呪詛の祝言

柱こまち

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乙坂聡一編/2

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『――続報です。三か月前から捜査が難航している少女連続失踪事件に進展があったようです』

 児童連続失踪事件。この事件は、地元に住む児童(現状、女児のみ)たちが一人また一人と突発的に行方不明となったことで問題視されたモノだ。未だに、行方不明となった少女たちに何が起こったのか、それすら正確に掴めていない。よくドラマだとこういった場合に名探偵レベルの推理で事件を解決に導く警察やら主婦やらがいるけれど、どうにも地元の警察による捜査に進展はないようだった。それが、今日になって事件解決の糸口があるという旨の報道を警察側が許したようで、どのニュース番組でも取り上げられている。

「まったく嫌ね。聡ちゃんも気を付けてね? 暗いところにあんまり行っちゃ駄目よ」

 お母さんは、僕にそう言いながら箸を置いてニュースを見続けている。

 お母さんが作ってくれるご飯はいつも美味しい。たまーに、これって適当に作ってない?と思ってしまうような見た目でも、しっかりと僕の味覚に合うようにできている。最近は苦手なモノも大分食べれるようになった、もっと不味いもの・・・・・を食べてるからかな。

「お母さん、もうお仕事の時間だよ? 」

「あら、いけない! 」と言いながら味噌汁だけ最後まで啜ってご馳走様でしたと言う。お母さんはパートのお仕事をしていて朝は忙しい。今日みたいに日曜日でもお仕事に行くということで、布団の中でヌクヌクと居心地のいい温かさにによる安心感に包まれていた僕は早めに起こされた。

 玄関までお見送りに行くと、お母さんは片手を使って靴を履きながら何かを思い出したかのように僕の方に振り返る。

「あ、そうそう。聡ちゃん今日誰かと遊びに行くって言ってたよね? 」

「うん。学校のお友達と一緒に遊ぶんだ」

「そうなんだ。でも、あんまり遅くなっちゃ駄目よ? おやつの時間には帰って来なさいね。最近物騒だから……」

「うん。わかった。でもね、もうすぐ秘密基地も完成するから、みんな一生懸命なんだ」

 僕はお母さんに微笑みで返す。それでもまだ心配そうな様子だけれど、大丈夫。

「そう—―、でも心配だからできればお友達のお家で遊んでてほしいんだけど」

「大丈夫だよ、心配しないでお母さん。それに、今度の秘密基地はたくさんのお友達とみんなで作ってるんだ! 」

 僕はお母さんに向けて満面の笑みを意識して向けながら答える。この気持ちはもちろん本心からきているモノ。笑顔に理由なんかいらないけれど、強いて言うなら早く遊びに行きたくてうずうずしているのかもしれない。早く起こされて眠かった感覚も気付けばすっきりと気持ちのいいモノに変わっている。

 だって、みんなで何かを作り上げるという共同作業の成果は仲間意識を強固にすると同時にみんなが楽しく笑顔になれて全体で幸福を共有できるって狗神様が教えてくれたんだから――。

「じゃあ行ってきます。明るいうちに帰って来なさいね。あと、帰ったらちゃんと戸締まりしておくこと。お母さんとお父さん以外は知ってる人でもお家に入れないようにね! 」

 お母さんが外側から玄関のカギを閉めると、そそくさと走る足音が聞こえた。

 ――そう、大丈夫。大丈夫なんだよお母さん。少なくとも、このニュースの件に関して僕が危険にさらされることはない。・・・・・・・・・・・・・・・・


 さて、僕も行く準備をしよう。幸福しあわせを感じに行かなきゃ。






 児童連続失踪事件

 失踪者名簿一覧

 宗岸このえ(11才)

 春原京香(11才)

 茅木美香(10才)

 向坂小百合(10才)

 池崎ののか(9才)

 七崎美音佳(9才)

 計6名


 報告:少女連続失踪事件の被害者と思われる少女たち6名は、いずれも久留須小学校の児童とされており、失踪したと思われる時間帯が小学校から下校するタイミングである。第三被害者と思われる池崎ののかの失踪届が提出された翌日から小学校側の対策として集団下校がこの二か月ほどの期間実施されているが、未だ失踪者が続出している。このことから、警察内部では失踪事件ではなく誘拐事件を前提に捜査されているが、マスコミ関係には失踪事件として報告するように指示が出ている。

 誘拐時の共通点として、いくつか挙げられている。

1、被害者たち6名は平日の雨天時に行方を眩ませている。

2、被害者たちは全員小学生の女児である。

3、被害者たちは一人で下校している。集団下校実施後は、自宅の前まで送ってから行方を眩ませている。被害者が自宅の中に入った痕跡はなく、自宅に入る直前に被害に遭っている模様。


 以上のことから、捜査員は久留須小学校に通う女児の自宅、主にマンションやアパートなどの集合住宅の玄関前で待機し、様子を伺うという対応になった。


 実施後の経過報告:実施後、誘拐の頻度は減ったものの捜査員の人数が不足していることもあり、捜査員が配置されていない家に住む少女が3人行方不明となっている。捜査員の配置場所等の捜査情報が漏れている可能性がある。今後は情報の統制状態及び漏洩防止について十二分に警戒し、早急な犯人の特定に努める。

 犯人についての情報は未だ掴めていない。小学校を基点とする周辺地域の住民から、目撃情報などは一切入ってきていないという不自然さに注目する必要があるだろう。





 午前10時頃。朝とも昼とも言いづらい微妙な時間帯。この時間帯に二人の友達と秘密基地で待ち合わせをしている。空は快晴で夜になれば星がハッキリと見えそうなくらい気持ちのいい天気だ。一応目立たないところではあるが、垣根をちょっと超えるだけで人通りの多い大きな道路に出る。逆に、その反対側に出ると大きな墓地が広がっている。秘密基地としてはうってつけの立地だった。

「聡一くんお待たせ! 」

 綺麗な気力に満ちた女の子の声がする。振り返ると、女の子が一人と男の子が一人立っていた。

 女の子の方は、野中木南さん。僕より一年上で運動が大好きでいつでもどこでも元気いっぱいな印象がある先輩だ。

 男の子の方は、前川悟志くん。僕より一年下だけど、冒険することが大好きで彼の方から僕と遊びたいとお願いしてきた。

「みんな集まったね。二人は何時まで遊べるの? 」

「あたしは、お昼の2時までかな。最近危ないからね」

「ぼくは3時までってお母さんに言われた。それより早くひみつきち作ろうよ‼︎ 」

 悟志君は秘密基地を作ることをかっこいいことだと思っているのか興奮気味で今にも飛び出してしまいそうな勢いだ。きっと、作業が始まればとっても幸せそうな笑顔を見せること間違いない。

「よし! じゃあ、始めようか。まずはこの街中から壊れたレンガや空き缶とか、何か使えそうな物を集めてくるんだ」

「ねぇねぇ。レンガとか空き缶って、何に使えるの? 」

 悟志君が不思議そうに問を掛ける。たしかに、何に使うのかイメージしづらい人もいるだろう。

「そうだねぇ……。レンガは椅子にもできるし、奥のブルーシートが飛ばされないように抑える錘として使えるよね。空き缶はいろんな遊び道具に工夫できるからいいね。例えばちょっとした楽器にだってできるんだ」

 スゴイ‼︎ と羨望の眼差しを向ける悟志くん。まるで漫画のように目がキラキラしているのが伝わる。

「じゃあ、手分けしてみんなで集めてこよう。あと――怪我はしないでね・・・・・・・・
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