上 下
16 / 84

第15話 北東部の丘へ ~アグリサイド~

しおりを挟む
シルフィーネ村の長のアウラさんに北西部の状況を報告した翌日。
アウラさんが教えてくれた北東部の丘にある社を探しに向かった。

ゾルダは相変わらず剣の外には出てこない。
出てこないだけならいいけど、さっきから何かしら考え込んでいるようだ。

「うーん……
 どうじゃったかのぅ。
 なんかこういうことが前にもあったような気がするのぅ……」

それにしても大きい独り言だ。

「ゾルダ、何を考えているのか知らないけど……
 頭の中に声を響かせるのはやめてくれないか」

ガンガンと脳の中をこだまするような感覚で声が聞こえるのでたまったものではない。

「ん?
 おぬしにも聞こえておったか。
 そんなつもりではなかったのじゃが……」

最近は剣の中にいても、ゾルダの声がはっきりと聞こえるようになってきた。
レベルがあがってきたことと何か関係があるのかな。
勇者としてのスキルはまだいまいちわからないが、魔王とリンクしやすくなってきたのは勇者のスキルなのかな……
そんなことはないか。

「さっきから何を考えているんだ」

それだけ悩まれるとこちらも気になってしまう。

「いや……
 ウォーウルフにグリズリーだがのぅ……
 どこかで一緒にいるのという話があった奴らじゃったと思うのじゃが、思い出せんのじゃ」

以前に何かあったのかな……

「それはゾルダが魔王をしていた頃の話か?」

何の事か、ゾルダに確認をする。

「そうじゃ!
 だしかゼドだったか、シータだったか……
 話を聞いた覚えなのじゃが……」

魔王時代の話なのかもしれない。

「ゼドは確か現在の魔王だったけ?」

以前聞いたゼドの名前が出てきたので、ゾルダに聞き返す。

「そうじゃ。
 あやつはワシの直属の部下4人に次ぐ奴じゃったが……
 考えておったら、あやつの顔を思い出してきた。
 ワシをこんなことにしおって。
 ムカつく」

ここでムカつかれても困るんだけどな。
本題はウォーウルフとグリズリーの組み合わせのことなんだけどな。

「ふぅっ……
 話がずれてきてるって。
 今、考えていたのは魔物たちの話じゃなかったけ?」

話を元に戻すために切り返す。

「そうじゃった、そうじゃった」

思い出したかのように声をあげるゾルダ。

「そう言えば、シータっていうのは誰?
 初めて聞く名前だけど」

「おおぅ、シータはのぅ……
 ワシの直属の部下の1人で、その中では一番弱かった奴じゃ」

いわゆる四天王の中で最も最弱か……
ゲームにも出てきそうな一番最初にやられるキャラじゃん。

「シータがウォーウルフとグリズリーのことで話をしてきた?」

「ゼドかどっちかじゃったとは思うがのぅ……
 他にもいくつかの魔物のことを話しておったような気がするのじゃ。
 あとそれらを纏める魔物もおったはずじゃがのぅ」

ゾルダはしっかりと覚えていない様子だ。
いろいろな話が混ぜこぜになっているのだろう。

「その話が今回のことと一緒なら、これから行く北東部の丘に、
 思い出せない魔物がいるんじゃないか?
 そして、纏めている魔物が、洞窟の中ってところだろ」

「たしかに、そうなのじゃがのぅ……」

何をそんなに真剣に考えているのか。
事前に対策を立てようとしているのだろうか。
ゾルダが考え込むようなほど強いのだろうか。

「そんなに気にすることか?
 こっちにいそうな魔物はそんなに強いの?」

もし強いなら思い出してもらえた方が助かる。

「いいや。
 ワシに比べればまったくもって弱い」

って弱いんかい。
でもゾルダに比べてだからなぁ……

「じゃ、なんでそんなに考えているんだ?」

「なんかのぅ。
 こうなんか思い出せんということが、頭の中でもやもやしてのぅ。
 ちょっとイラッとくるのじゃ!
 スッキリしたいのじゃ!」

そんな理由か……
まぁ、出てきそうで出てこないもどかしさはわかるけど。

「まぁ、とりあえず行けばわかるんじゃない。
 思い出せないんだし、考え過ぎてもよくないんじゃないかな。
 そんなのゾルダらしくないよ」

「………………
 そうか、ワシらしくないか、そうじゃな」

ゾルダの声が少し明るくなったように感じたが……

「…………
 って、ワシだって頭使っておるぞ!
 バカにしおって」

乗りツッコミかい。
と思わず苦笑いをする。
俺はそういうつもりで言ったんじゃないけどな。
考えるより行動するのがゾルダだと思ったからだ。

「ごめんごめん。
 ゾルダもしっかり頭使っているよ」

「その言い方が気に食わん。
 フンっ」

ちょっとご機嫌斜めになっちゃったな。
でも、ゾルダは考え込むより行動した方がなんとかなるタイプなんじゃないかなと思う。
あれだけ強いんだから、策はいらんでしょ。

しばらく歩くと北東部の丘の麓にたどり着いた。
丘と表現するにはちょっと違うような所だった。
小高い丘ではあるのだけど、ゴツゴツした岩が樹木のように方々に立ち並んでいる。
小さいころ見に行った火山の溶岩が固まって出来た観光名所にも似ている。

「丘って言っていたから草原のようなところだと思っていたけど……
 これだと社を見つけるのは大変そうだ」

「おぬし、その前にじゃ。
 魔物もうじゃうじゃいるぞ。
 そっちを気をつけるんじゃ」

「わかっている」

慎重になって岩場の陰から魔物がいないかの様子を伺う。
…………
んっ?

「なんか大きい蛇みたいなのがいる!?」

「おっ、あいつか。
 あいつは確かサーペントだったかのぅ。
 グリズリーと大差ないから、おぬしだけで十分じゃろ」

「えっ? ゾルダの『大差ない』って俺からすると大差ある時があるんだからさ」

「まぁ、その時は何とかするから、安心するがいい。
 ただ、噛まれるでないぞ。
 毒を持っているからのぅ」

しかし簡単に言うよ。
人の苦労も知らずにさ。
ただ、これだけの岩場があるんだし、正面切って行くよりかは、見つからずに背後から攻めよう。
近くにサーペントを見つけると、まずは背後から斬りかかる。

「やーーーっ」

一発では倒せないが、深手を追わせることが出来た。
あとは岩場を使って神出鬼没にヒット&アウェイで攻撃する。
今までの経験も活かせたのか、今まで初手は苦戦していたが、すんなり倒せた。

「なんか今までよりか楽に倒せたような」

なんだか強くなった気がして嬉しくなる。

「おぬしがそれだけ経験も積んで強くなった証拠じゃろ。
 ただ、油断するなよ。
 サーペントは結構おるからのぅ。
 ウォーウルフやグリズリーの比ではないぞ」

「えーーーっ。
 そんなに多いの?」

まだこんなのがいっぱいいるのかと思うと気が滅入る。

「これもおぬしの経験じゃ。
 片っ端から倒しておけ」

社を探しながらサーペントを倒し続けているが、なんか次から次へと湧いてくる。
しかも同じような岩場ばかりで進んでいる気がしない。
いったいいつになったら社を見つけられるのか……
先が思いやられるなぁ……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

成長チートと全能神

ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。 戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!! ____________________________ 質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...