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僕とフィル先輩の話
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その夜、僕とフィル先輩は、月明かりに照らされた温室脇の木箱に座っていた。
「お疲れ。呼び出して悪かったな。俺とマイクの関係はネルソン子爵家とは直接じゃないから、別で話したかったんだ。言いたいこととか謝りたいこととかもあったし」
フィル先輩は、僕の隣に立て掛けてある鍬に目線を逸らしながら言った。
僕はフィル先輩の長い睫毛をぼんやりと見ながら応えた。
「お疲れ様です。僕も話したかったので大丈夫です」
「うん……とにかく言いたいのはマイクを恨んでないってことだ。マイクのせいで姉が死んだとは思っていない。親族が犠牲になったことも俺が殺されそうになったことも。むしろ…姉が命懸けで守ったお前が生きていてくれて良かったと思う。マイクは俺の姉を写真で見たと言っていただろう?持っているのか?」
「いえ、持ってません。僕を育ててくれた人に見せてもらいました」
「……その人から何か姉の話を聞いてないか?姉は俺が小さい頃から奉公に上がっていたから、たまの里帰りの時ぐらいしか会えなくて…あまり覚えていないんだ」
「その写真には3人の若い女性が笑顔で写っていて、裏にO、S、Fと頭文字が書いてありました。僕の母のオランディーヌ、僕を育ててくれたサティ、そしてフランさんです。母が結婚して少し経った頃の写真だと思います。僕の母とサティは学園の同級生でしたが、フランさんは母が王妃になってからの関係ですから。サティは“辺境伯の子供たち”でした。だからフランさんは最期の時にサティに僕を託したんです。思い出話のようなことは…すみません、聞いてません。でも、もしもフィル先輩とサティが会うことがあれば話してくれると思います。厳しいけど優しい人なので」
「そうか…」
「あの…謝りたいこととは何でしょうか?」
「ああ、ふっ。お前、俺のこと謎だと思ってたらしいけど、お前もめちゃくちゃ謎で怪しかったぞ」
そう言われて眉間に皺を寄せて首を傾げる僕を見たフィル先輩は、急にいつもの調子に戻って明るく笑った。
「15だって言ってただろう?ちょっと無理があったな。そりゃその年でもデカいやつはいるけど、人間が出来すぎてるっていうのがどうにも不自然でなあ。フレッドがあざといことしたら大抵のやつは顔で笑ってても心の中じゃ(ゲッ)とか思うのが普通なのに、優しいままだったって言ってたしな。確かにお前のオーラも綺麗なんだけど、フレッドと俺とでよくよく観察しているとどうも裏がありそうだって気付いたんだ。浅いんだよな。二重底の上しか見せられてない感覚が拭えなくていろいろ試したんだ。すまない。それを謝りたかったんだ」
「試した、っていうのはあのメイドの女の子たちのこととかですか?」
「うん。しかしあいつら下手だったな。訓練不足だな」
「やっぱり4人を見送る僕を影から見ていたのはフィル先輩だったんですね。あの建物で立ち聞きした時も何か試していたんですか?」
「あ~、あれはローランドがフレッドを嵌めるために俺たちを利用しようとして振ってきたんだ。面白いものが見られるかもよ、って。あいつも小柄だからカツラ被って本当にフレッドの振りしていたんだ。声真似までして。でもお前、フレッドの声じゃないって気付いてたみたいだったから建物の中を見せなかったんだ。あの時点で偽物だとか何だとか下手に騒がれると捕り逃がすから」
「ただの人違いだと思ったからそのまま帰りましたもんね。じゃあ泥棒事件の前日にフレッドとわざとすれ違わせたのは?」
「それは親方だろう。夜にフレッドを連れ出す時にお前に潰れていてほしかったんだろ。俺まで巻き添えで筋肉痛になったぞ。ま、気になってることはそれぐらいか?」
「そういえば僕にフレッドのことで証言を頼んできましたよね?」
「流されなかったな~。本当にただのタッパのあるしっかり者の善人なのかと思ったよ!」
「そうじゃないみたいに言わないでください。僕も聞きたいことがあるんです。フレッドの父親のネルソン子爵は…どうなっているんですか?」
「“裏”では調べていないのか?」
「僕は知りません。一通りの訓練は受けていますが、教えられていたのは必要最低限のことだけで、そういう深い情報は僕には入ってきませんでした。その状態で奉公に出されたので、伯爵家に来てから途切れ途切れの情報を繋ぎ合わせていただけなんです。だから肝心なことが分かっていないんです」
「ネルソン子爵は獄中死した…ことになっているが、子爵家の取り潰し騒ぎで葬儀も適当に済まされたらしい。フレッドの兄たちは王都で秘かに情報を集めているところだ」
「お疲れ。呼び出して悪かったな。俺とマイクの関係はネルソン子爵家とは直接じゃないから、別で話したかったんだ。言いたいこととか謝りたいこととかもあったし」
フィル先輩は、僕の隣に立て掛けてある鍬に目線を逸らしながら言った。
僕はフィル先輩の長い睫毛をぼんやりと見ながら応えた。
「お疲れ様です。僕も話したかったので大丈夫です」
「うん……とにかく言いたいのはマイクを恨んでないってことだ。マイクのせいで姉が死んだとは思っていない。親族が犠牲になったことも俺が殺されそうになったことも。むしろ…姉が命懸けで守ったお前が生きていてくれて良かったと思う。マイクは俺の姉を写真で見たと言っていただろう?持っているのか?」
「いえ、持ってません。僕を育ててくれた人に見せてもらいました」
「……その人から何か姉の話を聞いてないか?姉は俺が小さい頃から奉公に上がっていたから、たまの里帰りの時ぐらいしか会えなくて…あまり覚えていないんだ」
「その写真には3人の若い女性が笑顔で写っていて、裏にO、S、Fと頭文字が書いてありました。僕の母のオランディーヌ、僕を育ててくれたサティ、そしてフランさんです。母が結婚して少し経った頃の写真だと思います。僕の母とサティは学園の同級生でしたが、フランさんは母が王妃になってからの関係ですから。サティは“辺境伯の子供たち”でした。だからフランさんは最期の時にサティに僕を託したんです。思い出話のようなことは…すみません、聞いてません。でも、もしもフィル先輩とサティが会うことがあれば話してくれると思います。厳しいけど優しい人なので」
「そうか…」
「あの…謝りたいこととは何でしょうか?」
「ああ、ふっ。お前、俺のこと謎だと思ってたらしいけど、お前もめちゃくちゃ謎で怪しかったぞ」
そう言われて眉間に皺を寄せて首を傾げる僕を見たフィル先輩は、急にいつもの調子に戻って明るく笑った。
「15だって言ってただろう?ちょっと無理があったな。そりゃその年でもデカいやつはいるけど、人間が出来すぎてるっていうのがどうにも不自然でなあ。フレッドがあざといことしたら大抵のやつは顔で笑ってても心の中じゃ(ゲッ)とか思うのが普通なのに、優しいままだったって言ってたしな。確かにお前のオーラも綺麗なんだけど、フレッドと俺とでよくよく観察しているとどうも裏がありそうだって気付いたんだ。浅いんだよな。二重底の上しか見せられてない感覚が拭えなくていろいろ試したんだ。すまない。それを謝りたかったんだ」
「試した、っていうのはあのメイドの女の子たちのこととかですか?」
「うん。しかしあいつら下手だったな。訓練不足だな」
「やっぱり4人を見送る僕を影から見ていたのはフィル先輩だったんですね。あの建物で立ち聞きした時も何か試していたんですか?」
「あ~、あれはローランドがフレッドを嵌めるために俺たちを利用しようとして振ってきたんだ。面白いものが見られるかもよ、って。あいつも小柄だからカツラ被って本当にフレッドの振りしていたんだ。声真似までして。でもお前、フレッドの声じゃないって気付いてたみたいだったから建物の中を見せなかったんだ。あの時点で偽物だとか何だとか下手に騒がれると捕り逃がすから」
「ただの人違いだと思ったからそのまま帰りましたもんね。じゃあ泥棒事件の前日にフレッドとわざとすれ違わせたのは?」
「それは親方だろう。夜にフレッドを連れ出す時にお前に潰れていてほしかったんだろ。俺まで巻き添えで筋肉痛になったぞ。ま、気になってることはそれぐらいか?」
「そういえば僕にフレッドのことで証言を頼んできましたよね?」
「流されなかったな~。本当にただのタッパのあるしっかり者の善人なのかと思ったよ!」
「そうじゃないみたいに言わないでください。僕も聞きたいことがあるんです。フレッドの父親のネルソン子爵は…どうなっているんですか?」
「“裏”では調べていないのか?」
「僕は知りません。一通りの訓練は受けていますが、教えられていたのは必要最低限のことだけで、そういう深い情報は僕には入ってきませんでした。その状態で奉公に出されたので、伯爵家に来てから途切れ途切れの情報を繋ぎ合わせていただけなんです。だから肝心なことが分かっていないんです」
「ネルソン子爵は獄中死した…ことになっているが、子爵家の取り潰し騒ぎで葬儀も適当に済まされたらしい。フレッドの兄たちは王都で秘かに情報を集めているところだ」
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