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メイベル・ネルソン
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マイクとフレッドと別れたフィルは自室には戻らずに、先日マイクと話した温室脇へ行った。
そこにはメリーが待っていた。
「メル、待ったか?」
もともと“メル”と愛称呼びしていたフィルは、メリーなら今まで通りに呼んでもいいだろうと、呼び方を変えていなかった。
「そうでもない。新しい親方の話は何だったの?」
「そんなことよりプレゼント男の話だろ?メイたちから聞いたか?」
「大体ね。屋敷に行商に来ていたかもしれない中年の男って。本当に行商人だった?」
「いや、騎士爵を持っている。かなり昔に隣国との諍いで武功を上げてる。屋敷に偵察に入っていたんだろうな」
「かなり…って?どのくらい?」
「20数年前ぐらいだな。大きな戦いがあって長引いた時だ。それがどうかしたのか?」
「……フィルとかあの子たちとか…新参者や年少者は知らないことだけど、私の父親はマイラー・ネルソンじゃないの。敢えて誰もそれを口にはしない。ネルソン家の恩恵で保たれている領地だから。
私の母は隣国近くの食事処の娘で、当時駐屯していた兵士に暴行されて私を身籠もったのよ。身重になる前に休戦して兵士たちは引き上げたから父親は分からない。身重になってどうしようもなかった母を母の両親と共に、マイラーが引き受けてくれたの。祖父母は屋敷の厨房で働かせてもらっていたわ。私がそれを知ったのは、私の能力が発動した時よ。本当は私には何も知らせずに、どこか良いところに嫁入りさせるつもりだったらしいわ」
「襲われたんだったな。未遂だったけど、奥様は心底震えただろう…そんな過去があったんなら」
「ええ。私はまだ幼かったけれどもう体は大きくなっていて…だけど自分が男の目を引く容姿だっていう自覚は無かったのよ。
道案内を頼んできた男に襲われて、『絶対嫌!許さない!やめて!』って相手を睨み付けていたら突然糸が切れた操り人形みたいになったの。すぐに助けが来て、その男を連れて屋敷に戻って調べたら、その男は私に魅了されていたのよ。その時にマイラーに言われたの。どうしたいのか、って。このまま何も無かったことにして嫁に行くか、それとも違う道を行くのか、って。違う道が何なのかは教えてくれなかったけど、即答したわ。大人になっても男の人と添い遂げるなんて無理、触れられたくもない、違う道を教えて、って」
「そうだったのか。確かに初めて会った時は大人びてて年下だとは思わなかったな……なあ、あのプレゼント男がメルの父親ってことは…」
「違うと思う。母は額に傷跡があるの。その時の傷よ。そんなことするやつに愛情なんかあった訳が無い。それきり音沙汰無かったらしいから、私の存在も知らないと思うわ。別ルートだと思うんだけど、私は襲われてからずっと屋敷に引き籠もって“表”の訓練や仕事をしていたから接点が分からないわね」
「サラは行商人と奥様の会話とか行商人どうしの会話から“メイベル”のことを知ったのかも、って言ってたな。見付けたノートにも個人名は無かった。Mってのと日付みたいなのはあったけど」
「私のことを知ったからってどうしてプレゼントになるの?何を狙ってるの?差出人も不明なままよ?ただの勝手な自己満足?」
「落ち着けよ。気持ち悪いのは分かるけど。人物の特定はしたし、騎士爵持ちならフレッドの次兄のギルバードにも調べてもらえるし」
「ギルバードもオスカーも父親のノーマンのことで大変なんだから、そんなこと頼まないで」
「相変わらず疎遠にしてるのか?」
「突然転がり込んできた後妻の娘よ?弁えてるわ」
「あっちは抵抗感無いみたいだけどな。いいやつらだぞ?メルだってこの前フレッドの前で本名とか素性を名乗っただろう?フレッドはこっそりホッとしてたぞ」
「あの場でごまかしたらおかしいでしょう。ネルソン家のために集まっていたんだから」
「まあな。メル、まだ男が嫌いか?俺はもう傷だらけでボロボロじゃない。傷付けられたことへの同情じゃなくて、男として俺を見てほしい」
「フィル…そうね。傷だらけのあなたを見た時に嫌悪感は無かったわ。“男”だって理不尽な目に遭うのか、って同情したわ。今は…仲間意識が強くて男としては見ていないし、今後も…分からないわ」
「無理してほしいんじゃなくて、俺の気持ちを分かってほしかったんだ。意識してもらえたら万々歳だよ。もう遅いし、女子部屋の角まで送るよ」
「ええ、ありがとう」
フィルに送られて部屋に戻ったメリーは、フィルに「男として」と言われた時に脳裏に浮かんだ顔を振り払うように小さく首を振り、肩を抱いて唇を噛んだ。
そこにはメリーが待っていた。
「メル、待ったか?」
もともと“メル”と愛称呼びしていたフィルは、メリーなら今まで通りに呼んでもいいだろうと、呼び方を変えていなかった。
「そうでもない。新しい親方の話は何だったの?」
「そんなことよりプレゼント男の話だろ?メイたちから聞いたか?」
「大体ね。屋敷に行商に来ていたかもしれない中年の男って。本当に行商人だった?」
「いや、騎士爵を持っている。かなり昔に隣国との諍いで武功を上げてる。屋敷に偵察に入っていたんだろうな」
「かなり…って?どのくらい?」
「20数年前ぐらいだな。大きな戦いがあって長引いた時だ。それがどうかしたのか?」
「……フィルとかあの子たちとか…新参者や年少者は知らないことだけど、私の父親はマイラー・ネルソンじゃないの。敢えて誰もそれを口にはしない。ネルソン家の恩恵で保たれている領地だから。
私の母は隣国近くの食事処の娘で、当時駐屯していた兵士に暴行されて私を身籠もったのよ。身重になる前に休戦して兵士たちは引き上げたから父親は分からない。身重になってどうしようもなかった母を母の両親と共に、マイラーが引き受けてくれたの。祖父母は屋敷の厨房で働かせてもらっていたわ。私がそれを知ったのは、私の能力が発動した時よ。本当は私には何も知らせずに、どこか良いところに嫁入りさせるつもりだったらしいわ」
「襲われたんだったな。未遂だったけど、奥様は心底震えただろう…そんな過去があったんなら」
「ええ。私はまだ幼かったけれどもう体は大きくなっていて…だけど自分が男の目を引く容姿だっていう自覚は無かったのよ。
道案内を頼んできた男に襲われて、『絶対嫌!許さない!やめて!』って相手を睨み付けていたら突然糸が切れた操り人形みたいになったの。すぐに助けが来て、その男を連れて屋敷に戻って調べたら、その男は私に魅了されていたのよ。その時にマイラーに言われたの。どうしたいのか、って。このまま何も無かったことにして嫁に行くか、それとも違う道を行くのか、って。違う道が何なのかは教えてくれなかったけど、即答したわ。大人になっても男の人と添い遂げるなんて無理、触れられたくもない、違う道を教えて、って」
「そうだったのか。確かに初めて会った時は大人びてて年下だとは思わなかったな……なあ、あのプレゼント男がメルの父親ってことは…」
「違うと思う。母は額に傷跡があるの。その時の傷よ。そんなことするやつに愛情なんかあった訳が無い。それきり音沙汰無かったらしいから、私の存在も知らないと思うわ。別ルートだと思うんだけど、私は襲われてからずっと屋敷に引き籠もって“表”の訓練や仕事をしていたから接点が分からないわね」
「サラは行商人と奥様の会話とか行商人どうしの会話から“メイベル”のことを知ったのかも、って言ってたな。見付けたノートにも個人名は無かった。Mってのと日付みたいなのはあったけど」
「私のことを知ったからってどうしてプレゼントになるの?何を狙ってるの?差出人も不明なままよ?ただの勝手な自己満足?」
「落ち着けよ。気持ち悪いのは分かるけど。人物の特定はしたし、騎士爵持ちならフレッドの次兄のギルバードにも調べてもらえるし」
「ギルバードもオスカーも父親のノーマンのことで大変なんだから、そんなこと頼まないで」
「相変わらず疎遠にしてるのか?」
「突然転がり込んできた後妻の娘よ?弁えてるわ」
「あっちは抵抗感無いみたいだけどな。いいやつらだぞ?メルだってこの前フレッドの前で本名とか素性を名乗っただろう?フレッドはこっそりホッとしてたぞ」
「あの場でごまかしたらおかしいでしょう。ネルソン家のために集まっていたんだから」
「まあな。メル、まだ男が嫌いか?俺はもう傷だらけでボロボロじゃない。傷付けられたことへの同情じゃなくて、男として俺を見てほしい」
「フィル…そうね。傷だらけのあなたを見た時に嫌悪感は無かったわ。“男”だって理不尽な目に遭うのか、って同情したわ。今は…仲間意識が強くて男としては見ていないし、今後も…分からないわ」
「無理してほしいんじゃなくて、俺の気持ちを分かってほしかったんだ。意識してもらえたら万々歳だよ。もう遅いし、女子部屋の角まで送るよ」
「ええ、ありがとう」
フィルに送られて部屋に戻ったメリーは、フィルに「男として」と言われた時に脳裏に浮かんだ顔を振り払うように小さく首を振り、肩を抱いて唇を噛んだ。
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