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魔帝顕現
一話
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ハルワイブ王国と帝国との停戦協定が破棄され、帝国との海戦に勝利してから、数ヶ月の月日が経とうとしていた頃に、ハルワイブ王国では一つの噂が流れ始めました。
国王の部下に魔王の生まれ変わりが居る、と。それが誰を指しているのか、すぐに判明しました。
以前に比べ我が王国は強くなりました。いえ、強くなりすぎてしまいました。ワライア公国を自国領とした事、魔法使いの育成、特殊な兵科の新設、帝国との戦争での勝利、まるで「悪魔」と取引をしたかのようなスピードでした。
そしてこの世界の住人は魔王という言葉や、存在に敏感であり、噂もすぐに国中に広まり国王の耳に入る事となりました。
当然のことながら、アイリスはアレクサンダー王に呼ばれ、現在国内に広がる不穏な噂について話をしました。
「──という噂が国内で広まっておる。中にはそれを理由にクーデターを起こそうとする者まで現れおる」
「それはぁ……んぅ、難しいよね」
「うむ、難しい問題だがワシはお主を気に入っておる。無論、ワシだけではない、王国軍にとってお主やマリア、バルトロマイは重要な存在、お主らが居るだけで国の為にもなり、国民の為にもなる」
だがしかし、と国王は続けました。誰よりも国の事を思い、誰よりも国民の事を思うアレクサンダー王だからこそ、その答えはとても辛いものだったのかもしれません。
「この国の為、国民の為、お主を極刑にせねばならぬ」
「え──?」
「今や国は悪魔討伐の機運が高まり、このままでは国民が暴徒と化してしまう。それだけは避けねばならん」
私は異議を申し立てましたが、一度決定された事を覆すほど、柔らかい男ではないのはわかっていました。
アイリスは冗談だよね、と信じられないといった顔で少しずつ退いていきました。
「……すまぬ」
「……なんで私が……なんで私が死ななくちゃならないの……」
アレクサンダー王は、目に涙を浮かべて俯くアイリスを捕らえるよう兵士に命令しました。私は大人しく捕まるアイリスを見ていました。
「……アイリス」
「はは……なぁんでこうなるのかな……私はただ、皆の力になりたかっただけなのに、ただ居場所が欲しかっただけなのに……」
辛み嫉み──彼女は自身を嘲笑するように笑みを浮かべて、更に言葉を並べた。それは諦めの言葉でしたが、その時の表情はまさに絶望の淵にいるような、そんな顔でした。
今ばかりはドラクルが居なくて助かりました。こんな状況、彼女が怒り狂うに決まっていますからね。いや、だからこそアレクサンダー王は今動いたのでしょう。
「……マリア、ありがとね」
兵士に連行され、私の横を通り過ぎる際に、そんなお礼の言葉を残していきました。
彼女の後ろ姿には魔帝の風格は無く、ただただ一人の悲しい女の背中をしていました。
「アレクサンダー王、私は反対です」
「分かっておる、分かっておるのだ……ワシとてこんな事はしたくないが、国を、民を守るためだ」
アレクサンダー王も苦渋の決断だったのでしょう。
どんよりとした沈黙が続く中、それを破って入ってきたのは兵士に止められながらも、無理矢理入ってきたバルトロマイでした。
「おい!! アレクサンダー!! あの馬鹿娘が極刑たぁどういう事だ!! 説明しろ!」
「落ち着かんか、バルトロマイ」
バルトロマイもアイリスに何度か助けられ、本当の娘のように可愛がっていたのです。それがこんな事になってしまって、信じられないのでしょう。
「ふざけんじゃねぇぇ! てめぇはたった一人の女も守れねぇのか! 何とか言えやゴルァァ!! 黙ってんじゃねぇぞ!!」
兵士を振り投げながら、憤怒の表情を浮かべるバルトロマイは、既に装飾品に近い一つの剣を地面に投げつけました。それはバルトロマイが将軍を国王から任された時、式典で贈られた物でありそれを投げ捨てるという事は、アレクサンダー王の期待を、信頼を投げ捨てたと同義になります。
「俺ぁてめぇの下に付いた時言ったはずだ、俺がてめぇを王と認める限りは従ってやる、とな……あぁ、てめぇは素晴らしい王だ。だが今回の件で、俺はてめぇを王の器だとは認められなくなっちまった」
「……ふむ、それがどういう意味を持っているか、理解しているのだな?」
バルトロマイはそこまでアイリスを買っていたのですか。珍しいというかなんというか。
しかし、これはまずい、大変まずい状況です。簡単に言えば、叛心ありとして極刑に処されても文句の言えない状況を、バルトロマイは自ら作り出してしまったのです。
王国軍の中枢を担う二人が処刑になったとなれば大問題であり、王国軍は大幅にその戦力を、自らの手で落とす事となるでしょう。
昔から意思だけは固い頑固者ですので、一度決めた事をねじ曲げるつもりもないでしょうし、アイリスもあの顔を見ていたら立ち直る事も出来なさそうですし。
「バルトロマイ、お主の覚悟は理解した……マリア、お主はどうする」
「……私は……」
私は──私はアイリスを助けたいとは思っています。あの約束もありますし、しかし彼女が死ねば──ならどうする? ここで命をかけますか? 私は──
「アイリスが死ぬのだとしたら、私はこの国を出ます」
私は馬鹿ですね。いえ、多分ですが竜騎兵や遊撃部隊の皆も大反対でしょう、なんせ彼らアイリスのおかげで新たな戦法の先駆け者となり、士気も高く帝国との戦争でも英雄並の働きをしていたのですから。
「アレクサンダー王、よくお考えください。誰のおかげで帝国との戦争を勝てるものへと変えたのか、を」
「……勿論分かっている、此度の戦はアイリスの竜騎兵や作戦、そして砕氷の魔女ミアをこちら側に付け、勝利をもぎ取ったのだ」
そこまで分かっているなら何故、と出そうになりましたが分かりきっている事でした。彼が優先するのは国民だということをね。
「そうですね……失礼致します」
私は玉座の間を後にして、アイリスが連れていかれたであろう牢へ、アイリスに会いに行きました。
看守に面会を申し込み、少しすると許可が出ました。魔法使いが牢に入れられる際は、魔法を封じる手枷にて拘束し、鉄格子ではなく鉄で出来た頑丈な扉で閉じ込める事となっています。
私は魔法使い相手ならば、特別に面会が許されています。
「アイリス、アイリス」
「……マリア、どしたの……?」
鉄の扉に取り付けられている小窓から中を覗き、アイリスを呼びましたが、失意の底に沈む表情がとても痛々しい。
アイリスからすれば裏切られたのと同じ事です。国の為に力を尽くしたのに、そのせいで死刑になるのですから。
「……マリアは、私の事を親友だと言ってくれたのに」
「……私は軍属です。国王からの命令であるならば、それを受け入れる事しか出来ません」
「そっ、か……うん、そうだよね……所詮そうだよね。ごめん、信じた私が、馬鹿だった」
何も言い返す事が出来ません、アイリスのお母様と約束をしたのに、私はそれを無かったことにしようと言うのですか? 何故? 一体どうしたのいうのですか? その答えは明白です。彼女が死ねば、私の夢が、叶う──否、それはいけません。
あの約束からかなり経ちますが、深く考えれば考えるほど、夢が叶うという誘惑が大きくなっていきました。愚かです、身勝手です、嘘つきです。ですが、私の夢は誰かを犠牲にしてまで、それもアイリスを犠牲になんて出来るはずがありません。
アイリスの事を見ていましたが、俯いたままこちらを見ようともしていませんでした。仕方ありませんよね、私は今彼女にとって裏切り者なのですから。
アイリスの刑が執行されるのは翌々日、形式上とは言え明日は裁判が執り行われます。決定事項なのにする意味があるのかと聞かれれば、意味なんてありません。ただの国民に対する報告ですよ。こんな罪で死刑にします、ってね。
「明日大広場で公開裁判を執り行います、あくまで形式上ですが……」
「どうせ……死刑になるんだからどうだっていいよ、それとマリアも忙しいんじゃないの? 早く行ったら」
アイリスの口調がとても冷たい。仕方ありませんが、やはり悲しいですね。
口では私もあぁ言いましたが、助けるつもりです。バルトロマイもアイリスも、私にとって大事な友人であり、仲間なのです。手はずは完璧です。
さてアイリスを助けた後、どうしましょうか。私達が居なくなった王国の軍隊が上手く機能するかと言われれば、それは難しいでしょう。
全体的な総指揮である私、兵力の振り分けや作戦を考えるバルトロマイ、扱いが難しい竜騎兵や遊撃部隊を指揮するアイリス、私達で回っていたようなものです。
「それではアイリス、また明日」
私は牢屋を後にして、私は待機を言い渡されているアイリスの部下である、遊撃部隊の主力部隊を班単位で執務室に呼び寄せました。
勿論これは極秘裏です。それはアイリスとバルトロマイを救出し、そのまま海を超えると言う内容です。目指すのは北方大陸、ミアやドラクルが向かった場所ですね。だからドラクルがずっと居ないんですよ。全く、大事な時に居ないんですから。困ったもんですよ。
──翌日正午過ぎ、ハルワイブ城下町大広場──
「これより公開裁判を執り行う、被告人、前へ」
意味の無い裁判、死刑が決まっているのにやる意味があるのかな。
私は首枷に取り付けられた鎖を兵士に乱暴に引っ張られながら、大広場の中央に備えられた断頭台の上に立たされた。
「この者は王国の中に取り入り混乱に陥れようとした魔王であり、それは許されぬ事……よって我が国民の声を聞きたいと思う」
「殺せ!」
「そうだ魔王なんて殺してしまえ!」
はは、とてもじゃないけど理性と知性を持つ人間の言動とは、到底思えないね。もうね、言葉も出ないよ。
国王がそう問い掛けるとすぐに、集まった群衆は殺せだの首を落とせだの、乱暴的な言葉を私に向けて放ってくる。
マリアは断頭台の下で目を瞑り、眉を顰めて国民の声を聞いていた。昨日はマリアに冷たくしちゃったよ。最後ぐらいもうちょっと話していたら良かったかな? 後悔してもし切れないね。
「……お主らの声はしかと届いた。よって魔王アイリスを死刑に処す。明日の午後……それが魔王の最期となるだろう!」
私は再び乱暴にされながら断頭台から降ろされていき、下には同じ首枷を嵌められたバルトロマイさんが居た。
「おうアイリス元気か」
「な、なんでバルトロマイさんが……?」
聞くと私の死刑を反対して、アレクサンダーさんから貰った剣を投げ捨て、お前を認めない宣言を行い反逆の疑いがあるとして裁判にかけられるそうだ。
「魔王を庇護したんだ、俺も処刑されるだろうな」
「そ、そんな……バルトロマイさんは死んじゃダメだよ!」
「うるせぇ馬鹿野郎、てめぇは何回俺の事を救いやがったんだ? せめて一回ぐらいは男を見せさせてくれや」
そう言ってバルトロマイさんは、十三の階段を登っていった。明日はバルトロマイさんと一緒に黄泉への旅路かな。
そう思って歩かされていると、断頭台のギロチンが落ちてくる音が鳴り響いた。
パッと振り向き、見上げるとそこには首の無いバルトロマイさんだったモノがあった。
国王の部下に魔王の生まれ変わりが居る、と。それが誰を指しているのか、すぐに判明しました。
以前に比べ我が王国は強くなりました。いえ、強くなりすぎてしまいました。ワライア公国を自国領とした事、魔法使いの育成、特殊な兵科の新設、帝国との戦争での勝利、まるで「悪魔」と取引をしたかのようなスピードでした。
そしてこの世界の住人は魔王という言葉や、存在に敏感であり、噂もすぐに国中に広まり国王の耳に入る事となりました。
当然のことながら、アイリスはアレクサンダー王に呼ばれ、現在国内に広がる不穏な噂について話をしました。
「──という噂が国内で広まっておる。中にはそれを理由にクーデターを起こそうとする者まで現れおる」
「それはぁ……んぅ、難しいよね」
「うむ、難しい問題だがワシはお主を気に入っておる。無論、ワシだけではない、王国軍にとってお主やマリア、バルトロマイは重要な存在、お主らが居るだけで国の為にもなり、国民の為にもなる」
だがしかし、と国王は続けました。誰よりも国の事を思い、誰よりも国民の事を思うアレクサンダー王だからこそ、その答えはとても辛いものだったのかもしれません。
「この国の為、国民の為、お主を極刑にせねばならぬ」
「え──?」
「今や国は悪魔討伐の機運が高まり、このままでは国民が暴徒と化してしまう。それだけは避けねばならん」
私は異議を申し立てましたが、一度決定された事を覆すほど、柔らかい男ではないのはわかっていました。
アイリスは冗談だよね、と信じられないといった顔で少しずつ退いていきました。
「……すまぬ」
「……なんで私が……なんで私が死ななくちゃならないの……」
アレクサンダー王は、目に涙を浮かべて俯くアイリスを捕らえるよう兵士に命令しました。私は大人しく捕まるアイリスを見ていました。
「……アイリス」
「はは……なぁんでこうなるのかな……私はただ、皆の力になりたかっただけなのに、ただ居場所が欲しかっただけなのに……」
辛み嫉み──彼女は自身を嘲笑するように笑みを浮かべて、更に言葉を並べた。それは諦めの言葉でしたが、その時の表情はまさに絶望の淵にいるような、そんな顔でした。
今ばかりはドラクルが居なくて助かりました。こんな状況、彼女が怒り狂うに決まっていますからね。いや、だからこそアレクサンダー王は今動いたのでしょう。
「……マリア、ありがとね」
兵士に連行され、私の横を通り過ぎる際に、そんなお礼の言葉を残していきました。
彼女の後ろ姿には魔帝の風格は無く、ただただ一人の悲しい女の背中をしていました。
「アレクサンダー王、私は反対です」
「分かっておる、分かっておるのだ……ワシとてこんな事はしたくないが、国を、民を守るためだ」
アレクサンダー王も苦渋の決断だったのでしょう。
どんよりとした沈黙が続く中、それを破って入ってきたのは兵士に止められながらも、無理矢理入ってきたバルトロマイでした。
「おい!! アレクサンダー!! あの馬鹿娘が極刑たぁどういう事だ!! 説明しろ!」
「落ち着かんか、バルトロマイ」
バルトロマイもアイリスに何度か助けられ、本当の娘のように可愛がっていたのです。それがこんな事になってしまって、信じられないのでしょう。
「ふざけんじゃねぇぇ! てめぇはたった一人の女も守れねぇのか! 何とか言えやゴルァァ!! 黙ってんじゃねぇぞ!!」
兵士を振り投げながら、憤怒の表情を浮かべるバルトロマイは、既に装飾品に近い一つの剣を地面に投げつけました。それはバルトロマイが将軍を国王から任された時、式典で贈られた物でありそれを投げ捨てるという事は、アレクサンダー王の期待を、信頼を投げ捨てたと同義になります。
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「……ふむ、それがどういう意味を持っているか、理解しているのだな?」
バルトロマイはそこまでアイリスを買っていたのですか。珍しいというかなんというか。
しかし、これはまずい、大変まずい状況です。簡単に言えば、叛心ありとして極刑に処されても文句の言えない状況を、バルトロマイは自ら作り出してしまったのです。
王国軍の中枢を担う二人が処刑になったとなれば大問題であり、王国軍は大幅にその戦力を、自らの手で落とす事となるでしょう。
昔から意思だけは固い頑固者ですので、一度決めた事をねじ曲げるつもりもないでしょうし、アイリスもあの顔を見ていたら立ち直る事も出来なさそうですし。
「バルトロマイ、お主の覚悟は理解した……マリア、お主はどうする」
「……私は……」
私は──私はアイリスを助けたいとは思っています。あの約束もありますし、しかし彼女が死ねば──ならどうする? ここで命をかけますか? 私は──
「アイリスが死ぬのだとしたら、私はこの国を出ます」
私は馬鹿ですね。いえ、多分ですが竜騎兵や遊撃部隊の皆も大反対でしょう、なんせ彼らアイリスのおかげで新たな戦法の先駆け者となり、士気も高く帝国との戦争でも英雄並の働きをしていたのですから。
「アレクサンダー王、よくお考えください。誰のおかげで帝国との戦争を勝てるものへと変えたのか、を」
「……勿論分かっている、此度の戦はアイリスの竜騎兵や作戦、そして砕氷の魔女ミアをこちら側に付け、勝利をもぎ取ったのだ」
そこまで分かっているなら何故、と出そうになりましたが分かりきっている事でした。彼が優先するのは国民だということをね。
「そうですね……失礼致します」
私は玉座の間を後にして、アイリスが連れていかれたであろう牢へ、アイリスに会いに行きました。
看守に面会を申し込み、少しすると許可が出ました。魔法使いが牢に入れられる際は、魔法を封じる手枷にて拘束し、鉄格子ではなく鉄で出来た頑丈な扉で閉じ込める事となっています。
私は魔法使い相手ならば、特別に面会が許されています。
「アイリス、アイリス」
「……マリア、どしたの……?」
鉄の扉に取り付けられている小窓から中を覗き、アイリスを呼びましたが、失意の底に沈む表情がとても痛々しい。
アイリスからすれば裏切られたのと同じ事です。国の為に力を尽くしたのに、そのせいで死刑になるのですから。
「……マリアは、私の事を親友だと言ってくれたのに」
「……私は軍属です。国王からの命令であるならば、それを受け入れる事しか出来ません」
「そっ、か……うん、そうだよね……所詮そうだよね。ごめん、信じた私が、馬鹿だった」
何も言い返す事が出来ません、アイリスのお母様と約束をしたのに、私はそれを無かったことにしようと言うのですか? 何故? 一体どうしたのいうのですか? その答えは明白です。彼女が死ねば、私の夢が、叶う──否、それはいけません。
あの約束からかなり経ちますが、深く考えれば考えるほど、夢が叶うという誘惑が大きくなっていきました。愚かです、身勝手です、嘘つきです。ですが、私の夢は誰かを犠牲にしてまで、それもアイリスを犠牲になんて出来るはずがありません。
アイリスの事を見ていましたが、俯いたままこちらを見ようともしていませんでした。仕方ありませんよね、私は今彼女にとって裏切り者なのですから。
アイリスの刑が執行されるのは翌々日、形式上とは言え明日は裁判が執り行われます。決定事項なのにする意味があるのかと聞かれれば、意味なんてありません。ただの国民に対する報告ですよ。こんな罪で死刑にします、ってね。
「明日大広場で公開裁判を執り行います、あくまで形式上ですが……」
「どうせ……死刑になるんだからどうだっていいよ、それとマリアも忙しいんじゃないの? 早く行ったら」
アイリスの口調がとても冷たい。仕方ありませんが、やはり悲しいですね。
口では私もあぁ言いましたが、助けるつもりです。バルトロマイもアイリスも、私にとって大事な友人であり、仲間なのです。手はずは完璧です。
さてアイリスを助けた後、どうしましょうか。私達が居なくなった王国の軍隊が上手く機能するかと言われれば、それは難しいでしょう。
全体的な総指揮である私、兵力の振り分けや作戦を考えるバルトロマイ、扱いが難しい竜騎兵や遊撃部隊を指揮するアイリス、私達で回っていたようなものです。
「それではアイリス、また明日」
私は牢屋を後にして、私は待機を言い渡されているアイリスの部下である、遊撃部隊の主力部隊を班単位で執務室に呼び寄せました。
勿論これは極秘裏です。それはアイリスとバルトロマイを救出し、そのまま海を超えると言う内容です。目指すのは北方大陸、ミアやドラクルが向かった場所ですね。だからドラクルがずっと居ないんですよ。全く、大事な時に居ないんですから。困ったもんですよ。
──翌日正午過ぎ、ハルワイブ城下町大広場──
「これより公開裁判を執り行う、被告人、前へ」
意味の無い裁判、死刑が決まっているのにやる意味があるのかな。
私は首枷に取り付けられた鎖を兵士に乱暴に引っ張られながら、大広場の中央に備えられた断頭台の上に立たされた。
「この者は王国の中に取り入り混乱に陥れようとした魔王であり、それは許されぬ事……よって我が国民の声を聞きたいと思う」
「殺せ!」
「そうだ魔王なんて殺してしまえ!」
はは、とてもじゃないけど理性と知性を持つ人間の言動とは、到底思えないね。もうね、言葉も出ないよ。
国王がそう問い掛けるとすぐに、集まった群衆は殺せだの首を落とせだの、乱暴的な言葉を私に向けて放ってくる。
マリアは断頭台の下で目を瞑り、眉を顰めて国民の声を聞いていた。昨日はマリアに冷たくしちゃったよ。最後ぐらいもうちょっと話していたら良かったかな? 後悔してもし切れないね。
「……お主らの声はしかと届いた。よって魔王アイリスを死刑に処す。明日の午後……それが魔王の最期となるだろう!」
私は再び乱暴にされながら断頭台から降ろされていき、下には同じ首枷を嵌められたバルトロマイさんが居た。
「おうアイリス元気か」
「な、なんでバルトロマイさんが……?」
聞くと私の死刑を反対して、アレクサンダーさんから貰った剣を投げ捨て、お前を認めない宣言を行い反逆の疑いがあるとして裁判にかけられるそうだ。
「魔王を庇護したんだ、俺も処刑されるだろうな」
「そ、そんな……バルトロマイさんは死んじゃダメだよ!」
「うるせぇ馬鹿野郎、てめぇは何回俺の事を救いやがったんだ? せめて一回ぐらいは男を見せさせてくれや」
そう言ってバルトロマイさんは、十三の階段を登っていった。明日はバルトロマイさんと一緒に黄泉への旅路かな。
そう思って歩かされていると、断頭台のギロチンが落ちてくる音が鳴り響いた。
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