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第41話 この兜は…… ~アグリサイド~

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しかしここまで派手にやってくれると、俺の出る幕がない。
楽して敵を倒せているんだからいいのだろうけど……
これじゃ何のためにこの世界にきたのかわからない。

ゾルダとフォルトナからは離れて一人でがれきの上に立った。
こんなところを探しても何か出るもんではないと思うが……
ただあの場には居づらかった。

この世界に俺は必要とされていないんじゃないか……
そんな考えもよぎってしまう。

「俺じゃなくても世界は救われるんじゃないか」

魔王だってゾルダが倒せばいいんだし……
そんなに頑張らなくてもいいんじゃないかな。

転移前の世界では周りに合わせて目立たないように生活をしていた。
過度な期待をされても嫌だし……
かといってきちんとやっていないとも思われたくない。
普通にしていた……
いや、頑張っても普通だったのかもしれない。

それをいきなりこの世界に連れてこられて
勇者に祭りあげられ
期待され

いつしかみんなの期待に答えなきゃと思って、気持ちが入り過ぎていたのかもしれない。
でもどんなに頑張ったって、ゾルダの足元にも及ばない。
これからは、そこそこ頑張って、あとはゾルダに任せよう。
そんなことを考えながら、がれきを動かしては何かないかを見て回っていた。

「おい、おぬし!」

ゾルダが残っている砦のところから、俺に話しかけてきた。

「なんだよ、ゾルダ」

「今更かもしれんが、ワシと比べるなよ。
 この世でワシと渡り合えるものなぞ、片手もおらん。
 どうやっても追いつくのは無理じゃからのぅ」

なんか見透かされたような言葉を放つ。

「ただ、おぬしはおぬしなりに成長しておる。
 そのままでいけばいいんじゃ。
 あまり深く考えるな」

確かにごちゃごちゃと考えてはいたけど、その物言いはないだろう。

「何を急にそんなことを言い始めるんだ」

「それはじゃのぅ……
 おぬしとはなんとなくじゃが感覚を共有している感じがするのじゃ。
 そのおぬしから、こう青い感じというか、こう滅入っている感じがしたものでな」

確かにゾルダの気持ちというか感覚がたまに分かるときが俺にもある。
それと同じ感覚なのだろうか。

「…………」

とは言え、言葉は出てこない。

「ワシは特別じゃからのぅ。
 敵わないからって、そう気に病むな。
 世界中の人がほぼワシには敵わないからのぅ」

ゾルダなりの励ましなのかもしれないが、ちょっと気に障る。

「…………
 わかったって!
 今まで通りにやっていきゃいいんだろ!」

頭ではなかなか追いつかないが、やらなきゃいけないことは変わらない。
自分なりに覚悟を決めて、そう答えた。

「うむ、それでよろしい」

今までも前の世界じゃ経験出来ないことをやってきたんだし。
全ての経験が無駄じゃないってところを見せていかないとな。
自分の為にもこの世界の人の為にも。
そう思いながら、改めてがれきの下を見て回る。

いろいろと見て回ったが、クロウや配下たちが残したようなものはなかった。
なかったというか跡形もなくなっているというのが正解だろう。

なんともない残りの半分の砦の方にも行ってみた。
何か情報はないだろうか。

イハルの街の地図や食事の残骸などはあったが……
作戦に関すること、目的などは分からずじまいだった。

「ここが最後の部屋かな」

扉を開けてみると、そこは倉庫のようだった。
武器や防具が乱雑におかれていた。

たしか、ゾルダの配下も装備に封印されていたんだよな。
クロウは封印した装備は捨てたって言っていたけど……
念のため一つ一つ確認していくか……

確認と言っても何か手がかりがあるわけではない。
ゾルダの時にはなんか声が聞こえてきたんだったよな。
今回も声が聞こえてくるんだろうか……

一つ持ち上げては、耳を当ててみるが何も聞こえない。
耳を近づけて聞こえるものでもないし……
それこそ感覚の共有みたいなものなんだろうな。

とりあえず諦めずに一つ一つ確認をしてみる。
盾やら鎧やら籠手やら
こつこつと確認しているが、何も聞こえてこない。

やっぱりここにはないのかな。
そう簡単に見つかるものではないのだろう。
半ば諦めながら、でも一縷の望みを持ちながら確認していく。

これが最後の一つ。
手で触れようとしたときに、何か送り込まれる感覚を感じた。

「な、なんだ!?」

ビクッとなり手を引っ込めた。
もう一度触ってみる。

『……さま……ねぇ……さ……』
『ど……こ……いる……』

紛れもなくゾルダの剣を触った時の感覚だ。

「おーい、ゾルダ。
 これを見てくれ」

急いでゾルダとフォルトナを呼び寄せる。

「なんじゃ、今いいところじゃったのに」

ゾルダは不満げな顔をしてこちらに来た。

「そうだよ、ゾルダの話がクライマックスだったのにー」

フォルトナも膨れ上がった頬で、いかにも間が悪い感じをだしていた。

「この兜なんだけどさ。
 ゾルダの剣を持った時に近い感覚があるんだ。
 こう触れると声が聞こえてくる感じがする」

「本当か、おぬし」

ゾルダが兜を手に取る。

「なんも聞こえんぞ」

ゾルダにはこの声が届かないようだ。

「えーっ、そんなはずはないんだけど……」

ゾルダが持っている兜に触れてみた。

『★〇◎%&÷※@*#!!!!』

ん?
なんか言っているが興奮している感じがわかった。
聞き取れないほど、何も興奮しているんだ。
再度声を聞き取ろうとして兜に触る。

『ねえさま、ねえさま、私よ私』

今度ははっきり聞こえた。
ねえさま?

「なぁ、ゾルダ。
 この兜、『ねえさま』とお前の事を言っているみたいだけど」

ゾルダが考えるしぐさをする。
その瞬間、パッとひらめいたのか、顔が明るくなるのがわかった。

「おぬし、さすがじゃ!
 今回はおぬしの手柄じゃぞ。
 ようやった!」

どうやら配下の一人のようだ。

「なら、この兜の中にお前の配下だった者が封印されていそうだな」

「うむ、その喋り方からするとマリーじゃな。
 お前の諦めない力がマリーを見つけることに繋がったのじゃぞ」
 そういうところがおぬしのいいところじゃ」

やっぱり誰であれ褒められるのは嬉しい。
ゾルダに力が及ばなくたっていいじゃないか。
俺には俺のやれることがある。
俺にしかやれないことがある。
この世界でそれをやっていけばいいことだ。
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