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第24話 フォルトナを助け出せ ~アグリサイド~

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洞窟の最深部--
開けた広間のような場所の入口についた俺たちは中の様子を伺った。

広がった空間の中心に祠が見える。
周りには魔物の姿は見えなかった。
安心したのか気が逸ったのかはわからないが、フォルトナは祠に向けて走りはじめていた。

「フォルトナ、待て」

と声をかけた瞬間に、上の方から羽の音が聞こえてきた。

「うわー」

ズドーンと地面を叩きつける音がして、フォルトナが倒れる。
砂埃が舞い、辺りの視界が遮られる。
どうやらフォルトナに覆いかぶさるように魔物が上から降りてきたようだ。

「大丈夫か、フォルトナ!」

大きな声で叫ぶ。

「ううう……」

微かにフォルトナのうめき声が聞こえてくるも、はっきりとした返事が返ってこない。
どうやら気を失っているようだ。
しばらくすると砂埃が落ち着き、徐々に魔物の姿が現れてきた。
双頭の犬の姿をしており、背には翼、そこから尻尾にかけては蛇が生えていた。

「お前は……」

姿が徐々に見えてきたところで、ゾルダが目を見開き、声を発した。

「誰じゃったかのぅ……」

えーっと……
先日ゾルダが頭を悩まして考えようとした魔物じゃないのかな。
あれほど悩んでいたのに見ても分からないなら、考えてもわからないだろう。
つい苦笑いをしてしまう。

「えっ、ゾルダは知っているんじゃないの?」

「ワシは知らんぞ、こんなやつ」

「知らんのかーい」

思わずツッコミを入れてしまう。

「そこで何をごちゃごちゃ話している」

低い声が魔物から聞こえてくる。

「我の名はシエロ。
 オルトロスのシエロだ。
 覚えておけ」

名前付きの魔物なんて初めてじゃないか。
今まで戦ってきた魔物は種族しかなかったし。
するとゾルダが、

「おー、そうじゃったそうじゃった。
 確かにオルトロスという種族は聞いた気がするのぅ。
 名前までは知らんがのぅ」

あの……
そんなに煽るようなことを言わなくてもいいんだけど……

「ん?
 お前は先代の腰抜け魔王ではないか。
 ゼド様からは、勇者が怖くて逃げて居なくなったと聞いたが……」

そっちも煽り返すのか……

「うぁん?
 誰が逃げたじゃと!」

ほらやっぱりゾルダがキレるじゃん。
早々と魔法を打ち出す準備をしている。

「ゾルダ、ちょっと待って。
 あの魔物の下にはフォルトナがいるんだから。
 挑発に乗っちゃダメだって」

「おー、そうじゃったそうじゃった。
 すっかり忘れておった」

魔法の発動準備をしていた手を下ろして応える。

「まずはフォルトナを助け出すことが先だから」

あと、今回の目的が何なのかも聞きださないといけない。
俺はシエロに話しかけた。

「おっ……お前がグリズリーやウォーウルフを差し向けていたのか?」

「そんなことはお前には関係ないことだ。
 お前ら、この女の命が惜しくば、そこから動くなよ」

なんか悪役っぽいセリフだ。
犯人が捕まりそうになると人質を取ってよく言っている。

「それで、お前はここで何をしている?」

「我は主の命により村の結界を解き、村を襲っていたまでだ」

「そうなんだ。
 じゃ、誰の命令?」

「そんなのは決まっている。
 我はクロウ様の配下だぞ」

「じゃ、そのクロウって奴なんだね。
 ゾルダ、知っている?」

名前がついているぐらいの魔物だったらゾルダが知っているかもしれない。

「うーん……
 なんとなく聞いたことがあるような気もするのじゃがのぅ。
 しっかりと覚えていないが……
 たぶん、ゼドの取り巻きの一人じゃろ」

相変わらず記憶があやふやだな。
そもそもゾルダは魔王だったんだし、直属の配下以外は知らないのかもしれない。

「わかった。
 なら現在の魔王が関係しているってことは確かそうだね。
 ところで、そのクロウって奴は、何者なの?」

シエロに話しかけながら、フォルトナの様子を伺う。
まだ気を失って倒れているようだが、踏んでいたシエロの脚は外れているようだ。

「なに~! クロウ様は知らないのか?
 クロウ様は魔王直属の四天王のうちの一人。
 ものすごく偉い方だぞ」

シエロは説明に夢中になっている。
俺は小声で、

「ゾルダ、今のうちにフォルトナを助けられないかな。
 俺が引き付けているうちに」

「うむ、小娘の娘がおっては気持ちよく暴れられんからのぅ」

「頼むよ、ゾルダ」

そう言いながら、シエロには相槌をうって、話を続けさせた。

「へぇー、それでそのクロウ様から何を言われてここに来たんだ」

「だからそれは言っただろう。
 命令で言われたから来たんだ」

「それはどんな命令だったの?」

「うーん……」

シエロは目をつむり考え込みはじめた。

「今だ!」

俺はゾルダに合図を送った。
ゾルダは瞬く間に飛んでいき、フォルトナを抱きかかえて戻ってきた。

「し、しまったー」

「お前、アホじゃろ。
 こんな簡単な手にかかりおって」

フォルトナを降ろしながら、ゾルダがシエロに向かって言う。

「な、なんだとー」

確かにゾルダの言う通りな気がする。
シエロ自身は知能はありそうだけど、あまり頭は良くなさそうだ。
話をしている隙に、と思っていたけど、それだけでうまくいった。
もっと狡猾でずる賢いのかと思っていたけど、拍子抜けだった。

「これで心おきなく戦える」

「ふん。
 そもそも人質なんぞとらぬとも、力でねじ伏せてあげるわ」

シエロはそう言うと、大きな雄叫びを上げる。

「グォーーーー」

翼を大きく広げ、背中の蛇たちはかま首をもたげている。
俺も剣を構えて臨戦態勢を整える。

さて、俺の攻撃は通用するのか……
そう思うと、膝が震えはじめる。

「おぬし、何を震えておるんじゃ」

ゾルダが俺の様子を見て言う。

「む、武者震いだよ。
 き、気にするな」

先ほどの山のヌシと比べても同じぐらいの迫力を感じる。
あれにはかすり傷ぐらいしかあたえられなかったからなぁ……
今度もあまり通用する気はしないけど、やれることをやらないと。

「アトリビュート、サンダー」

剣が雷をまとう。
さてと、次に最近覚えたこの技で……

「紫電一閃斬り!
 おりゃー」

紫に光る稲光がシエロを目掛けて飛んでいく。
そして、翼に当たった。

「グッ……」

シエロは避ける気もなく、まともに技を受けた。

「なかなかの力だな、お前。
 でもこの程度では我にそうダメージは与えられぬ」

やっぱりそうか……
あまり効かない?
でも、翼は少し傷ついているようだ。
さっきのヌシに比べたら、効いているかもしれない。
そう思うと、俄然やる気が出てきた。

「やせ我慢してないか、シエロ。
 お前の翼、少しは傷ついているぞ」

「この程度の傷、なんともないわ」

「効いてないなら、また同じ技使ってやるよ。
 絶対に避けるなよ」

シエロにそう言うと、先ほどの技を放った。

「紫電一閃斬り!」

再び紫の雷光がシエロを襲う。
今度は反対の翼に当たった。

「ウッ……
 ふん、効かぬ効かぬ」

避けないシエロに対して、俺は何発か紫電一閃斬りを見舞う。
それも全部受け切った。

「お、お前の技など大したことない……」

やっぱりシエロは賢くない。
避けるなと煽ったら、やっぱり避けなかった。
大きなダメージでは無いけど、ちょっとずつダメージを与えられているようだ。
これはもしかしたら、行けるかも。
と思ったところに、ゾルダが割り込んできた。

「おぬし、ワシの分も残しておけ。
 ちまちまちまちまダメージ与えているようだけど、つまらんぞ」

確かにこれじゃ時間がかかりすぎるかもしれない。
でもさ、ボス級の魔物を倒せるかもしれないと思った気持ちも察してほしい。

「もう少し待ってくれよゾルダ」

「いや、もう待てぬ。
 ワシにやらせろ」

もう言い出したら聞かないんだから、ゾルダは……
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