紫煙のショーティ

うー

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純愛と歪愛

第三話

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 ──ハルワイブ王国、城門前──

 クソッタレ!! まだ諦めてなかったのかよ! これだから農民出身は嫌いなんだよ! 雑草魂が旺盛すぎてな!
「将軍閣下! 反乱軍は我が先発部隊を撃破し駒を進めております! その上、国に反感を持つ者達を取り入れ数を増やして向かってきています!」
 煽動家のイウダのやりそうな事だ、帝国との戦闘で警備が手薄になって、行動に移したんだろうよ。だが、帝国との戦闘に全力を注いでいた王国にとってこのタイミングでの反乱は、とてつもなく痛い。俺の部隊だけじゃ抑えきれない。
 アイリスには救援を送ったが、今回の作戦は奴抜きじゃ意味を成さねぇ、救援は来ないものだと思っていた方がいい。
 しかし、この国にそんなに反感を持つ国民が居たなんてな。税金も安く、住みやすく自由なこの国を否定するなんて、高望みしすぎだ。
「報告! アイリス殿の救援がこちらに急行中との事!」
「あぁ!? なんだと!? 馬鹿かあいつぁ!」
 クソ! 馬鹿な娘だなホント、それでそっちが負けちゃあ意味がねぇんだぞ。だがありがたいのは確かだ。仕方ねぇ、この恩はいつか返すとしよう。
「あの馬鹿娘からの素敵で馬鹿で最高の送りもんだぁ! てめぇら気張れやぁぁ!!」

 ──ハルワイブ王国艦隊旗艦、改造空母「エペランツァ」飛行甲板──

 ワイバーンによる伝令の高速化は、今まで馬で駆けていたのに比べると比較にもなりません。地形や状況に関わらず、馬より速い速度での移動、海をも超える飛行距離、そして何よりも人目に付きにくいこと、それは伝令だけではなく様々な事に使えます。
 今回のような強襲、まるでそのために産まれたように効果のある使い方なのです。ですが、戦術というのは一度ひけらかしてしまえば、同じ手は二度連続では通用しないのが当たり前です。
 ですからアイリスがこの新造艦に戻ってくる事は予想していました。
「竜騎兵隊収容完了しました」
「ご苦労様です」
 中々帝国もやるねぇと、海を眺める私の隣にアイリスがやってきた。部隊を半分に分けたそうですね。
「貴女が無事で何よりでしたが、帝国の艦隊はどうでしたか?」
「ダメダメ、立ち直りが早すぎるよ、それに……」
 アイリスは言葉を詰まらせていました。どうしたのかと聞くと、どうやら魔王とレオンハルトが共に居たそうです。
 なるほど、アイリスが戻りたくない理由が何となくわかります。多分ですがあの二人はお互い意識せず、そういう関係になっているのでしょう。大人、ですからね。
「アリスさんの反応は正しいんだよ、異端は受け入れられない。それがこの世の中、何処でも変わらないよ」
 そう語るアイリスは突然船首に立ち、手を挙げた。そこには魔法が、彼女の得意な火の魔法により作られた大きな玉があった。
「けど私は今すっごく楽しいんだよねぇ、私を私たらしめるこの世界がさぁ? 歪な愛を貫き通せるこの世界がさ」
「楽しそうで何よりですね……さて、各員戦闘準備! 帝国に見せてやりなさい! 我々の魔法を、黎明の魔女の教えを!」
 警鐘を鳴らし、帝国の艦隊を補足した事を各艦に伝え、魔法による砲撃を行う事にしました。その一番槍はアイリスとなります。
「私の礼砲をもって世界の覇者たる帝国の国じまいだよ!! てぇぇぇ!!!」
 アイリスの合図と共に魔法使いによる一斉砲撃、本格的に帝国との海戦が始まったのです。
 帝国が鎮座する中央大陸は本来、地理的に四方八方を海に囲まれ、一つの国が治めるにはあまりにも広大なのですが、それでも私の知る限り帝国はその広大な大陸を何十年にも渡り占有し続けているのです。何故か? 何故綻びが出ないのでしょうか? 一つは帝国の皇帝によるもの、一つは内政に多大な労力を注いでいる事、そしてもう一つは帝国軍があまりにも強大すぎる事。
 どのような小国が相手でも全力をもって排除する、やはり帝国の力は凄まじいですね。
 二時間も経ずして我々の艦隊は六割を損失しました。それに比べ、帝国の艦隊は未だ無傷と言っても過言はありませんでした。
 何故、何故でしょうか。やはり戦争は質より量だと言うのでしょうか?
「竜騎兵! 発艦準備急いで! ハリーハリー!」
「一体何をしようというのですか?」
「このままじゃ私達は海上の素敵なキャンプファイヤーだよ! 帝国の連中に一泡吹かせてあげるよ!」
 そう言い制止する私を振り切り、アイリスは甲板に並ぶワイバーンに飛び乗り、部下と共に空へと飛び上がったのです。死ぬつもりですか?
 全く、血気盛んなのは兵士としては歓迎すべきですが、隊長としてはどうなのでしょうか? ここから見えるのは、アイリスらが敵軍艦の間を縫い飛び回っている光景です。大胆というか命知らずというか、あの子に付いていけるような馬鹿を、部下にした覚えはないのですがね。
 今のうちに攻撃態勢を再び整えるとしましょう。黎明の魔女の名は伊達ではないということを、教育しなくてはなりません。ここ最近アイリスに活躍を取られてばかりですからね。私だって少しだけでも、戦功は欲しいんです。
 マスケット銃が使えれば良いのですが、距離が遠くなれば命中率が一気に下がるので、殆ど当たりません。改善の余地ありですね。
 さて魔法使いの本領はその多彩な攻撃方法にあり、体内の魔力が尽きるその時までそれは可能です。勿論個人差はありますし、属性の得手不得手もあります。しかし、そこを人数でカバー出来るのが、人数を集める利点です。距離を詰められやすい騎兵相手には少し苦戦を強いられますがね。
 各艦の操舵手に船体を横に向けるよう命令し、帝国の艦隊と丁字に交わるように体制を整えました。そして、息を大きく吸い込み、
「──アイリス!!!! 戻って来なさぁぁぁぁい!!!!」
 久々の大声を出すと、流石に喉が痛くなります。しかし、喉を痛めた甲斐があったのかすぐに反転し、アイリスは帰還してきました。
 アイリスの部隊が着艦したのを確認し、帝国艦隊が向きを変える前に、私は一斉攻撃の合図を送りました。
 約数万人による魔法攻撃、これでどうにもならなければ、もはやどうする事も出来ないでしょう。その時点で、我々は敗走すべきです。
「敵艦隊多数撃沈!!」
「もう一度です!! てぇぇ!」
 間髪入れずに再び魔法攻撃を行いました。しかし、それは巨大な渦潮によって止められる事となったのです。
 最初はアイリスが魔法を放ったのだと思いましたが、どうやらそれは違うようでその渦潮の中心から一人の女が現れたのです。
「くだらん、実にくだらん……やはり人間同士の争いは見るに耐えんな……」
「っっ!? 砕氷!!」
 こんな時に、砕氷の魔女だなんて! 彼女は五百年前からこの地域に生きる古い魔女ミア、異名の通り氷を操るのに長けており、この大海原では敵など居ないでしょう。そんな魔女が現れたのです、どちら側なのか、帝国側もこちらもその時は動きを止めました、
「……懐かしい魔力を感じたと思えば、あいりすが復活なされたのか……」
 海を凍らせてその上を歩いてこちらに近付いてくるミア、その場にいる皆が気が気でないのが手に取るように分かります。しかし皆をそうさせている当の本人は、氷の階段を船体に作って登ってきました。
 何をするのかと注目される中、ミアの先程までの軍人然とした立ち居振る舞いが、嘘のようにアイリスに抱きついていました。
「あいりすぅ五百年間寂しかったよぉ」
 猫撫で声とはこういう声を言うのでしょうかね? まるで甘える猫のような声を出すミアに、私達は唖然とする事を余儀なくされました。
「五百年前はごめんねぇ? あの頃はメアリーの目もあったしぃ……ねぇねぇあいりすなんとか言ってよぉ」
「OKOKとりあえず離れようか」
 アイリスが珍しく押されています。なるほど、彼女は押しに弱いのですね? しかし、ミアのおかげで帝国との戦闘は一時とは言え止まりました。
 そこで私はミアに交渉を持ちかけることにしました。
「砕氷少しよろしいでしょうか」
「……戦争に参加しろなどというくだらん事をほざいてくれるなよ、黎明」
 っ、やはり人間同士の戦争には手を貸したくないのでしょう。彼女は五百年前から人間嫌いだったようですし。
「えっと、誰なの?」
「えっ!? あいりすひどいよぉ……ぅぅ、みあだよぉ……五百年前一緒に戦ったじゃん……ぅぅ、そんなみあの事忘れちゃったの……? ふぇぇぇぇ……」
 なんですかねこの、この無性に殴りたくなってくるミアの態度は、一体なんなんでしょうね。
 そして、何よりも彼女は五百歳を超えているんです。それがこの、ああもう! 苛立ちますね!
「ご、ごめんミア、とりあえずさ、あっち側の船を撤退させたいんだけどさ」
「そんなの簡単だよぉ、私は砕氷の魔女みあだよぉ? そんなちょちょいのちょいっ! だよぉ」
「それならば早くしてください」
「ふん、言われなくともやってやろう、押し返せばいいのだろう?」
 アイリスから離れたミアは再び凍りついた海へと飛び降り、地面に手をついた。すると、一瞬で氷が溶け、再び海へと戻った。
 ミアは氷を操る、そしてそれは水も操れるという事、船に乗る側からすればどんな海洋生物よりも恐ろしい存在です。
 さぁ彼女がどんな魔法を使うのか、私はミアに注目していました。ミアが海上に立っており、手を海面に付けると周辺がうねり始めました。
「征け」
 短い号令と共にうねりが帝国の艦隊に向けて、大きな波となり襲いかかりました。それに比べてミアよりこちら側は平穏な海そのものですよ。
 あぁ、なんて強力な魔法なのでしょう。長く生きている魔法使いの力は凄まじいですね。
「これで良いだろう。沈めることは出来んが進軍も出来ん。撤退するしかないだろう」
「おー凄いねぇ」
「でしょぉ? もっともっとほめてぇ! 頭ナデナデして欲しいなぁ……」
 アイリスより背の高いミアは自らしゃがんで、頭を突き出していました。アイリスと同じ軍帽を脱いで、です。
 アイリスはヨシヨシ、と半ば引いた顔で頭を撫でていました。しかし、アイリスと私に対する反応が違いすぎるのではないのでしょうか? いえ、まぁ、私とミアには少し因縁があるので仕方ないと言えば仕方ないのですがね。
 さて、これで帝国が大人しく撤退してくれると嬉しいのですがね──

「クソ! なんだってんだ! ここだけ大時化じゃねぇか! あの魔法使いの仕業か!!」
 まるで海原が激怒しているようだった。素性は知らねぇが、ここまでの魔法だ。かなりの奴なんだろう。だがおかげで栄えある帝国艦隊がなんてザマだ。
 列は乱れ、水夫達は対応に追われていた。俺は艦隊に指示を出しながら、どうするかを必死に頭の中で考えていた。
 このまま強行するか? いや、こんな状態じゃあ狙い撃ちされて海の藻屑だ。
 なら撤退するか? いや、ここで帝国の攻勢にブレーキをかけるわけにもいかない。それにここ最近敗走ばかりの俺だ。次が無いという事だ。だが新たに魔法使いが、それも一騎当千の魔法使いが敵に加わったのなら話は別だ。
「王国は俺達がこのまま撤退する、って考えてるんだろう……敗走すりゃ死が待ってるに違ぇねぇ」
 まず海戦なんざ仕掛けるのが間違ってたんだ。ランドパワー重視の帝国だぞ、あぁ、クソ、今更なんて言っても意味はねぇけどな。
「撤退するって思わせて上陸、出来ないかしら?」
 確かにそれは魅力的だ。だがしかし、それが出来るのならばここまで、王国にコテンパンにはやらていないだろう。
「兵は疲れきっているし、如何せん長旅だ。一度後退して補給しなきゃキツいだろうし、アシュタドラに帰還しようにも、冒険者協会と仲が悪くてな、どうにも補給をちゃんとしてくれるかもわからねぇ」
 クソ、アシュヴィ帝国の上層部にはいつも頭が痛くなる。自分達が優秀だ、とでも思っているのだとしたら大間違いだ。
 帝国領だとしても冒険者協会とはいわば協力関係だ。それを何を勘違いしたのか、帝国が戦争をするために金銭や物資の納めろ、なんて言い始めたんだ。
 そこから協会との関係は急速に悪化し、本来納める物も送られてきていないんだからな。フェーゲライン大佐も本国に帰還したらしいからな。
 まぁ、俺は協会に顔を売っていたおかげで嫌な顔はされてはいないな。
「……仕方ねぇ……このまま大陸の反対側まで移動だ! 各艦反転!!」
 さてさて、上手くいきゃあいいんだがよ──
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