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勇者様、ピンチです!~その頃ピンチの3人は~

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○○国の国王陛下一行を乗せた馬車は一旦王宮に入りましたが、目立たない普通の馬車に乗り換えて、本土の西端にある王家の別邸を目指して再度出立しました。

ちょうどその頃、本土とその西に位置する瘴気で侵された土地とを分断する川を、本土に張り付くように北上している小舟がありました。
意識の無いゆうちゃんを抱え込んだまま一晩中森に沿って馬を走らせた賊は、□□国の北端に出ると小舟に乗り換えていました。

「なあ、こんなに意識って戻らんもんなんか?」
「戻ってるけど、体力温存してるんでしょ?勇者様。あと、あたしらが不用意なことを喋らないかって探ってる?ふふ、意識の無いふりなんてしてなくても手荒なことなんてしないわよ。怪我をさせるなって言われてるし」

「へえ。また私に何かさせようって魂胆か。何?魔王でも復活したの?」

意識を失っているふりをしていたゆうちゃんは、ごろりと起き上がって舟底に座って穏やかに話しました。
手首しか拘束されていませんでしたが、小舟の上では逃げ場も無く、4対1では抵抗しようという気にはなりませんでした。

「そうみたいね。あっち側の土地からすごく瘴気が出ているし。ま、心配しなくても聖女様も一緒に行くから浄化してもらえばいいわ」

「は…?聖女様?って…まさか…ラウラ?…」

もしそうだったらマズいかも…とゆうちゃんは思いましたが、路地裏に落としてきた通信用のボタンにせいちゃんか、れいちゃんが気付いてくれることに賭けるしかありませんでした。

「聖女様の名前は知らないわ。他所の国の人だし、どうでもいいし」
「そうか。…ねえ、私の口は塞がなくてもいいの?」
「叫んだって誰にも聞こえないわ。みんなあの瘴気が怖くて内地の方へ引っ込んでいるから。風向きによっては危なかったけど、川が使えて良かったわ」

普通に会話をしている紅一点の女性をじっと見つめたままで、ゆうちゃんは単刀直入に聞きました。

「ふうん。……ねえ、誰を人質に取られてるの?」
「「「「は…?、」」」」

4人の賊はギョッとした顔でゆうちゃんを見ました。

「うわ、4人ともか。そうでもなきゃこんなことしないでしょう?あの国に5年もいたんだからやり口ぐらい分かるよ。あんたたちがホントはいい人だってこともね。殴り方は優しかったし、馬に乗せて運ぶ時も丁寧に抱えてくれていたし、今だってこんな緩い拘束しかしていないでしょ?目的地に着く前にちゃんと私を拘束しておいた方がいいと思うよ」
「それはそのつもりだったけど。勇者様も脅されて魔王の討伐にいったのね?」
「まあね。目の前で親切にしてくれた人や子どもが傷付けられていったらどうしようもないよね。勝手に召喚しておいてさ。で、どうにかこうにか魔王を倒して戻ったってのに、女なら要らない、出て行け、だよ。男尊女卑のワンマン暴君国王だよね」
「ふふ、結構言うわね。助けてあげたいとろだけど…お察しの通り妹が捕まってるんだ。悪いわね」
「ここは悪く思わないでねって言わないんだ」
「はは、ホントだね」
「おい、もう大分目的地に近付いてきたぞ。しっかりと縛り直しとけ。おしゃべりは終わりだ」
「「了解」」

ゆうちゃんと女性は、一番大きな男の声に同時に答えて小さく笑いました。



~~~~~~~~



目的地である川縁の王家の別邸に着いたのは、ゆうちゃんたちよりも国王の一行の方が先でした。
賊の大男に俵のように抱えられて上陸したゆうちゃんは、待ち構えていた一行の中にラウラとダニエルの姿を見付けました。

国王の前に下ろされたゆうちゃんは、両手両足を拘束された上に猿轡も填められていました。

「遅かったな。まあいい。久しぶりだな、勇者。勇者の猿轡を取ってやれ。どうやら貴様の詰めが甘かったようだ。もう一度魔王討伐に行って、この瘴気をどうにかしてこい。選択肢など無いことは分かっているだろうな?忘れているようなら思い出させてやるが?」

そう言うと国王は刀を抜き、ダニエルの耳にピタリと当てました。

「分かっているから刀を仕舞ってください。で?どうしたらいいんですか?」
「ふん、瘴気が酷いから特別に聖女を付けてやるから2人で行け。どうにも出来ずに戻ったら3人とも命は無いし、逃げたらこの騎士の命は無いぞ。貴様が乗ってきたその舟を使え」
「拘束を解いてください」
「まだだ。舟を川中に押し出してから聖女の拘束を解いてナイフを渡してやる。聖女に解いてもらうんだな。貴様の武器はどうせそのバングルの中に入ってるだろう?」

ゆうちゃんとラウラが舟の方に連れて行かれると、国王は高みの見物とばかりにテラスの椅子に腰掛けました。



この賊どもはまだ使える。聖騎士とやらも使い道がありそうだ。勇者は…ここまでか?押さえとしてまだ置いておくべきか…。
しかし、女だったのは大誤算だったな。私には王女1人しか子がおらん。女と女では子が成せん。
女勇者を養ってやる義理は無いが、もし子を産むようなら奪おうと見張りを付けていたけれど、なぜか住み処だけはとうとう分からんかったな。
聖女は駆け落ちしたことになっているし、まだまだ使えるだろうから、このまま囲っておくか。人質は…誰でもいいな。聖女なら見捨てられんだろう。
せっかく調子良く□□国を攻める準備が進んでいたのに、あの土地からの撤退を余儀無くされるとはな…だが、あの瘴気さえ消えればあの土地は私のものだ。
そしてそれを足掛かりにして□□国の川向こうに広がる南の辺境を手に入れてから南下して…ゆくゆくは私がこの小大陸3国を統べる王となるのだ。



妄想が止まらない国王はクスクスと笑みをこぼし、その反動で持っていたカップからお茶をこぼして癇癪を起こしました。



~~~~~~~~



手首の拘束を解かれ、ナイフを持たされたラウラは、舟底に転がされているゆうちゃんにすり寄りました。

「んーんーん、んん、んんんんん」
「ラウラ、先に自分の猿轡外しなよ。何言ってるのか分かんないよ」
「ん!……はあっ!ゆうちゃんさん!今解きますね!」
「とにかく私の手を早く解いて」
「はい!」

ラウラに手の拘束を解いてもらったゆうちゃんは、バングルに填め込まれた石に触れてアイテムボックスを開いて、ガスマスクを2つ取り出してラウラにも渡しました。

「瘴気は皮膚からも入ってくるから。気休めだけど少しは保たせられるから」
「ゆうちゃんさん!ありがとうございます
…ううっ…ごめんなさい!私、聖女の力がちょっとしか無いから浄化出来なくて…」
「ラウラ泣かないで。体力持っていかれるよ。こうなったらしょうがない。やれるだけやってみよう。私ね、運命論者なんだ。ここで死ぬ運命なら死ぬだけだし、死なないんならどうにかなるよ」

ゆうちゃんは拘束を解くと、出来るだけの装備を身に着けて、ラウラにも動きやすい服に着替えさせました。
ラウラに舟を漕いでもらっている間に通信用の機材を立ち上げたゆうちゃんは、もしかしたら路地裏に落としてきた通信用のボタンを見付けてもらえているかもしれない可能性に賭けて、電源を入れました。
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