族からの側室を持つべきだという進言に悩まされた。
本意ではない噂ばかりが先行して、“煮え切らない国王陛下と可哀想な王妃”から人心は離れていった。
そんな中での王妃の懐妊。
噂に翻弄されて疑心暗鬼になっている風潮に隠れて国政を操り、私利私欲に走っていた者たちは慌てた。
そこから、“辺境伯の子供たち”と、小狡い古狸や証拠を残さずに暗躍する小悪党たちとの闘いは激しくなっていった。
狙われる王妃にはサティと筆頭侍女フランが張り付いて守り、“辺境伯の子供たち”の全勢力を投入して国中に捜査網を張り巡らせたが、掌から珠は零れた。
突発した隣国との諍いで国王陛下不在の折に、産後で弱っていた王妃と共に、生まれて間もない第2王子マクロスも暗殺されそうになったのだ。
王妃は侍女フランに第2王子を預け、フランは誘拐する形で第2王子を逃してサティに託した。
そして、王妃は殺害され、第2王子マクロスであるマイクをサティに渡した後、ダミーの布包みを抱えて囮となったフランも死んだ。
その話を聞かされた上で、僕は言われた。
市井に生きるのか、“裏”として生きるのか、それとも…。
サティは母というより、友であり、師匠だった。
国中を周り、いろんな人と出会った。
サティが僕を“裏”に預けて居なくなったのは、僕が10になる時だった。
不思議と、置いていかれたとは思わなかった。
「これからは君の人生だからね!」
サティは花が咲くように笑う人だった。
だから僕は地面にしっかりと根付いて咲く花が好きなのかもしれない。
水をあげた瞬間の、しゃんとして居住まいを正すような感じも好き。
根を張って風に靡き、雨に打たれて糧にする。
真っ当に生きる、っていうのはそういうことだよ。
サティがよく言っていた言葉を噛みしめながら、僕は“裏”の施設での訓練を受けた。
オーガストと初めて会ったのは僕が14になる時だった。
僕の片耳が飛ばせることに気付いたのがオーガストだった。
異常に耳が良い時と、むしろちゃんと聞こえていない時があること。
無意識にボーッとしたり、バランスを崩したり、陸にいるのに船酔いの症状が出ること。
目を通せる限りのあらゆる書物を読んでいたオーガストは、大昔に存在した某伯爵が、両目と両耳をそれぞれでも全部でも飛ばせる能力があったという記述を覚えていた。
少しずつ飛距離を伸ばす訓練を続ける内にバランスを保てるようになった僕は、どちらの耳というより、聴力を半分残して半分飛ばすという状態に落ち着いた。
それ以上の聴力を飛ばすのは怖かったし、オーガストも無理はさせなかった。
僕の本体に聴力が無くなるリスクは高過ぎた。
僕が出自を教えられたのは、18になる誕生日の夜だった。
8年ぶりに会ったサティは丸っきり変わっていなくてビックリした。
「美魔女?」って聞いたら「美女!」って笑ってた。
サティとオーガストは、彼ら自身が18だった時の話から始めた。
男爵令嬢、男爵令息として過ごした学園での話。
オランディーヌ公爵令嬢と婚約していたレモネル王太子とサティが不貞ごっこをしていた話。
オランディーヌ嬢が妬いてくれないと言っては落ち込み、妬いてくれたと言っては舞い上がる面倒くさい王太子の話が、今の国王陛下と結び付かなくて苦笑いした。
へえ~、ふ~ん、と呑気にしていた僕に衝撃が走ったのは、その2人が僕の両親だと聞かされた時だった。
その後の話は悲劇への序章だった。
“辺境伯の子供たち”による粛清を経て、輝かしく結婚した2人は幸せな日々を過ごし、やがて第1王子アーサーが生まれた。
しかし、次の子がなかなか生まれず、有力貴族からの側室を持つべきだという進言に悩まされた。
本意ではない噂ばかりが先行して、“煮え切らない国王陛下と可哀想な王妃”から人心は離れていった。
そんな中での王妃の懐妊。
噂に翻弄されて疑心暗鬼になっている風潮に隠れて国政を操り、私利私欲に走っていた者たちは慌てた。
そこから、“辺境伯の子供たち”と、小狡い古狸や証拠を残さずに暗躍する小悪党たちとの闘いは激しくなっていった。
狙われる王妃にはサティと筆頭侍女フランが張り付いて守り、“辺境伯の子供たち”の全勢力を投入して国中に捜査網を張り巡らせたが、掌から珠は零れた。
突発した隣国との諍いで国王陛下不在の折に、産後で弱っていた王妃と共に、生まれて間もない第2王子マクロスも暗殺されそうになったのだ。
王妃は侍女フランに第2王子を預け、フランは誘拐する形で第2王子を逃してサティに託した。
そして、王妃は殺害され、第2王子マクロスであるマイクをサティに渡した後、ダミーの布包みを抱えて囮となったフランも死んだ。
その話を聞かされた上で、僕は言われた。
市井に生きるのか、“裏”として生きるのか、それとも…。
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