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努力の魔法使い お嬢様?のカラミラ 3
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カラミラから話を聞いてから廊下を歩きつつ周りをよく見てみると、確かにアクアやギルマのように強そうな覇気というのだろうか、近い雰囲気を感じる人はそう多くない。
もちろん上級生は歳上というだけで余裕をもっているように見えるが、それが戦いに対しても余裕があるかはわからない。
もう少しこの学園のことを知る必要がある。
図書館に向かい学園に関する情報を載っている本がないかと調べていると、三年の女子生徒が声をかけてきた。
「何かお探しですか?」
「あ、えっと。僕、ここに入ったばかりで、もっと学園のことを知れたらいいなって」
「学園のことですか。では、私の知っていることでよければお話ししましょうか?」
図書館に設けてある別の部屋へと移った。
彼女の名はフラム。図書委員をやっているそうだ。
「この学園はお金持ちや実力のある人が来るんですよね」
「基本的にはそうです」
「基本的には?」
「例えばライカさんのように推薦状をもらって入学したり、お金持ちじゃないけど学園側が有益だと判断した生徒は入学が許可されます。まぁ、人数で言えば全体のわずか数パーセントでしょうけど」
「学園側は有益と判断する基準はどういうものがありますか?」
「あまり表に出ることはなかった才能を持っていたり、これといって優秀ではないけど、努力によってかなりの成長をしたり、何より熱意と行動がしっかり伴っている事でしょうね。口だけで何もしない人が多数派ですから」
なんともドライな言い回し。
だけど、この雰囲気はどこかアクアにも通ずるところはある。
一人でできることはそう大きくはない。
だけど、少なくとも自分がしっかりやっていないのに、多くを求めるのは無作法。
求めるなら求める資格のある人にならなければいけない。
この学園はとても自由だ。
授業は選べるし途中から入った僕でも授業に追いつけるような対策はされている。
だけど、追いつこうと思う意思と行動がなければ、追いつきたいと求めることはできない。強くなりたいという意思と行動がなければ強くなりたいと求めるにはあまりにも現実を見ていない。
「先ほど、カラミラとお話ししてましたよね」
「はい」
「あの子は特に努力で入ってきた生徒なんですよ」
「え、あんなお嬢様みたいなのに?」
「あれは憧れですよ。あの子の生まれは田舎でね。裕福な家庭でもなければ治安もああまりいい場所じゃない。到底生まれだけじゃここに来れるような子じゃない。だけど、努力でやってきた。それが学園に評価されたんですよ」
見た目だけで僕は彼女のことをお嬢様だと決めつけていた。
事実、そういう風に見える姿だし、憧れもあるのだろう。
たぶんそれ以上に、この場所でほかの生徒に下に見られないように立ち振る舞うために、強い自分を作り出したんじゃないかと思う。
アクアへの強い感情もわかる気がしてきた。
「でも、どうしてカラミラのことについてそんなに詳しいんですか?」
「私が期待している一年だからですよ。私もあまり裕福な家庭じゃなくて、無理してここに来た。私はあの子ほど死に物狂いで努力を続けられない。でもあの子ならやってのけるかもしれない。ジャイアントキリングを」
弱者が強者を倒す。
言うのは簡単だがそれはとても難しいこと。
僕は運よくアーキュさんにあえて、アクアに手伝ってもらって、観察眼があって、ギルマが正面突破をしようとしたことで勝つことができた。
もし、このどれか一つでも違えば、僕は勝てなかった。
その運を引き寄せるのもまた、努力なのかもしれない。
――
翌日、食堂で一人食事をしているカラミラを発見して目の前の席に座った。
「細身なのに結構しっかり食事は食べるのね」
「最近はよく動くしね」
「そう」
どことなく元気がないように見えた。
僕のことを気にする余裕もあまりないようだ。
「何かあった?」
「何かって何よ」
「だって、なんか元気がないなぁって」
「……はぁ。実力差を見せつけられたというべきね」
「誰に?」
「アクアよ」
カラミラは午前中の授業のことを話してくれた。
僕とギルマが戦い僕が勝利したことはなんだかんだ広まっている。
そこで先生は指定した魔法のみで限られたエリアの中でどう戦うかという限定された環境での思考力を鍛える授業を行った。
アクアはもちろん率先して参加し、カラミラはアクアとやりたいと先生に伝えた。無論、アクアは断らないしお互いの同意があるなら先生も拒否する理由がない。
そして、同じ授業を受けている生徒二十人の前でアクアとカラミラは戦った。
基礎的な魔法のみならばカラミラも自信があったみたいだけど、結果はまったくついていけなかったと言う。
「わかっているわ。私が得意なことはアクアだってできるし、アクアより優れたところがないことなんてね。でも、必死に追いつこうとしているのに、近づくどころか離れていく。こんなのあんまりだわ」
追えばいつかほんの少しでも距離が縮まる。
下から上の存在を追いかけるためには距離が縮まることを信じなければやっていられない。自分にできることはたくさんしたことだろう。
その結果が敗北。
やれることをやった上での敗北と、何もしない敗北は、圧倒的前者のほうが辛い。
弱者が強者を倒すなんてのは幻想なのだろうか。
どんな言葉をかけていいかわからない中、俺の隣にいつも通りのテンションでアクアがやってきた。
申し訳ないがいまはとてもタイミングが悪い。
とはいえ無下にもできない。
とりあえず、授業の話をしだす前にこっちから話題を振ろう。
「いつも昼は肉料理なのか?」
「うん、そうだよ。肉はエネルギーだからね。体を動かすなら絶対必要だよ」
「じゃあ、夕食はどうするんだ?」
「消化にいいものとか油分をあまりとらないようにするとかかな」
アクアがおいしそうに食べているものは鳥類型モンスターのぷりっとした肉をあじつけし揚げたも。外側はカラっと中はじゅわっと肉汁があふれ出る。スパイシーな香りが食欲をそそる。
何度かアクアが食事をするところは見ているけど、今日はいつも以上に美味しそうに、大事にそうに食べている。
「もしかしてそれ好きなの?」
「うんっ! 子どものころからね。海の近くで育ったから魚類モンスターの料理が多かったんだけど、お姉ちゃんはお父さんと違って海じゃなくて森で狩りをしてたんだ。で、たまにとってきたお母さんが作ってくれたの」
父親は漁師で姉は狩人か。で、アクアはファイター。
なんともまぁ肉体派の家系だこと。
「ここのも美味しいけどやっぱお母さんのが一番好き。は~、お母さんの料理が食べたいなぁ~」
ちょっとしたホームシックだろうか。
ふと、思った。
もしかして今のアクアは隙だらけなんじゃないかって?
僕たちはまだ一年生だ。
どれだけ卓越した才能や力があっても経験が少ない。
絶対いつかどこかで隙が生まれる。
ギルマが僕と戦う時、一度勝っているからこそ油断したようにだ。
自然と僕はアクアが食べている料理に手を伸ばした。
ごく自然に、それがあたりまえのごとく。
僕の手が料理に触れそうになった直前、もう本当にあとわずかな時、慌ててアクアは皿を持って僕から遠ざけた。
「だめだよっ! これは私のっ!」
「でも、ビュッフェだろ」
「でもだめ!」
「ごめんな。アクアがあまりにも美味しそうに食べるからさ」
「も~、そう言われたら怒るに怒りづらいなぁ」
何かが見えた。
僕は早くこのことをカラミラに伝えたかったが、この光景をどう思ったのかカラミラは何も言わず立ち去った。
「なんかカラミラ元気ないね」
「まぁ、いろいろあるんだよ」
――
カラミラを見失いしばらく探し続けた。
広大な広さを誇るこの学園と言えど学年ごとに過ごす場所はある程度限られる。
学年全員が使う場所は食堂や図書館、カフェや広場、一度見失うと授業で出会うのは難しい。どの授業に誰が出てるかなんてわからない。
気づけば夕方になっていた。
「だめだ。全然見つからない」
「ライカさん、どうしたのですか」
声のほうを振り向くとそこにノルワ先輩がいた。
「あ、ノルワ先輩。あの、カラミラって知ってます?」
「ええ、一年の中でもがんばっている子ですね」
「ちょっと話したいことがあって探してるんですけど、どこ探してもいなくて」
すると、ノルワ先輩は訝しげに見てきた。
「ストーカー?」
「ち、違いますよ! アクアに負けてからなんだか気分が落ち込んだみたいで。でも、アクアに勝つ方法があるってわかったんです」
「君やカラミラさんがアクアさんに?」
「もちろん、正攻法じゃ勝てない。でも、勝つ体験をすることで何か変わると思うんです」
「ふむ、確かにこのまま落ち込んで終わってしまうには持ったない子です。……では、私が一年の女子寮に入ってみましょう。落ち込んでいるのなら他者との関りを立つことが多いですからね」
「おねがいします!」
ノルワ先輩の考え通り、カラミラは自室にこもっていたようだ。ノルワ先輩がカラミラと一緒に出てきたときにはうっすらと星が見える程度に暗くなっていた。
ノルワ先輩はカラミラを僕へ預ける前に言った。
「まだいつも通りに振舞おうとする気力はありますが、とはいえ慎重に。無理をさせずにお願いしますよ」
暗くなりつつある中、僕はカラミラと一緒にカフェへ向かった。
もちろん上級生は歳上というだけで余裕をもっているように見えるが、それが戦いに対しても余裕があるかはわからない。
もう少しこの学園のことを知る必要がある。
図書館に向かい学園に関する情報を載っている本がないかと調べていると、三年の女子生徒が声をかけてきた。
「何かお探しですか?」
「あ、えっと。僕、ここに入ったばかりで、もっと学園のことを知れたらいいなって」
「学園のことですか。では、私の知っていることでよければお話ししましょうか?」
図書館に設けてある別の部屋へと移った。
彼女の名はフラム。図書委員をやっているそうだ。
「この学園はお金持ちや実力のある人が来るんですよね」
「基本的にはそうです」
「基本的には?」
「例えばライカさんのように推薦状をもらって入学したり、お金持ちじゃないけど学園側が有益だと判断した生徒は入学が許可されます。まぁ、人数で言えば全体のわずか数パーセントでしょうけど」
「学園側は有益と判断する基準はどういうものがありますか?」
「あまり表に出ることはなかった才能を持っていたり、これといって優秀ではないけど、努力によってかなりの成長をしたり、何より熱意と行動がしっかり伴っている事でしょうね。口だけで何もしない人が多数派ですから」
なんともドライな言い回し。
だけど、この雰囲気はどこかアクアにも通ずるところはある。
一人でできることはそう大きくはない。
だけど、少なくとも自分がしっかりやっていないのに、多くを求めるのは無作法。
求めるなら求める資格のある人にならなければいけない。
この学園はとても自由だ。
授業は選べるし途中から入った僕でも授業に追いつけるような対策はされている。
だけど、追いつこうと思う意思と行動がなければ、追いつきたいと求めることはできない。強くなりたいという意思と行動がなければ強くなりたいと求めるにはあまりにも現実を見ていない。
「先ほど、カラミラとお話ししてましたよね」
「はい」
「あの子は特に努力で入ってきた生徒なんですよ」
「え、あんなお嬢様みたいなのに?」
「あれは憧れですよ。あの子の生まれは田舎でね。裕福な家庭でもなければ治安もああまりいい場所じゃない。到底生まれだけじゃここに来れるような子じゃない。だけど、努力でやってきた。それが学園に評価されたんですよ」
見た目だけで僕は彼女のことをお嬢様だと決めつけていた。
事実、そういう風に見える姿だし、憧れもあるのだろう。
たぶんそれ以上に、この場所でほかの生徒に下に見られないように立ち振る舞うために、強い自分を作り出したんじゃないかと思う。
アクアへの強い感情もわかる気がしてきた。
「でも、どうしてカラミラのことについてそんなに詳しいんですか?」
「私が期待している一年だからですよ。私もあまり裕福な家庭じゃなくて、無理してここに来た。私はあの子ほど死に物狂いで努力を続けられない。でもあの子ならやってのけるかもしれない。ジャイアントキリングを」
弱者が強者を倒す。
言うのは簡単だがそれはとても難しいこと。
僕は運よくアーキュさんにあえて、アクアに手伝ってもらって、観察眼があって、ギルマが正面突破をしようとしたことで勝つことができた。
もし、このどれか一つでも違えば、僕は勝てなかった。
その運を引き寄せるのもまた、努力なのかもしれない。
――
翌日、食堂で一人食事をしているカラミラを発見して目の前の席に座った。
「細身なのに結構しっかり食事は食べるのね」
「最近はよく動くしね」
「そう」
どことなく元気がないように見えた。
僕のことを気にする余裕もあまりないようだ。
「何かあった?」
「何かって何よ」
「だって、なんか元気がないなぁって」
「……はぁ。実力差を見せつけられたというべきね」
「誰に?」
「アクアよ」
カラミラは午前中の授業のことを話してくれた。
僕とギルマが戦い僕が勝利したことはなんだかんだ広まっている。
そこで先生は指定した魔法のみで限られたエリアの中でどう戦うかという限定された環境での思考力を鍛える授業を行った。
アクアはもちろん率先して参加し、カラミラはアクアとやりたいと先生に伝えた。無論、アクアは断らないしお互いの同意があるなら先生も拒否する理由がない。
そして、同じ授業を受けている生徒二十人の前でアクアとカラミラは戦った。
基礎的な魔法のみならばカラミラも自信があったみたいだけど、結果はまったくついていけなかったと言う。
「わかっているわ。私が得意なことはアクアだってできるし、アクアより優れたところがないことなんてね。でも、必死に追いつこうとしているのに、近づくどころか離れていく。こんなのあんまりだわ」
追えばいつかほんの少しでも距離が縮まる。
下から上の存在を追いかけるためには距離が縮まることを信じなければやっていられない。自分にできることはたくさんしたことだろう。
その結果が敗北。
やれることをやった上での敗北と、何もしない敗北は、圧倒的前者のほうが辛い。
弱者が強者を倒すなんてのは幻想なのだろうか。
どんな言葉をかけていいかわからない中、俺の隣にいつも通りのテンションでアクアがやってきた。
申し訳ないがいまはとてもタイミングが悪い。
とはいえ無下にもできない。
とりあえず、授業の話をしだす前にこっちから話題を振ろう。
「いつも昼は肉料理なのか?」
「うん、そうだよ。肉はエネルギーだからね。体を動かすなら絶対必要だよ」
「じゃあ、夕食はどうするんだ?」
「消化にいいものとか油分をあまりとらないようにするとかかな」
アクアがおいしそうに食べているものは鳥類型モンスターのぷりっとした肉をあじつけし揚げたも。外側はカラっと中はじゅわっと肉汁があふれ出る。スパイシーな香りが食欲をそそる。
何度かアクアが食事をするところは見ているけど、今日はいつも以上に美味しそうに、大事にそうに食べている。
「もしかしてそれ好きなの?」
「うんっ! 子どものころからね。海の近くで育ったから魚類モンスターの料理が多かったんだけど、お姉ちゃんはお父さんと違って海じゃなくて森で狩りをしてたんだ。で、たまにとってきたお母さんが作ってくれたの」
父親は漁師で姉は狩人か。で、アクアはファイター。
なんともまぁ肉体派の家系だこと。
「ここのも美味しいけどやっぱお母さんのが一番好き。は~、お母さんの料理が食べたいなぁ~」
ちょっとしたホームシックだろうか。
ふと、思った。
もしかして今のアクアは隙だらけなんじゃないかって?
僕たちはまだ一年生だ。
どれだけ卓越した才能や力があっても経験が少ない。
絶対いつかどこかで隙が生まれる。
ギルマが僕と戦う時、一度勝っているからこそ油断したようにだ。
自然と僕はアクアが食べている料理に手を伸ばした。
ごく自然に、それがあたりまえのごとく。
僕の手が料理に触れそうになった直前、もう本当にあとわずかな時、慌ててアクアは皿を持って僕から遠ざけた。
「だめだよっ! これは私のっ!」
「でも、ビュッフェだろ」
「でもだめ!」
「ごめんな。アクアがあまりにも美味しそうに食べるからさ」
「も~、そう言われたら怒るに怒りづらいなぁ」
何かが見えた。
僕は早くこのことをカラミラに伝えたかったが、この光景をどう思ったのかカラミラは何も言わず立ち去った。
「なんかカラミラ元気ないね」
「まぁ、いろいろあるんだよ」
――
カラミラを見失いしばらく探し続けた。
広大な広さを誇るこの学園と言えど学年ごとに過ごす場所はある程度限られる。
学年全員が使う場所は食堂や図書館、カフェや広場、一度見失うと授業で出会うのは難しい。どの授業に誰が出てるかなんてわからない。
気づけば夕方になっていた。
「だめだ。全然見つからない」
「ライカさん、どうしたのですか」
声のほうを振り向くとそこにノルワ先輩がいた。
「あ、ノルワ先輩。あの、カラミラって知ってます?」
「ええ、一年の中でもがんばっている子ですね」
「ちょっと話したいことがあって探してるんですけど、どこ探してもいなくて」
すると、ノルワ先輩は訝しげに見てきた。
「ストーカー?」
「ち、違いますよ! アクアに負けてからなんだか気分が落ち込んだみたいで。でも、アクアに勝つ方法があるってわかったんです」
「君やカラミラさんがアクアさんに?」
「もちろん、正攻法じゃ勝てない。でも、勝つ体験をすることで何か変わると思うんです」
「ふむ、確かにこのまま落ち込んで終わってしまうには持ったない子です。……では、私が一年の女子寮に入ってみましょう。落ち込んでいるのなら他者との関りを立つことが多いですからね」
「おねがいします!」
ノルワ先輩の考え通り、カラミラは自室にこもっていたようだ。ノルワ先輩がカラミラと一緒に出てきたときにはうっすらと星が見える程度に暗くなっていた。
ノルワ先輩はカラミラを僕へ預ける前に言った。
「まだいつも通りに振舞おうとする気力はありますが、とはいえ慎重に。無理をさせずにお願いしますよ」
暗くなりつつある中、僕はカラミラと一緒にカフェへ向かった。
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