モブな転移勇者♂がもらった剣にはチートな史上最強元魔王♀が封印されている

光命

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第5話 旅の始まり ~アグリサイド~

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昨日はいろいろとあったな。
王様に呼ばれて、魔王を倒せと言われるわ、貰った剣には元魔王がいるわで……

シルフィーネ村に向かう馬車に揺られながら昨日のことを思い出す。

あの後もゾルダにはこの世界のことを少し教えてもらった。
自分のステータスの見方も。

「ステータス、オープン」

レベルは1、パラメータも特筆するものはない、スキルも特に今はない。
経験を積んでいけば何かは得られるのだろうか。
そういえば、ゾルダが言っていたな。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ステータスの見方はわかったか?
 おぬしは特に現時点では何か凄い能力を持っていることはないようだな」

よくある飛びぬけた能力を持って転移する話。
その期待をしていたが、不発に終わったようだ。
そう世の中うまくいかないよな。

「なんだよ~。
 よくある異世界転移の話だったら、チートスキルか能力があるはずなのになぁ……」

ゾルダがキョトンとした顔でこちらを見る。

「なんじゃ、そのチーなんちゃらとか、異世界転移の話とかは……」

元の世界の話だから、通用しないのは当たり前か。
そこでゾルダに元の世界の流行りの話をしてみた。

「あっ、こっちの話。
 俺が元いた世界には、そういう作り話が流行っていて、
 転移とか転生するとものすごい力や能力を持って、
 無茶苦茶活躍するっていう話がいっぱいあってだな。
 そのすごい力をチートって言っていたのでつい言葉が出てきた」

感心した様子でうなづくゾルダ。

「そうなのか……
 おぬしの元の世界も面白そうなところだのぅ。
 頭に思い描いたものを話として世の中に広めていくのだから」

こちらの世界には小説とか物語とはないのだろうか。
伝説という感じの話はありそうだけど。

「まぁ、そういうことだ。
 しかし、そう世の中、話のように上手くいかないな」

俺は自分を納得させるように言い聞かせた。

「そういうことかもしれんのぅ……
 おっ、そうだ、ちょっと待っておれ」

ゾルダが俺の頭に手を当て、目をつむる。

「んっ……
 でも、呼び出されただけのことはあるやもしれん」

ゾルダは何かが見えたようにつぶやいた。

「それは、どういうこと?」

俺に何かがあるのか?
ちょっと期待してしまう。

ゾルダは手を当てながら話を続ける。

「ワシは完全にではないが、素養というのを見ることが出来る。
 ちょっと見たところだと、強くなっていく素養はありそうだぞ」

今は能力を発揮できないってことか。
簡単に手に入るものではないのは、元の世界でも同じだ。

「努力すればなんとかなるってことか……
 せっかく異世界来たのなら、もっと楽できると良かったけどなぁ」

頭から手を離したゾルダが、俺に向かってさらに話を続けた。

「今のままではおぬしに死なれてもワシが困る。
 強くなるようにワシも手伝うから、絶対に死ぬなよ……
 ワシはまだ元の力は出せないようだが、おぬしよりは強い力は出せるぞ。
 ザコならこの剣を振れば一瞬で狩れるから、経験稼ぎにはなるはずじゃからのぅ」

チート能力がなくても、楽に経験値を稼げるようならそれはそれでいいかもしれない。

「そこが楽できるならいいか」

楽観的に考えていこう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

素養ある分だけマシか。
努力すれば報われることが確定しているなら、努力のしようもあるもんだ。

そうこうしていると、森の手前で馬車が止まった。

「大変申し訳ございませんが、ここから先は案内が出来ません」

案内役が怯えた様子で俺に話しかけてきた。

「なんで?」

理由もなしにそう言われても困ってしまう。
案内役にそう尋ねると、申し訳なさそうに答えてくれた。

「ここ最近、通常より魔物が強くなってきたため、私どもはこの先に進むことが出来ません。
 シルフィーネ村はこの森を抜けた小高い丘の上にあります」

ここからは自力か。
経験も積まないといけないようだし、ちょうどいいか。
ゾルダも他の人がいると出ようにも出てこれないようだし。

「わかった。
 ここまででも案内してくれてありがとう。
 ここからは、1人で行くよ」

案内してくれた馬車に別れを告げて、森の中を進むことにした。
馬車は一目散に走っていった。
よっぽどこの先が怖いのだろう。

馬車の姿が見えなくなると、ゾルダが顔を出してきた。

「たしかに、この森は少しばかりいつもと違うのぉ
 ワシにはたいしたことないが、おぬしにはちょっとばかしきついかもな。
 なに、ワシと一緒なら、大丈夫だ。
 とにかく、先手必勝。受け身に回らずこちらから仕掛けていけよ」

ゾルダは気楽なもんだな。
初めての実戦になるかもしれないので、ドキドキしているのに。

「その時は頼むぞ、ゾルダ」

意を決して、森の中を進み始める。
しかし木々が生い茂り、陽の光もあまり差し込まない薄暗い森だ。
明らかに何か出そうな雰囲気がする。

「肝試しをしているみたいだ」

少し葉が揺れ動くだけで、ビクッとする。

「何をそんなに怖がっているのじゃ」

脳内にゾルダの声がする。
もし強い魔物とか出てきたらどうするんだ。
怖がるのも普通だと思うのだが……

「そりゃ、いつ何が出てくるかわからないし
 警戒しながら歩いていれば、そうなるよ」

ゾルダの声が頭に響く。
顔は見えないが、ニヤニヤしていそうな雰囲気は感じた。

「そんなに怖がらなくても大丈夫じゃ。
 ちょっと先にしか、魔物はいないぞ」

索敵能力でもあるのか、ゾルダは。

「それがわかるなら、最初から教えてくれよ」

ゾルダに対して、ちょっと文句を言う。

「おぬしもわかっているもんだと思っていたわ。
 この先に、数匹いるからな」

この世界では常識なのか。
それともゾルダだけの能力なのか。
よくわからないが、あいつにはわかるらしい。
便利な能力だ。

少し進むとそこには3匹のウォーウルフがいた。
剣を抜き構えると、ウォーウルフたちが一斉にこちらを向いた。

「ウォーウルフか。
 おぬしにはちょっと強いかもな」

いきなり強い魔物が出てくるの?
RPGの定番じゃ……

「そうなの?
 最初だし、こういう時に出てくるのはスライムなんじゃないの?」

そう、弱い敵をちまちまと倒してレベルアップする。
それがRPGの定番だろう。

「さっきも言ったじゃろ、少しこの森は違うと。
 そんな弱い物たちは、とうにこの辺りにはおらん」

もういないということは元々は居たのだろうか。
でも現実で即死モード実装はないだろうと思う。

「死にゲーじゃないんだから、初手から強いの出てこなくても……」

ため息をつきながら、自分の身の不幸に落胆する。

「ほら、そんなへっぴり腰じゃ、倒せるものも倒せんぞ。
 大丈夫じゃから、剣が当たらなくても、ワシが力を増幅させてやるから、さっさと振れ」

今はゾルダの言葉を信じるしかない。

「わかった」

不器用な構えから剣を横に懸命に振る。
剣からは、黒いオーラのようなものが立ち上り、振った先にいるウォーウルフたちに襲い掛かる。

「ギャンッ!」

黒いオーラに包まれたウォーウルフたちは次々と倒れて消滅していく。

「な、一発じゃっただろ」

ドヤァという感じの声でゾルダが話しかけてきた。

「凄いな、ゾルダは……」

俺自身が弱いのはわかっているからこそ、心の底からそう思った。

「じゃろう、じゃろう、もっとワシを褒めろ!」

そういいながら、ゾルダは高笑いをする。

「それより、おぬし
 おぬしより強いウォーウルフを倒したんじゃから、レベルが上がっているはずじゃ。
 確認してみろ」

忘れていた。
力が上がった感覚もないから、数値で確かめないと。

「ステータス、オープン」

3匹倒しただけだったが、レベルが4つも上がっていた。

「なんか数字を見ただけで、少し強くなった気がするよ」

ちょっとだけだが、この世界でやっていけそうと思った。

「まだまだ序の口じゃ、さっさと進みながら、倒して行くぞ」

うなずくと、前を向き歩き始めた。
少し強くなれたし、これで少しは楽になるかな。
次はゾルダの力を借りずに自分の力で倒せれば。
そんなことを考えながら、森の中を歩きシルフィーネ村へ向かうのだった。
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