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お嬢様、モテ期です!~聖騎士ダニエルの想い~

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あらら、これは作り過ぎたわね…と、れいちゃんはキッチンを見渡しました。

ドライフルーツが上手に作れたのと、珍しいナッツを市場でしこたま買い込んだのと、木苺の群生地を見付けてジャムを作ったのとが重なって、あれもこれもとクッキーやらパウンドケーキやらを作りまくり、気が付いた時にはテーブルに置き場も無いほどの量になっていました。

魔法で保存することも出来るけれど、とっても美味しく出来たからみんなにも食べてもらいたい!せいちゃんとゆうちゃんはもちろんだけど、ラウラにも持っていこう!と、れいちゃんはウキウキとラッピングをしました。

せいちゃんはお昼寝中で、ゆうちゃんは留守だったので、リビングに2人の分を置いたれいちゃんは、魔法のトランクにお菓子をたくさん詰め込んで、新聖女ラウラのいる神殿へと向かいました。



その頃神殿では、聖騎士ダニエルが誰にも気付かれないようにそっとため息をついていました。

『ああ、あの方は今頃どうしているのだろうか。追放された勇者様との暮らしは辛くはないのだろうか。…許されざるいばらの道へと分け入ってでも添い遂げたいほどの想いとはどれほどのものなのだろうか。…私ならばそんな苦労はさせないのに…!』

そう、聖騎士ダニエルは市場で出会った時かられいちゃんに恋をしてしまっていました。
輝くプラチナブロンドの髪、こちらを真っ直ぐに見つめてきたサファイアの瞳、勇者様の名を“ユウチャン”と愛しそうに呼ぶバラ色の唇。
一目会ったあの日から、ダニエルの心には恋の花が咲いてしまったのです。

そしてダニエルは、女勇者であるゆうちゃんとれいちゃんが道ならぬ恋の果てに結ばれて、2人でひっそりと暮らしていると思い込んでいたのでした。

「ダニエル、どうしたの?元気が無いわね」
「ラウラ様…いえ、なんでもありません。ご心配をおかけして申し訳ありませ…」

「こんにちは、ラウラ!元気?お菓子をたくさん作ったからお裾分けに来たわよ!」
「れいちゃんさん!こんにちは。まあまあ元気よ。やっと慣れてきたわ」
「え?“まあまあ元気”なの?まだ疲れが残ってるんじゃない?疲れた時には甘いものよ!あら?こちらの方は…前に市場で会った聖騎士様ね。あの時はごめんなさいね。あなたと別れた後でラウラと出会ったのよ。連絡先も分からなかったし…あ!ラウラとお話中だったのよね?お邪魔しちゃったかしら?」
「い、い、いえ、と、特に話をしていた訳ではありませんのでお気になさらず!あの時のことも事情は分かっておりますのでお気になさらず!あ、あちらの方で控えておりますのでごゆっくりなさってください!」
「ふふふ、あなたはとても元気そうね。ちゃんと息を吸ってね?まだお仕事中でしょうから、よろしかったら後でお菓子を召し上がってくださいね」

ダニエルはぜぇ、はぁ、と跳ねる胸を押さえながら2人から離れました。
そして、プラチナブロンドの美女2人が神殿の庭の東屋でお茶会をしているのを目の端で捉えながら、風に乗って聞こえてくる話し声に耳を澄ませました。

「(せいちゃんさんはまだ追放が解除されたばっかりで来づらいだろうけど)ゆうちゃんさんは一緒じゃなかったの?」
「うん、どこかに出掛けてるみたいでいなかったわ。多分、何か欲しい獲物を見付けて追いかけてるんでしょ」
「あら、そう。(狩りに出掛けてるなんて)心配でしょう?」
「いつものことよ。もう慣れたわ。(もしケガをしてもせいちゃんに治してもらえるし)それより、このジャムクッキーどう?木苺なのよ」
「すっごく美味しい!酸っぱいものってジャムにするとめちゃくちゃ美味しくなるよね~」
「ね~」

『なんだと…!欲しい獲物(まさか別の女?)だと?!いつものこと…もう慣れたわ…なんて冷たい声で悲しいことを…。許せない。たとえ勇者様であってもレイチャン嬢をないがしろにするなど!』

「さて、もう帰るわね。市場で何か美味しいもの買って帰ろうかしら。ご飯作るの面倒になっちゃったわ」
「自炊してるなんて大変ね」
「そうでもないわ。好きなものを好きなだけ食べられるし」
「ああ、それはいいわねえ…」
「なになに?ご飯に不満でもあるの?」
「そんなこと…あるっちゃあるわね《肉とかガッツリ食べたいわ》ヒソヒソ」
「じゃあ、今度遊びにおいでよ。ゆうちゃんに(狩りでの肉の調達)お願いしておくから」
「(獲れなかったら)無理しなくてもいいからね」
「ん~、多分大丈夫だと思うけど…。じゃ、またね」

『あの物腰を見ても、かつてはご令嬢であったと思われるのに…自炊なさっているとは!なんとおいたわしい…。しかも友と会う約束1つするのにさえ勇者様にお願いせねばならぬとは…口ごもっておられたということは、あまり良い顔をされないのか?自分は他の女を追いかけているくせに!』

女というものはすべてを言葉にすること無く、目線や目の大きさ、口角や眉の上げ下げ、仕草などを用いて、カッコ付きで会話をするのだということを知らないダニエルは、盛大に勘違いをしていました。

そこにもう1人、男性がやって来ました。

「おや?綺麗なプラチナブロンドが2人もいるではないか。ラウラ、そちらの令嬢は誰だ?」
「第一王子殿下。この方は私の友達で、名は“れいちゃん”ですわ」
「レイチャン?変わった名前だな」
「あ、あはは…れいちゃんは愛称なのです。しがない平民ですので名乗るほどの名はありませんわ」
「愛称、か。ならば私もレイチャンと呼ぼう」
「は?親しくない方から愛称で呼ばれる訳にはまいりませんわ。平民であるわたくしのことなど捨て置いて忘れてくださいませ」
「ふっ。平民じゃないだろう?話し方で分かる。だが、パーティーで見かけたことは無いな。他の国から来たのか?レイチャン。くっくっ…そんなに嫌そうな顔をするな。これから親しくなれば良いではないか」
「そんな畏れ多いことは御免被ります。では、もう帰りますので失礼致します」
「まだ良いではないか。今日は王宮に泊まっていけ。仲良くしようではないか」
「「「は?!」」」
「第一王子殿下!殿下には婚約者様がいらっしゃるではないですか!私と一緒に神殿で祈りを捧げてくださったこともあるお優しい公爵令嬢が!」
「そうです!それにレイチャン嬢は聖騎士である私が責任を持ってお送り致しますので、殿下は王宮にお戻りください」
「はぁ…婚約者がいるのに浮気するとか最悪なんだけど。送ってもらう必要も無いわ。わたくしはもうこれでしつれ…あっ!あなたは!」

4人でワアワアと揉めているところに、更にもう1人男性がやって来ました。

れいちゃんは誰なのか知っているようですが?





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