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第46話 次の目的地 ~アグリサイド~

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昨晩はなんかすごく疲れていた。
宿についてベッドの上で横になってからの記憶がない。
ゾルダやマリーが俺の部屋でなんか話しているような気がしたが……

朝になりベッドから起き上がると、部屋は静けさが漂っていた。
ゾルダたち3人は自分たちの部屋に戻ったのだろうか。
寝ぼけまなこをこすりながら、昨日デシエルトさんが言っていたことを思い出す。

『明日落ち着いたらでいいんだ。
 昼でも食べながら、今の状況について話をさせてほしい。
 国王様からも話が来ているのでな』

確か、そんなことを話していたと思う。
さて……
今はどのくらいの時間帯だろう。

閉まっている窓を開けると、まぶしい日差しが入り込む。
人々は街を行き来し、活気にあふれていた。
まだ建物の修復が終わっていないところが多いためか、その作業に追われている人たちもいた。

空を見上げると……
日は高く昇っている。
…………

「あーっっっっっっっっっっっ」

デシエルトさんとの約束の時間が……
全身から血の気の引くのを感じた。
一気に目が覚める。
バタバタしながら出かける準備をする。
落ち着けと落ち着けと自分に言い聞かせながら。

準備が終わると、俺は部屋を出てゾルダたちを呼びに行った。
先日はここでノックをしてすぐ扉を開けて大変だった。
いわゆるアニメや漫画のお約束シーンのような出来事だった。
さすがに今日は大丈夫だろうとは思うが、ここは慎重に。
慌てずノックだけして、話をしよう。

「コンコン」

「俺だ。アグリだ」

すると中からゾルダの声がした。

「遅かったのぅ、おぬし。
 今日は全員服を着ておるから安心しろ。
 入ってきても大丈夫じゃぞ」

ある意味普通のことだが、安心して扉を開ける。
中を見渡すと、相変わらずゾルダの横にベッタリしているマリーと
大きく伸びをしているフォルトナもいた。

「遅くなってわるい。
 昨日デシエルトさんに昼に屋敷にこいと言われていたのを忘れていた
 たぶんそのまま次に向かうと思うから準備して行こう」

そうゾルダたちに伝えると、皆が準備するのを宿の外で待つことにした。
準備はすぐに整い、全員でデシエルトさんの屋敷へと向かった。

時間も時間だったので、急いで向かうことにした。
ゾルダは特に気にすることもなく

「もう少しゆっくりでもいいじゃろぅ
 そう慌てるもんでもないのにのぅ
 そんなのは待たせておけばよかろうに」

と言い、マイペースだ。

「いや、待たせたらダメだって」

俺はさらに慌ててゾルダをひっぱりながら向かっていった。

屋敷に着くと、エーデさんが出迎えてくれた。
どうやら時間には間に合ったらしい。
とりあえずホッとする。

食堂ではデシエルトさんが俺の顔を見るなり、破顔一笑してきた。
そして手を差し伸べて握手を酌み交わすと、改めて昨日のお礼を述べてきた。

「本当に昨日はありがとう」

デシエルトさんはこう気持ちが前のめりでオーバーアクションな方なのかもしれない。
俺は恐縮しながら、ペコペコしていた。

そして、豪勢な食事が運ばれてきて、昼食が始まった。
一通り食事が終わった後に、デシエルトさんから現状の話が始まった。

「まず、魔王軍の状況だが……
 小競り合いはあるものの、表立って大きな動きを見せてはいないようだ。
 ただ、ここのようなところもあるかもしれない」

状況が差し迫るところではなさそうなのは一安心だ。
今回のように四天王クラスが動いているようだと、かなりやっかいだ。
俺自身の強さもまだそこまで強くはないようだし、レベルは合わせてほしい。
そう思いながら、デシエルトさんの話の続きを聞く。

「とにかく今のうちに魔王の拠点に向かって歩を進めてほしい。
 そのための援助は惜しまないから、なんなりと言ってくれ」

魔王の拠点と言ってもなぁ……
王様からは何も聞いてないし、デシエルトさんは情報をもっているのだろうか。

「デシエルトさん、魔王の拠点はどこにあるのでしょうか?
 王様から特に聞いてなくて、都度都度ここに向かえという話だけしかもらってなくて」

ここまで来た経緯をデシエルトさんに伝えた。
デシエルトさんは両腕を組むと悩ましい顔をしながら、言葉を発した。

「正直なところは確証はない。
 ただここからはまだ遠くの最果ての地にいるという話だ」

そういうものなのか。
こちら側にはそれぐらいの情報しかないのかな。
ただゾルダは元魔王だし、この辺りの情報はあるかもしれない。
俺は、ゾルダの耳元に顔を近づけると、小声で確認をしてみた。

「なぁ、ゾルダ。
 デシエルトさんが言っていることは本当か?」

相変わらずニヤニヤしているゾルダは、こうとうだけ俺に話をしてきた。

「まぁ、ワシが住んでおったのは、そこじゃ。
 ただゼドの奴がそこにいるかは知らんがのぅ」

ゾルダも知らないとなるととにかく最果ての地ってところに向かうしかないのだろう。

「デシエルトさん、わかりました。
 まずはそこを目指していきます」

何もしなければ、変わらない。
道中進むことで分かってくることもあるだろう。
その場その場で考えていけばいい。

「それでな、勇者様よ。
 その道中にあるムルデって街の様子を見てきてほしいんだ。
 これが、王様からの話だ」

デシエルトさんが伝えてきたのは、次なる目的だった。

「ムルデって街はこの先の山を越えたところにあるんだが、
 山の天気が荒れてしまって、行き来が出来なくなってきているらしいんだ。
 で、その荒れた天気の原因が、魔物だという話らしい」

荒れた天気か……
これは氷系の魔物かだろうか。
その話を聞いてか、ゾルダのニヤニヤがさらに止まらなくなる。

「ほぅ、魔物とな。
 どんな魔物か楽しみじゃのぅ」

俺はそんなゾルダの独り言を聞かぬふりをして、デシエルトさんと話を進めた。

「それで、その魔物を俺に退治してほしいと?」

デシエルトさんは大きくうなずき、

「そうだ。やってくれるか?
 勇者様にとっては朝飯前だろ。
 オレたちでは何も出来なかったからな」

ガハガハと笑いながら、俺の肩を力いっぱい叩く。
そんなに叩かれると痛いんだが……

「王様は、退治だけじゃなくて、ムルデの様子も見てきてほしいらしい。
 懇意にしていた領主の心配もしているようだ」

今更ながらだが、王様は本当に人使いが荒い。
俺をなんだと思っているのだか……
そんな感情も湧きつつも、前の世界の癖は抜けきれず、どうしても聞いてしまう。

「承知しました。
 王様にもお受けした旨、お伝えください」

デシエルトさんにそう伝えて食堂を後にする。
エーデさんも深々とお辞儀をして、俺たちを見送ってくれた。
一緒に来ていたリリアさんと子供たちも大きく手をふってくれた。

「じゃあ、行こうか」

俺はそうみんなに言うと、次の目的地へ向けて歩を進めた。
…………
ってそう言えば、ずっとフォルトナは付いてきているけど、ここでお別れじゃないのかな。
不思議に思った俺は、確認する。

「フォルトナは一緒についてくるのか?」

俺の方を向いたフォルトナは笑顔で

「うん。ボクついていくよ。
 母さんにもいいって言っていたし」

「いや、俺の許可は?」

肝心な方の許可を取っていないと思うんだが……

「えっ?
 許可いるの?
 ボクもいっぱい役に立ったし。
 ほっとく手はないでしょう」

その言葉を聞いてか、ゾルダがツッコむ。

「何度もヘマしておるのに、どこが役に立つじゃ。
 小娘の娘がおっては、足を引っ張られぱなしじゃ」

「ボクはそんなことないよ。ブゥー!!」

口をとがらせ頬を膨らませたフォルトナが言いかえす。
なんだか楽しい雰囲気になる。
それを見て、こんな道中もいいのかもしれないと感じた。

「今度は捕まらないでよ、フォルトナ」

そう笑って言いながら、次へと向かうのだった。
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