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冒険者協会
第一話
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約百年前、冒険者や旅人が寄り合う町があったそうだ。そこは海に面していた事から、海洋産業や海上貿易などが盛んで、各地方から様々な人種や職種が集まるいわば物流拠点となっていた。世界中の特産品や名産品が集まるそこは、冒険者や旅人等が一度は寄ってみたいと思う町第一位らしい。
そんな町を管理する冒険者協会、アドベンチュラーアソシエーションなる組織がある。そこに登録すると世界中の支部から依頼を受ける事が可能になり、依頼を達成すると報酬が貰えるといったRPGでゲームでよくあるギルドのクエストみたいな感じかな?
私達はその町へと向かっていた。観光目的とというのが一つの理由、そして次の目的が何よりも重要で、何よりも優先しなきゃいけない事だった。
「アリスさん、なんで怒られてるかわかってる? 理解してる?」
「いやほんとごめんなさい」
ミエリドラを後にして二週間近く経っていた。その途中、いくつかの町に立ち寄ったのは良かった。けど、その度にアリスさんはお金をじゃぶじゃぶ使ったんだよ。酒やよく分からないお土産、最初はまぁいいかな、って感じだっんだけどね? でもあまりにもお金遣いが荒い。気付けば私が管理していたお金は底を尽きそうだった。
だけど、アリスさんはお金は使うと増えるのよ、なんて下手くそな誤魔化しを続けた。それが適用するのは資産を買う時だけだよ! ただ消費するだけじゃ増えないよ! 全く、金遣いと酒癖が悪い人は苦手だよ。アリスさんは別に苦手じゃないけど、アリスさんの悪い癖だよね。
その事で、今現在私はアリスさんを叱っている。お金を使うのはいいけど、もっと計画的に必要なものだけを買わないとダメだよ、と。私に怒られてしゅん、としているアリスさんは可愛かった。
だから、今私達はお金を稼ぎたいんだ。危険な依頼ほどその分報酬が高い、高難易度の方が難しいけど希少な素材とか報酬金が高いもんね。アリスさんにはそれ相応の働きをしてもらわないといけない、せめて使った分だけでも稼いできてもらないと。
そういえば、ナグモさんは今頃何をしてるだろうね、知りたい事ってなんだろ。あまり危険な事にはなっていて欲しくないね。いい人だからね。
それにしても、今歩いている道は人が多く、荷車で中型のモンスターを捕獲して運んでいる人達や袋を沢山持った人達が、同じ方向に歩いていた。隣を通る度に挨拶をされるのは中々気持ちがいいね。登山している気持ちになるよ。気のいい人ばかりだよ、さっきも可愛いんだから気をつけてねって言われてちょっと照れてしまった。嬉しい事は嬉しいけど隣を歩くアリスさんへの反応が凄すぎてちょむっと複雑だよ。デミヒューマンでさえ振り返るんだから大したもんだよ。
そんな事を思っていると、目の前で一人? 一匹? どっちでもいいけどオスのライオンの頭を持ち、紅色の高価そうなプレートアーマーを身につけたデミヒューマンが、キョロキョロと周囲の人間を見渡していた。誰かを探しているのかな?
そう後ろから観察していると、こちらに気付いたライオン頭のデミヒューマンは駆け寄ってきた。
「アイ! ほっつき歩くなっつってんだろうが!」
「……え?」
突然腕を掴まれ、まるで見知ったような口調でそう言われた。キョトンとする私とどうした、と不思議そうな顔をする相手は、何を思ったのか私の胸を触り始めた。すると何かに気付いたように手を離し謝ってきた。
「人違いしていた。すまねぇ、アイはこんなに胸がでけぇ奴じゃなかったな。はっはっは──グォッッ!?」
とりあえず、思いっきり顔を殴っておいた。アリスさんが。失礼なライオンだよ。
倒れているデミヒューマンの横にしゃがみ、気を失っているライオン頭のたてがみをモフモフと触り始めた。すごい触り心地がいいよ。
「アイリス行くわよ。そんな変態放っておきなさい」
そういう訳にも行かず、少し道を外れた場所までライオンさんを引きずっていき、目を覚ますのを待っていた。かなりクリーンヒットしたみたいだね。それにしても大きな身体だよ、まるで巨人だよ。二mはあるんじゃないかな?
空が茜色に染まり始めた頃、ライオンさんは目を覚ました。近くで見てみると猫みたいで意外と可愛いね。
立ち上がったライオンさんは周囲を確認してから私達を見た。いきなり殴られて気を失ったんだ、仕方ない。
「おう、おはよう」
「おはよう……じゃないわよ!」
そんな呑気な言葉に突っ込むアリスさんは腕を組み、ライオンさんを睨み見上げていた。その迫力に、ライオンさんはすまねぇ、と謝っていた。とりあえず、名前を聞こう。話をそれからだね。
彼の名前はレオンハルト、獅子の頭を持つ戦士。西の小さな村から旅を出て五年ほど経ち、その途中にアイという女と出会ったそうだ。けど、その女が私にとても似ており、つい間違えてしまったようだ。幼女らしいけどね。
そのアイという女はバカを人間にしたようなバカで、重度の方向音痴だそうだ。一分でも目を離すとどこかに消えてしまうほどらしい。それってやばくないかな? けどレオンハルトさんの口ぶりは馬鹿にしたような口調ではなく、妹を本当に心配しているお兄ちゃんみたいな感じだった。アリスさんが私を心配するような感じなのかな? けど、この人も優しい人なんだなって思える。他人を心配出来る人に悪い人はそうそういないもんなんだよ、私の薄っぺらい経験上ね。
レオンハルトははぁぁ、と長いため息をついた。心底心配しているのが、見ているだけでわかる。落ち着かない様子で周囲を見回していた。
「仕方ないわね。そのアイって子を探しに行きましょうか」
「お前らだって用事があんだろ?」
いいかしら? とこちらを向くアリスさんに対して頷き、アイって子がどんな姿なのかをレオンハルトに聞いた。
茶髪の短髪で、雪のような肌をしており瞳は赤色、どこかの国の緑色の軍服を着用して顔はだいぶ私に似ているらしい。軍服だなんてかっこいいね。
相当目立つ服装だし、見ればすぐに分かりそうだよ。はぐれたのが昼頃だからまだ何とかなればいいけど。
「アイは方向音痴だが、危険な所にはぜってぇ近づかねぇんだ、危険を察知しやがってな」
便利な体質だね。けど、その癖に方向音痴って大丈夫なのかな? 町の中でふらっと路地にでも入ったら充分危険だと思うんだけどなぁ。まぁ、それを予知するから今まで安全だったのかな?
とりあえず、町へ向かうことにした。レオンハルトさん達もそこに向かう予定だったようだしね。それにしても、彼はめちゃくちゃ目立つ。背が高いし、ライオンだし、すっごいモフモフしてるし。聞けば四十路らしいけど、デミヒューマンは皆若々しい、のかな? という何歳か分かりづらいよ。
「ねぇねぇ、レオンハルトさん、デミヒューマンは皆若作りなの?」
「レオンでいいんだぜ? まぁ、普通の人間からすりゃぁわかんねぇだろうが、俺は若くみられる方だな。だが、肉食系は若く見られんのにデメリットはねぇ」
へぇ、そうなの? と首を傾げるとあぁ、と言って何故かを説明してくれた。簡単に言うと自然界と何ら変わらないそうだ。レオンさんのようなライオンのデミヒューマンは、なんと言うか好戦的というか野蛮というかまぁ、喧嘩っ早いらしくて歳をとるにつれてよく絡まれるようになるそうだ。大変だね。
「同族におっさんって見られるとすぐに絡まれちまう。そこで負けちまうと身ぐるみを剥がれちまう。全く、やな種族だな」
「はは、苦労してるんだね?」
「低俗な獣臭い種族なのは変わらないわね」
本当に困った種族だわ、と顔を背けそう言うアリスさんは、すぐに次の町がある方向へと歩き始めた。それにしても、先程の言葉には嫌悪の感情が混じっていた。どうやら魔王様は、デミヒューマンの事を嫌っているようだ。レオンさんが目覚めた時以来、目を合わせていないし過去に何かあったのかな?
「おいおい冗談きつい──いや冗談じゃねぇか」
そんなアリスさんの様子に感づいたレオンさんは、困ったように頭を掻き少し笑みを浮かべて肩を竦めた。気まずい私は距離を開けて歩く二人の間を歩いていた。
レオンさんは大人の対応で何も言うことはなく無言で、時折私に話しかけながら歩いていた。それをアリスさんが気にする事はなく、少し早足で先に進んでいた。
その道中、モンスターが現れた。レオンさんと同じくらいのゴリラのモンスターだった。すぐに魔法を使おうとするアリスさんだったが、先にレオンさんが前に出た。手には大剣であるツヴァイヘンダーが握られていた。
「荒事は男の俺に任せときな」
なら任せるわ、とすぐに引き下がるアリスさんは後ろに数歩退き、私の隣に立った。腕を組み、値踏みでもするような目付きでレオンさんを見ていた。
モンスターは私の頭ほどあるんじゃないかと思えるほど大きな拳で、前に出たレオンさんに殴りかかった。それをレオンさんは手で受け止めてしまった。流石百獣の王だね。
「いい拳だが、まだまだだな」
十六文キックよろしくモンスターの顔面に、サバトンの底で蹴りをお見舞した。あれは痛そうだよ。よろめきながら後ろに退るモンスターを、ツヴァイヘンダーで斬り伏せた。おぉ、強いし凄いね。あんな重そうな武器を片手で扱えるなんて。
「……まぁ、任せてあげてもいいんじゃないかしら」
「おう、任せてくれや」
私はよろしくね、とレオンさんの顎回りを撫でた。すると少し笑みを浮かべて喉をゴロゴロと鳴らし始めた。あ、鳴るんだそれ。
レオンさんは私の手を掴んで恥ずかしそうにやめろ、と言ってきた。可愛らしいおじさんだよ全く。
その時は、アリスさんも笑っていたような気がしたけど、すぐにモンスターの死体を横切り歩き始めた。
こればかりは難しいよね、嫌いなものを嫌いじゃなくすのって大変だよ。関わりたくない、見たくも聞きたくもないから嫌いだというのに、それに関わり、見なくちゃくいけないし聞かなくちゃいけない。それは辛いけど、それをする事でその嫌いなものの新たな一面が見えてくるかもしれない。だからこそ、好きになれとは言わないけど嫌いなままで終わって欲しくないってのが、私の意見だよね。まぁそれを決めるのは私じゃなくてアリスさんだから、私はどうこう言えないけどね。
いずれ歩み寄ろうと思える日が彼女に来ることを私は願っているよ。
そんな町を管理する冒険者協会、アドベンチュラーアソシエーションなる組織がある。そこに登録すると世界中の支部から依頼を受ける事が可能になり、依頼を達成すると報酬が貰えるといったRPGでゲームでよくあるギルドのクエストみたいな感じかな?
私達はその町へと向かっていた。観光目的とというのが一つの理由、そして次の目的が何よりも重要で、何よりも優先しなきゃいけない事だった。
「アリスさん、なんで怒られてるかわかってる? 理解してる?」
「いやほんとごめんなさい」
ミエリドラを後にして二週間近く経っていた。その途中、いくつかの町に立ち寄ったのは良かった。けど、その度にアリスさんはお金をじゃぶじゃぶ使ったんだよ。酒やよく分からないお土産、最初はまぁいいかな、って感じだっんだけどね? でもあまりにもお金遣いが荒い。気付けば私が管理していたお金は底を尽きそうだった。
だけど、アリスさんはお金は使うと増えるのよ、なんて下手くそな誤魔化しを続けた。それが適用するのは資産を買う時だけだよ! ただ消費するだけじゃ増えないよ! 全く、金遣いと酒癖が悪い人は苦手だよ。アリスさんは別に苦手じゃないけど、アリスさんの悪い癖だよね。
その事で、今現在私はアリスさんを叱っている。お金を使うのはいいけど、もっと計画的に必要なものだけを買わないとダメだよ、と。私に怒られてしゅん、としているアリスさんは可愛かった。
だから、今私達はお金を稼ぎたいんだ。危険な依頼ほどその分報酬が高い、高難易度の方が難しいけど希少な素材とか報酬金が高いもんね。アリスさんにはそれ相応の働きをしてもらわないといけない、せめて使った分だけでも稼いできてもらないと。
そういえば、ナグモさんは今頃何をしてるだろうね、知りたい事ってなんだろ。あまり危険な事にはなっていて欲しくないね。いい人だからね。
それにしても、今歩いている道は人が多く、荷車で中型のモンスターを捕獲して運んでいる人達や袋を沢山持った人達が、同じ方向に歩いていた。隣を通る度に挨拶をされるのは中々気持ちがいいね。登山している気持ちになるよ。気のいい人ばかりだよ、さっきも可愛いんだから気をつけてねって言われてちょっと照れてしまった。嬉しい事は嬉しいけど隣を歩くアリスさんへの反応が凄すぎてちょむっと複雑だよ。デミヒューマンでさえ振り返るんだから大したもんだよ。
そんな事を思っていると、目の前で一人? 一匹? どっちでもいいけどオスのライオンの頭を持ち、紅色の高価そうなプレートアーマーを身につけたデミヒューマンが、キョロキョロと周囲の人間を見渡していた。誰かを探しているのかな?
そう後ろから観察していると、こちらに気付いたライオン頭のデミヒューマンは駆け寄ってきた。
「アイ! ほっつき歩くなっつってんだろうが!」
「……え?」
突然腕を掴まれ、まるで見知ったような口調でそう言われた。キョトンとする私とどうした、と不思議そうな顔をする相手は、何を思ったのか私の胸を触り始めた。すると何かに気付いたように手を離し謝ってきた。
「人違いしていた。すまねぇ、アイはこんなに胸がでけぇ奴じゃなかったな。はっはっは──グォッッ!?」
とりあえず、思いっきり顔を殴っておいた。アリスさんが。失礼なライオンだよ。
倒れているデミヒューマンの横にしゃがみ、気を失っているライオン頭のたてがみをモフモフと触り始めた。すごい触り心地がいいよ。
「アイリス行くわよ。そんな変態放っておきなさい」
そういう訳にも行かず、少し道を外れた場所までライオンさんを引きずっていき、目を覚ますのを待っていた。かなりクリーンヒットしたみたいだね。それにしても大きな身体だよ、まるで巨人だよ。二mはあるんじゃないかな?
空が茜色に染まり始めた頃、ライオンさんは目を覚ました。近くで見てみると猫みたいで意外と可愛いね。
立ち上がったライオンさんは周囲を確認してから私達を見た。いきなり殴られて気を失ったんだ、仕方ない。
「おう、おはよう」
「おはよう……じゃないわよ!」
そんな呑気な言葉に突っ込むアリスさんは腕を組み、ライオンさんを睨み見上げていた。その迫力に、ライオンさんはすまねぇ、と謝っていた。とりあえず、名前を聞こう。話をそれからだね。
彼の名前はレオンハルト、獅子の頭を持つ戦士。西の小さな村から旅を出て五年ほど経ち、その途中にアイという女と出会ったそうだ。けど、その女が私にとても似ており、つい間違えてしまったようだ。幼女らしいけどね。
そのアイという女はバカを人間にしたようなバカで、重度の方向音痴だそうだ。一分でも目を離すとどこかに消えてしまうほどらしい。それってやばくないかな? けどレオンハルトさんの口ぶりは馬鹿にしたような口調ではなく、妹を本当に心配しているお兄ちゃんみたいな感じだった。アリスさんが私を心配するような感じなのかな? けど、この人も優しい人なんだなって思える。他人を心配出来る人に悪い人はそうそういないもんなんだよ、私の薄っぺらい経験上ね。
レオンハルトははぁぁ、と長いため息をついた。心底心配しているのが、見ているだけでわかる。落ち着かない様子で周囲を見回していた。
「仕方ないわね。そのアイって子を探しに行きましょうか」
「お前らだって用事があんだろ?」
いいかしら? とこちらを向くアリスさんに対して頷き、アイって子がどんな姿なのかをレオンハルトに聞いた。
茶髪の短髪で、雪のような肌をしており瞳は赤色、どこかの国の緑色の軍服を着用して顔はだいぶ私に似ているらしい。軍服だなんてかっこいいね。
相当目立つ服装だし、見ればすぐに分かりそうだよ。はぐれたのが昼頃だからまだ何とかなればいいけど。
「アイは方向音痴だが、危険な所にはぜってぇ近づかねぇんだ、危険を察知しやがってな」
便利な体質だね。けど、その癖に方向音痴って大丈夫なのかな? 町の中でふらっと路地にでも入ったら充分危険だと思うんだけどなぁ。まぁ、それを予知するから今まで安全だったのかな?
とりあえず、町へ向かうことにした。レオンハルトさん達もそこに向かう予定だったようだしね。それにしても、彼はめちゃくちゃ目立つ。背が高いし、ライオンだし、すっごいモフモフしてるし。聞けば四十路らしいけど、デミヒューマンは皆若々しい、のかな? という何歳か分かりづらいよ。
「ねぇねぇ、レオンハルトさん、デミヒューマンは皆若作りなの?」
「レオンでいいんだぜ? まぁ、普通の人間からすりゃぁわかんねぇだろうが、俺は若くみられる方だな。だが、肉食系は若く見られんのにデメリットはねぇ」
へぇ、そうなの? と首を傾げるとあぁ、と言って何故かを説明してくれた。簡単に言うと自然界と何ら変わらないそうだ。レオンさんのようなライオンのデミヒューマンは、なんと言うか好戦的というか野蛮というかまぁ、喧嘩っ早いらしくて歳をとるにつれてよく絡まれるようになるそうだ。大変だね。
「同族におっさんって見られるとすぐに絡まれちまう。そこで負けちまうと身ぐるみを剥がれちまう。全く、やな種族だな」
「はは、苦労してるんだね?」
「低俗な獣臭い種族なのは変わらないわね」
本当に困った種族だわ、と顔を背けそう言うアリスさんは、すぐに次の町がある方向へと歩き始めた。それにしても、先程の言葉には嫌悪の感情が混じっていた。どうやら魔王様は、デミヒューマンの事を嫌っているようだ。レオンさんが目覚めた時以来、目を合わせていないし過去に何かあったのかな?
「おいおい冗談きつい──いや冗談じゃねぇか」
そんなアリスさんの様子に感づいたレオンさんは、困ったように頭を掻き少し笑みを浮かべて肩を竦めた。気まずい私は距離を開けて歩く二人の間を歩いていた。
レオンさんは大人の対応で何も言うことはなく無言で、時折私に話しかけながら歩いていた。それをアリスさんが気にする事はなく、少し早足で先に進んでいた。
その道中、モンスターが現れた。レオンさんと同じくらいのゴリラのモンスターだった。すぐに魔法を使おうとするアリスさんだったが、先にレオンさんが前に出た。手には大剣であるツヴァイヘンダーが握られていた。
「荒事は男の俺に任せときな」
なら任せるわ、とすぐに引き下がるアリスさんは後ろに数歩退き、私の隣に立った。腕を組み、値踏みでもするような目付きでレオンさんを見ていた。
モンスターは私の頭ほどあるんじゃないかと思えるほど大きな拳で、前に出たレオンさんに殴りかかった。それをレオンさんは手で受け止めてしまった。流石百獣の王だね。
「いい拳だが、まだまだだな」
十六文キックよろしくモンスターの顔面に、サバトンの底で蹴りをお見舞した。あれは痛そうだよ。よろめきながら後ろに退るモンスターを、ツヴァイヘンダーで斬り伏せた。おぉ、強いし凄いね。あんな重そうな武器を片手で扱えるなんて。
「……まぁ、任せてあげてもいいんじゃないかしら」
「おう、任せてくれや」
私はよろしくね、とレオンさんの顎回りを撫でた。すると少し笑みを浮かべて喉をゴロゴロと鳴らし始めた。あ、鳴るんだそれ。
レオンさんは私の手を掴んで恥ずかしそうにやめろ、と言ってきた。可愛らしいおじさんだよ全く。
その時は、アリスさんも笑っていたような気がしたけど、すぐにモンスターの死体を横切り歩き始めた。
こればかりは難しいよね、嫌いなものを嫌いじゃなくすのって大変だよ。関わりたくない、見たくも聞きたくもないから嫌いだというのに、それに関わり、見なくちゃくいけないし聞かなくちゃいけない。それは辛いけど、それをする事でその嫌いなものの新たな一面が見えてくるかもしれない。だからこそ、好きになれとは言わないけど嫌いなままで終わって欲しくないってのが、私の意見だよね。まぁそれを決めるのは私じゃなくてアリスさんだから、私はどうこう言えないけどね。
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