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尾行返し
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時間が迫っていることに気付いた僕とフレッドとフィル先輩は、待ち合わせに決めていたカフェ近くの公園へと急いだ。
「ああ、いたいた…のはいいけど、何か変なやつくっ付けてるな。帽子と眼鏡とで顔が分かりにくいけど中年のおっさんか。ああいうくたびれたおっさんって大概オーラが濁ってんだよなあ。真っ黒ってことは無いから大丈夫だと思うけど、フレッド、遠いか?いけるか?」
屋根付きのベンチに座っている女の子たち3人組が斜め前から見える位置に、1人の男が座っていた。
その男は体を強張らせて身動きせずに、眼鏡の奥から女の子たちを凝視していた。
うん、怪しい。
僕もその男の近くに片耳を飛ばした。
「う~ん…ちょっと遠いかな。結構乱れてるし、途切れ途切れだね。ん?ペンダント?…ブレスレット…髪飾り…どうして…偶然…まさか…3つともなんてありえない…えっ!!」
「「しっ!!」」
「どうした?フレッド。声抑えろ」
「は、はい。フィル先輩、あいつです。メリーさんにプレゼント贈っていたやつです。『メイベル』に贈った物と同じアクセサリーをどうしてこの子たちが?って」
フレッドが『メイベル』さんの名前を言う時だけ一層小声で言った。
「なるほどな。ま、予定通り合流してカフェに行くぞ。もし着いてくるようならマイクとフレッドは出来るだけ情報を引き出してくれ」
「「了解です」」
「おーい、待たせたな。こいつらがピンボールにハマっちゃってさ」
「「え?」」
『まあまあ、そういうことで』
「遅ーい」
『あの人ずっとこっち見てるの』
「もうカフェに入りましょうよ」
『うわ、ピクッてなったわよ』
「お腹空いた~」
『顎を弄りだしたわ。考えてるみたい』
気持ち大声で周りに聞かせながら、早口の小声を挟んでパシパシとやり取りした僕たちは、連れ立ってカフェに入って行った。
お昼より少し早めに入ったので待つことは無く、僕たちは奥のボックス席に案内された。
メニューを広げていると例の男も入ってきたが、お一人様用の入り口近くの席に案内されていた。
カフェに入ってからは、距離もあった上に男の思考が意識の深いところに入ったようでフレッドには読み取れず、黙り込んでいたので情報の引き出しようがなかった僕の片耳も早々に撤退させた。
おすすめメニューや季節限定メニューを頼んだ僕たちは、ワイワイと適当に喋りながら卓上でメモを交わした。
女の子たちのアクセサリーはやっぱりメリーさんから貰った物だった。
メリーさんは自分で着ける気が無いので、頼み事のお礼とかでばら撒いてるみたいだ。
気持ち悪いのは気持ち悪いんだろうけど、物に罪は無いからなあ。
ん?そういえばフィル先輩は試して悪かったなって謝ってくれたけど、この子たちからは何も無いな。メリーさんも…ま、いいか。フィル先輩が主導だったってことか。
【Mの火事とNの取り潰しと謎のプレゼントは繋がってるか?】
フィル先輩がメモ用紙の真ん中に走り書きした。
【Mの周りがキナ臭くなったのとプレゼントはほぼ同時期だった。プレの方が後かな】
メリーさんと一番親しいメイが書き込んだ。
【N家がおかしくなったのは、火事の後だった。ターゲットを移されたんだと思う】
フレッドが書いた。
【伯爵家はターゲットにされていると思うか?】
フィル先輩にフレッドが答えた。
【僕だけだったと思う。まだ僕に利用価値があるかどうかで、ただの窃盗だったのかN関係かの狙いが絞れるかも】
【!!!私、あの男を知っているかもしれない。ああ、もう書いてられない。話す】
サラが慌てて書き込んできて、そのまま話し出した。
「身振りとか骨格とか、顎の上を向いた時のラインとかに見覚えがあるのよ」
【Mに来ていた行商人だわ。私いつも荷物運びしていたから何度も会ってるのよ】
サラは器用に話ながら書き続けた。
【あの人は日用品だったけど、隣の宝飾品の人が奥様にいろいろ勧めてたし、お嬢様の名前もその場で出たかも】
「しれないわ。探りを入れていた方とも繋がっていたのかも」
「お疲れ、サラ。もう料理が来るから食べようか。ちょっと食べながら考えてみるよ」
フィル先輩がサラの猛ダッシュ書き込みを労っていると、ちょうど料理が届いた。
デザートまでしっかり食べた僕たちは結構長居したので、例の男は先にカフェを出ていた。
「さっきちょっとカードで稼いだからここは奢るよ。で、このまま伯爵家まで帰ろう」
フィル先輩がカッコいいことを言ってくれた。
「ありがとうございます。尾行させるってこと?」
「ありがとうございます。その後で執事長がどう動くかよね」
「ありがとうございます。あ~、奢りならプリンもう1個食べれば良かった~」
マリ…食べきれなかった分をサラにあげてたのに…デザートは別腹ってやつか。
「尾行させた後で俺があの男を尾行する」
フィル先輩の一言に僕は反応した。
「尾行返しですか!あ、お会計ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「律儀だね、マイク。僕もごちそうさまでした。僕の顔に無反応だからN関係じゃないかもしれないけど、気を付けてください、フィル先輩」
「おう。まだ雨降ってるな。帰りは組み合わせ変えるか?やっぱ相合い傘だろ?」
「いや、別にバラバラでいいですけど?」
「歩きやすかったから同じでもいいけど?」
「ゆっくり歩きたいから1人がいい~」
「おやおや?じゃあサラとマイクは相合い傘で、あとはバラバラで帰るか」
「「いやいや、僕/私もバラバラで!」」
思わず揃ってしまった僕とサラは、みんなに揶揄われながら伯爵家まで帰った。
一足先に帰っていったフィル先輩は途中で待機して男をやり過ごし、伯爵家を確認した男が帰るのを尾行した。
「ああ、いたいた…のはいいけど、何か変なやつくっ付けてるな。帽子と眼鏡とで顔が分かりにくいけど中年のおっさんか。ああいうくたびれたおっさんって大概オーラが濁ってんだよなあ。真っ黒ってことは無いから大丈夫だと思うけど、フレッド、遠いか?いけるか?」
屋根付きのベンチに座っている女の子たち3人組が斜め前から見える位置に、1人の男が座っていた。
その男は体を強張らせて身動きせずに、眼鏡の奥から女の子たちを凝視していた。
うん、怪しい。
僕もその男の近くに片耳を飛ばした。
「う~ん…ちょっと遠いかな。結構乱れてるし、途切れ途切れだね。ん?ペンダント?…ブレスレット…髪飾り…どうして…偶然…まさか…3つともなんてありえない…えっ!!」
「「しっ!!」」
「どうした?フレッド。声抑えろ」
「は、はい。フィル先輩、あいつです。メリーさんにプレゼント贈っていたやつです。『メイベル』に贈った物と同じアクセサリーをどうしてこの子たちが?って」
フレッドが『メイベル』さんの名前を言う時だけ一層小声で言った。
「なるほどな。ま、予定通り合流してカフェに行くぞ。もし着いてくるようならマイクとフレッドは出来るだけ情報を引き出してくれ」
「「了解です」」
「おーい、待たせたな。こいつらがピンボールにハマっちゃってさ」
「「え?」」
『まあまあ、そういうことで』
「遅ーい」
『あの人ずっとこっち見てるの』
「もうカフェに入りましょうよ」
『うわ、ピクッてなったわよ』
「お腹空いた~」
『顎を弄りだしたわ。考えてるみたい』
気持ち大声で周りに聞かせながら、早口の小声を挟んでパシパシとやり取りした僕たちは、連れ立ってカフェに入って行った。
お昼より少し早めに入ったので待つことは無く、僕たちは奥のボックス席に案内された。
メニューを広げていると例の男も入ってきたが、お一人様用の入り口近くの席に案内されていた。
カフェに入ってからは、距離もあった上に男の思考が意識の深いところに入ったようでフレッドには読み取れず、黙り込んでいたので情報の引き出しようがなかった僕の片耳も早々に撤退させた。
おすすめメニューや季節限定メニューを頼んだ僕たちは、ワイワイと適当に喋りながら卓上でメモを交わした。
女の子たちのアクセサリーはやっぱりメリーさんから貰った物だった。
メリーさんは自分で着ける気が無いので、頼み事のお礼とかでばら撒いてるみたいだ。
気持ち悪いのは気持ち悪いんだろうけど、物に罪は無いからなあ。
ん?そういえばフィル先輩は試して悪かったなって謝ってくれたけど、この子たちからは何も無いな。メリーさんも…ま、いいか。フィル先輩が主導だったってことか。
【Mの火事とNの取り潰しと謎のプレゼントは繋がってるか?】
フィル先輩がメモ用紙の真ん中に走り書きした。
【Mの周りがキナ臭くなったのとプレゼントはほぼ同時期だった。プレの方が後かな】
メリーさんと一番親しいメイが書き込んだ。
【N家がおかしくなったのは、火事の後だった。ターゲットを移されたんだと思う】
フレッドが書いた。
【伯爵家はターゲットにされていると思うか?】
フィル先輩にフレッドが答えた。
【僕だけだったと思う。まだ僕に利用価値があるかどうかで、ただの窃盗だったのかN関係かの狙いが絞れるかも】
【!!!私、あの男を知っているかもしれない。ああ、もう書いてられない。話す】
サラが慌てて書き込んできて、そのまま話し出した。
「身振りとか骨格とか、顎の上を向いた時のラインとかに見覚えがあるのよ」
【Mに来ていた行商人だわ。私いつも荷物運びしていたから何度も会ってるのよ】
サラは器用に話ながら書き続けた。
【あの人は日用品だったけど、隣の宝飾品の人が奥様にいろいろ勧めてたし、お嬢様の名前もその場で出たかも】
「しれないわ。探りを入れていた方とも繋がっていたのかも」
「お疲れ、サラ。もう料理が来るから食べようか。ちょっと食べながら考えてみるよ」
フィル先輩がサラの猛ダッシュ書き込みを労っていると、ちょうど料理が届いた。
デザートまでしっかり食べた僕たちは結構長居したので、例の男は先にカフェを出ていた。
「さっきちょっとカードで稼いだからここは奢るよ。で、このまま伯爵家まで帰ろう」
フィル先輩がカッコいいことを言ってくれた。
「ありがとうございます。尾行させるってこと?」
「ありがとうございます。その後で執事長がどう動くかよね」
「ありがとうございます。あ~、奢りならプリンもう1個食べれば良かった~」
マリ…食べきれなかった分をサラにあげてたのに…デザートは別腹ってやつか。
「尾行させた後で俺があの男を尾行する」
フィル先輩の一言に僕は反応した。
「尾行返しですか!あ、お会計ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「律儀だね、マイク。僕もごちそうさまでした。僕の顔に無反応だからN関係じゃないかもしれないけど、気を付けてください、フィル先輩」
「おう。まだ雨降ってるな。帰りは組み合わせ変えるか?やっぱ相合い傘だろ?」
「いや、別にバラバラでいいですけど?」
「歩きやすかったから同じでもいいけど?」
「ゆっくり歩きたいから1人がいい~」
「おやおや?じゃあサラとマイクは相合い傘で、あとはバラバラで帰るか」
「「いやいや、僕/私もバラバラで!」」
思わず揃ってしまった僕とサラは、みんなに揶揄われながら伯爵家まで帰った。
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