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異世界ヴラギトル
第一話
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何故こんなことになったのだろう。私はただゲームがしたかっただけなのに──
昔からインドア派な私は、外に出て遊ぶ事が少なかった。だけど、家にずっと居てもすることがない。まだ小さかった私は、父が休日にやっていたゲームに惹かれた。
最初の頃は難しかったけど、徐々に慣れてくると楽しくなっていった。
高校生になりバイトを始めると、自分で稼いだお金をゲームに使う事が出来て、色んなゲームに手を出した。RPGやFPSとか、おかげでゲームばかりの青春時代となった。
そんな私も二十歳になり、社会に出て働くとゲームをしなくなっていった。いや、そんな時間が無かったんだ。ストレスの捌け口はタバコだった。
そして久しぶりに昔やっていたゲームの続編が出るという事で、買いに行ったのは良かったけど、まさかそこで交通事故に遭うって誰が思う?
男性とのお付き合いも出来ず、死んでいくのかと思ったけど、神様はかなり気まぐれでいたずら好きのようだ。
私の目の前に広がるのは、現実では見たことの無いような景色だった。
デミヒューマン、と言ったところかな? 頭から角の生えた人や尻尾を生やした人、もはや人間の姿をしていない者など、そこはまるでゲームの中にある景色だった。
とりあえず、落ち着け阿久津 有栖。自分の頭はまだ正常だ。震える手でポケットに入れてあるタバコの箱から一本抜き取り、それに火をつけてタバコを吸い始めた。
近くの花壇に座り込み、今現在何が起きているのかを理解する必要があった。確か、私は車にぶつけられて死んだはずだが、傷などはない。生きているのなら病院で目覚めるはずだ。ならこれは夢? ここがあの世というものなのだろうか?
そんな疑問に答えてくれる者など居ないだろうけど、私はとりあえず町中を歩き回る事にした。あ、あの僧侶みたいなローブ可愛い。
少し歩いて分かったことがある。やはり、日本ではないようだけど外国、というわけでも無さそうだ。あと、話している言葉も通じている。財布に入っている小銭や紙幣を見せたけど、見たことが無いらしい。しかし、貨幣の技術力は高く評価していた。よってお金を手に入れた。銀貨十枚と金貨五十枚だ。ここの貨幣がどれほどの価値があるかは知らないけど、お金を持っていて損をする事はまずないでしょ。
流石に半袖ホットパンツは目立つだろうか。いや、目立つか。というか、やばい格好じゃないかな? ちょっと痴女っぽいかも。まぁ、いいか。
さてさて、とりあえず何をすべきかを決めなくてはならないな。今まで喋った人は殆どが武具や防具を装着していた。と、すると外は危険なのだろうか。モンスターかな? 私は一般人だから武器を持てるとも思えない。そういえば、魔法があるようだから少し気になる。
それにしても、タバコが売っていて助かった。ヘヴィスモーカーの私には死活問題だったからね。銅貨一枚で買えるだなんて、いい世界になったもんだ。肩身が広くて快適だね。
とりあえず、外に出てみようか? 交換したお金で武器を買ってみよう。そう思い、武器屋に立ち寄った。
中に入ると、物騒な代物がたくさん置いてあったが、あまり力は無いし剣なんて大きな得物は無理だ、となると女性でも軽く扱えるナイフなどがいいんだろうけど、それさえも上手く扱える気がしない。ゲームの中でなら得意なんだけど。
そう店の中で迷っていると坊主頭の店主が声をかけてきた。
「嬢ちゃん、相棒選びは初めてかい?」
そうなんですよー、と返事をした。見た目はかなり厳ついおじさんだが、意外と親身になってくれるようだ。所持金を伝えて、力のない私でも使えるような物をお願いすると、少し首を傾げて考え込みながら店の中へと入っていった。そんなに難しい注文だったかな?
十分ほどすると、店主はマスケット銃によく似たモノを手に持って出てきた。
「こりゃぁちょいと高いかもしれねぇが、嬢ちゃんみたいな奴でも魔法が使える逸品だ。前まで店頭に並んでたんだが、誰も買いやしねぇから倉庫に下げちまってたんだ」
「なんでまた?」
「この銃には悪魔が封印されている……らしい」
店主も事実かどうかは分かっていないようだ。だが何か面白そうだし、買うことにした。
金貨四十枚の所を半額してもらい、二十枚で売ってくれるそうだ。どうやらなんだか危なかっしく見えるようだ。ありがとうおじさん。
「それと、町を出るなら酒場に行ってみな。武器屋の紹介だと言ったら色々世話になれるはずだ」
「おじさんいい人だよ、私が保証する」
よせやいと鼻の下を指で擦りながら照れる店主を見て、近所の気前の良いおじさんを思い出した。
とりあえず、マスケット銃の使い方を教えてもらうことにした。
「マスケット銃はマズルローダーだからよ、弾を込めなきゃならねぇが、言い方は稚拙だが魔法の銃、だからそんなもんはしなくてもいい」
店の壁にかけられた赤と白の的を狙うように、指を指していた。こんな店の中でぶっぱなしてもいいものなのだろうか? と思いながらも言われた通りに狙いを定めた。
引き金を引いたが、何も起こらない。やっぱりかぁ、と自身の頭を叩く店主は先程払った金貨を返してきた。
「嬢ちゃんなら使えそうな気がしたんだが、まぁ仕方ねぇな。返金はするが、それはくれてやる。どこかで売るなり捨てるなりしてくれや」
歯を見せて笑う店主は私の名前を聞いてきた。私も元気よく、自身の名前を答えたがその答えを聞いた店主の顔は険しいものとなっていた。
「嬢ちゃん……悪い事は言わねぇ、外では絶対にその名前を出すんじゃねぇぞ。あと、その服装はちょいとやべえぞ」
「ん? わかった」
気をつけろよ、とため息を吐く店主を一瞥しながら私は店を後にした。そんなに変な服装だろうか? しかし、ただで武器を手に入れる事が出来たのは幸いだ。撃てはしないがまぁ、バットの代わりぐらいにはなるだろう。意外と軽い。魔法の銃だからかな?
とりあえず、店主に言われた通り酒場へと向かう事にした。場所がわからないため、通りすがりの人に尋ねた。
どうやらすぐ前の建物がそのようで、すぐさま中に入る事にした。喉が乾いたからね。中に入ると、いかにも冒険者や傭兵してます、と主張している動物? の皮や毛で縫われた服装の人達がお酒を呑んでいた。
「すいませーん、武器屋の紹介で来たんですけどー」
カウンターの前に立ち店員にそう伝えると元気な笑顔で、わかりましたと言い奥へと入っていった。それにしても、本当にここは何処なんだろうか。中世ヨーロッパ、という訳でもない。死後だとしても、天国なわけがない。あ、そういえば最近死んだら異世界に行きました、的な小説とか流行ってるし、もしかしたら異世界? ははは、そんなわけないよね。まっ、死後の世界だとしても、何不自由なく体を動かせるのはまだ幸せだ。
「……私が憧れた世界はこんな感じなのかなぁ?」
苦しいながらも日々を自由に謳歌する冒険者、危険は付き物だが、様々な依頼や任務をこなす傭兵、そう、そんな現実離れした世界に私は夢を抱いていた。
ゲームを趣味としている人なら何度かは憧れた事はある事だろう。だからこそバーチャルリアリティ、などと言った没入感のあるゲームが人気を博していたのかもしれない。かく言う私もそれが大好きな一人だった。あぁ、ゲームがしたくなってきたよ。
そんな事を思いながら周りを見回していると先程の店員が戻ってきた。何やら色々と入っている袋を持っていた。
「こちらは新規冒険者の方に贈るものとなっています。武器屋と提携しておりまして、あなたの事は先程連絡がありましたので、アイリス様、でよろしいでしょうか?」
アイリス? あぁ、有栖という名前がダメという事だから店主が気を利かせてくれたのだろう。
あの武器屋の店主は何者だろうか、と口には出さないが心の中で思いながら袋を受け取り中を見た。
小さなナイフ、リュック、デニム生地のパンツ、パンツ? あ、着替えろと言うことかな?
「アイリス様にはこれを絶対に履かせろ、と言われております。まぁ、確かにその下着みたいなパンツでは流石に、ですからね」
そんなにおかしい? ホットパンツ? 動きやすいのに。私はどちらかと言うと素早く動ける盗賊タイプに向いていると思うのだけれど。この世界のドレスコードは分からないな。
仕方なく服を着替えて、リュックを背負い、右の二の腕にホルスターに入ったナイフを装着した。おぉ、なんだかかっこいい。
「さて、ここに来た、という事はアイリス様は旅に出る、という事でしょうか?」
そういう事なんだろうか。いやまぁ、そういう事なんでしょう。何故死んだ後にこんな場所に来たのかは分からないが、それを探るためには旅に出るという選択肢もいいのかもしれない。私はとりあえず、頷いた。
「この酒場にいらっしゃる方々も冒険者です。チームを組んで行動している方もいますので、チームを組むのもいいかもしれませんね」
年がら年中ぼっちだった私に誰かと組め、と? 酷いことを言うもんじゃありません。そんな事を考えながら笑顔で、ありがとうと店員に伝えて酒場を見回した。
ごついおっさんや毛むくじゃらの亜人ばかりしかいない。どうやら女性の冒険者はあまり多くないようだ。出来ることなら同性の方が色々とやりやすいけど、そればかりは仕方がない。
「お嬢ちゃん、一人?」
やはりこの世界にもナンパ師というのはいるようだ。ため息を吐きながら背後を見た。
そこに居たのは明らかに頭も性格も軽そうな男だった。
「まぁ、うん」
「なら一緒にそこら辺のモンスターを倒しにいかない? 俺結構長くやってるからさ。色々と教える事とか出来るかも知んないよ」
うわぁ、ヤリモクってモロバレだけど、地味にイケメンなのが腹が立つ。しかし、これはいろいろと聞けるいい機会かもしれない。させないけど。
町の外は意外と整備されていた。次の町に続く道が、草原の間に作られており歩きやすくなっていた。そんな道を先程の軽い男と共に歩いていた。
「アイリスちゃんはなんで冒険者になろうと思ったの?」
「そうだなぁ、私には記憶が無いからね。やりたい事も、やるべき事も分からないから、かな」
という嘘の設定を作った。その方が何かと都合がいいだろうし。
そうすると、こちらが疑問に思っている事や、この世界の事を彼は色々と教えてくれた。
この世界はヴラギトルという名前、モンスターは元々動植物だったが五百年以上前に、魔王と呼ばれる人物が世界に呪いをかけ作り出してしまったという事や、その呪いのおかげ、というべきなのか魔法が使えるようになった、とかだ。
後は、世界情勢についてだ。まぁ、自ら関わろうだなんてしようとも思わないけど、今私がいる国は、アシュヴィ帝国という巨大な軍事国家だ。帝国というからには、余程強力な軍隊を持っているのだろうと思ったが、そうではないらしい。
最近は周辺諸国にボコボコに連敗中のようで、もう国仕舞いの時間だろう、などと言われているらしい。まぁ、連合対帝国、と言った感じかな?
それにしても、モンスターというのは意外とグロテスクな見た目をしている。なんというか、私はもっとデフォルメされた感じだと思っていた。やはりリアルはそうではないらしい。
例えば、今目の前にいるモンスターは元々は何かの花だったのが分かるが、花に手足が生え、花の真ん中には大きな口が開いていた。涎を垂らしながらこちらに近付いてくるその姿は、正真正銘の化け物だ。しかし、そんな怪物が相手でも何故か怖いという感情は湧いてこない。死んで頭がおかしくなったのか、はたまた端からおかしかったのかは定かではないが、正常に働いているよりかはマシだね。
「アイリスちゃん下がってて、可愛い顔に怪我でも出来たら大変だから」
うわ、優しい。だけど長年やっているというのは本当のようで、背中に担いでいる弓と矢を手に取る優男は、正確に花の化け物の頭を撃ち抜いた。
見事な腕前に拍手を送りながら、もう一匹出てくるのに気付いた。
「次は私がやってみるよ」
気をつけて、と少し退きながらも弓を構える優男を横目に、タダで貰った魔法のマスケット銃のバレル部分を持った。
相変わらず涎を垂らす目の前の化け物に大して大きく振りかぶり、首であろう部位に向けて横から殴りつけた。そこまで強く振った訳では無いが、相手が元々花であるという事もあり、モンスターの首は飛んでいってしまった。
それを見ていた優男は少し引き気味だった。
「ちょっと遅くなったね。今日は野宿して明日の朝早くに帰ろうか」
少し遠くまで進んでいた。町に戻る頃には夜中になってしまう、という事で野宿する事となった。夜はモンスターが活発になり、凶暴化するそうで危険なそうだ。
「見張りは任せてアイリスちゃんは寝てていいよ」
さて、その優しさは仮面なのか、本心なのか気になるけど妙に眠たい。お腹が膨れた事も関係しているのかな。
焚き火がいい感じの温さでよく寝れそう。私は寝転びながら、ゆっくりと目を閉じようとした。優男のニヤケ顔を見ながら。
あ、これはやばい──かも。
昔からインドア派な私は、外に出て遊ぶ事が少なかった。だけど、家にずっと居てもすることがない。まだ小さかった私は、父が休日にやっていたゲームに惹かれた。
最初の頃は難しかったけど、徐々に慣れてくると楽しくなっていった。
高校生になりバイトを始めると、自分で稼いだお金をゲームに使う事が出来て、色んなゲームに手を出した。RPGやFPSとか、おかげでゲームばかりの青春時代となった。
そんな私も二十歳になり、社会に出て働くとゲームをしなくなっていった。いや、そんな時間が無かったんだ。ストレスの捌け口はタバコだった。
そして久しぶりに昔やっていたゲームの続編が出るという事で、買いに行ったのは良かったけど、まさかそこで交通事故に遭うって誰が思う?
男性とのお付き合いも出来ず、死んでいくのかと思ったけど、神様はかなり気まぐれでいたずら好きのようだ。
私の目の前に広がるのは、現実では見たことの無いような景色だった。
デミヒューマン、と言ったところかな? 頭から角の生えた人や尻尾を生やした人、もはや人間の姿をしていない者など、そこはまるでゲームの中にある景色だった。
とりあえず、落ち着け阿久津 有栖。自分の頭はまだ正常だ。震える手でポケットに入れてあるタバコの箱から一本抜き取り、それに火をつけてタバコを吸い始めた。
近くの花壇に座り込み、今現在何が起きているのかを理解する必要があった。確か、私は車にぶつけられて死んだはずだが、傷などはない。生きているのなら病院で目覚めるはずだ。ならこれは夢? ここがあの世というものなのだろうか?
そんな疑問に答えてくれる者など居ないだろうけど、私はとりあえず町中を歩き回る事にした。あ、あの僧侶みたいなローブ可愛い。
少し歩いて分かったことがある。やはり、日本ではないようだけど外国、というわけでも無さそうだ。あと、話している言葉も通じている。財布に入っている小銭や紙幣を見せたけど、見たことが無いらしい。しかし、貨幣の技術力は高く評価していた。よってお金を手に入れた。銀貨十枚と金貨五十枚だ。ここの貨幣がどれほどの価値があるかは知らないけど、お金を持っていて損をする事はまずないでしょ。
流石に半袖ホットパンツは目立つだろうか。いや、目立つか。というか、やばい格好じゃないかな? ちょっと痴女っぽいかも。まぁ、いいか。
さてさて、とりあえず何をすべきかを決めなくてはならないな。今まで喋った人は殆どが武具や防具を装着していた。と、すると外は危険なのだろうか。モンスターかな? 私は一般人だから武器を持てるとも思えない。そういえば、魔法があるようだから少し気になる。
それにしても、タバコが売っていて助かった。ヘヴィスモーカーの私には死活問題だったからね。銅貨一枚で買えるだなんて、いい世界になったもんだ。肩身が広くて快適だね。
とりあえず、外に出てみようか? 交換したお金で武器を買ってみよう。そう思い、武器屋に立ち寄った。
中に入ると、物騒な代物がたくさん置いてあったが、あまり力は無いし剣なんて大きな得物は無理だ、となると女性でも軽く扱えるナイフなどがいいんだろうけど、それさえも上手く扱える気がしない。ゲームの中でなら得意なんだけど。
そう店の中で迷っていると坊主頭の店主が声をかけてきた。
「嬢ちゃん、相棒選びは初めてかい?」
そうなんですよー、と返事をした。見た目はかなり厳ついおじさんだが、意外と親身になってくれるようだ。所持金を伝えて、力のない私でも使えるような物をお願いすると、少し首を傾げて考え込みながら店の中へと入っていった。そんなに難しい注文だったかな?
十分ほどすると、店主はマスケット銃によく似たモノを手に持って出てきた。
「こりゃぁちょいと高いかもしれねぇが、嬢ちゃんみたいな奴でも魔法が使える逸品だ。前まで店頭に並んでたんだが、誰も買いやしねぇから倉庫に下げちまってたんだ」
「なんでまた?」
「この銃には悪魔が封印されている……らしい」
店主も事実かどうかは分かっていないようだ。だが何か面白そうだし、買うことにした。
金貨四十枚の所を半額してもらい、二十枚で売ってくれるそうだ。どうやらなんだか危なかっしく見えるようだ。ありがとうおじさん。
「それと、町を出るなら酒場に行ってみな。武器屋の紹介だと言ったら色々世話になれるはずだ」
「おじさんいい人だよ、私が保証する」
よせやいと鼻の下を指で擦りながら照れる店主を見て、近所の気前の良いおじさんを思い出した。
とりあえず、マスケット銃の使い方を教えてもらうことにした。
「マスケット銃はマズルローダーだからよ、弾を込めなきゃならねぇが、言い方は稚拙だが魔法の銃、だからそんなもんはしなくてもいい」
店の壁にかけられた赤と白の的を狙うように、指を指していた。こんな店の中でぶっぱなしてもいいものなのだろうか? と思いながらも言われた通りに狙いを定めた。
引き金を引いたが、何も起こらない。やっぱりかぁ、と自身の頭を叩く店主は先程払った金貨を返してきた。
「嬢ちゃんなら使えそうな気がしたんだが、まぁ仕方ねぇな。返金はするが、それはくれてやる。どこかで売るなり捨てるなりしてくれや」
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「嬢ちゃん……悪い事は言わねぇ、外では絶対にその名前を出すんじゃねぇぞ。あと、その服装はちょいとやべえぞ」
「ん? わかった」
気をつけろよ、とため息を吐く店主を一瞥しながら私は店を後にした。そんなに変な服装だろうか? しかし、ただで武器を手に入れる事が出来たのは幸いだ。撃てはしないがまぁ、バットの代わりぐらいにはなるだろう。意外と軽い。魔法の銃だからかな?
とりあえず、店主に言われた通り酒場へと向かう事にした。場所がわからないため、通りすがりの人に尋ねた。
どうやらすぐ前の建物がそのようで、すぐさま中に入る事にした。喉が乾いたからね。中に入ると、いかにも冒険者や傭兵してます、と主張している動物? の皮や毛で縫われた服装の人達がお酒を呑んでいた。
「すいませーん、武器屋の紹介で来たんですけどー」
カウンターの前に立ち店員にそう伝えると元気な笑顔で、わかりましたと言い奥へと入っていった。それにしても、本当にここは何処なんだろうか。中世ヨーロッパ、という訳でもない。死後だとしても、天国なわけがない。あ、そういえば最近死んだら異世界に行きました、的な小説とか流行ってるし、もしかしたら異世界? ははは、そんなわけないよね。まっ、死後の世界だとしても、何不自由なく体を動かせるのはまだ幸せだ。
「……私が憧れた世界はこんな感じなのかなぁ?」
苦しいながらも日々を自由に謳歌する冒険者、危険は付き物だが、様々な依頼や任務をこなす傭兵、そう、そんな現実離れした世界に私は夢を抱いていた。
ゲームを趣味としている人なら何度かは憧れた事はある事だろう。だからこそバーチャルリアリティ、などと言った没入感のあるゲームが人気を博していたのかもしれない。かく言う私もそれが大好きな一人だった。あぁ、ゲームがしたくなってきたよ。
そんな事を思いながら周りを見回していると先程の店員が戻ってきた。何やら色々と入っている袋を持っていた。
「こちらは新規冒険者の方に贈るものとなっています。武器屋と提携しておりまして、あなたの事は先程連絡がありましたので、アイリス様、でよろしいでしょうか?」
アイリス? あぁ、有栖という名前がダメという事だから店主が気を利かせてくれたのだろう。
あの武器屋の店主は何者だろうか、と口には出さないが心の中で思いながら袋を受け取り中を見た。
小さなナイフ、リュック、デニム生地のパンツ、パンツ? あ、着替えろと言うことかな?
「アイリス様にはこれを絶対に履かせろ、と言われております。まぁ、確かにその下着みたいなパンツでは流石に、ですからね」
そんなにおかしい? ホットパンツ? 動きやすいのに。私はどちらかと言うと素早く動ける盗賊タイプに向いていると思うのだけれど。この世界のドレスコードは分からないな。
仕方なく服を着替えて、リュックを背負い、右の二の腕にホルスターに入ったナイフを装着した。おぉ、なんだかかっこいい。
「さて、ここに来た、という事はアイリス様は旅に出る、という事でしょうか?」
そういう事なんだろうか。いやまぁ、そういう事なんでしょう。何故死んだ後にこんな場所に来たのかは分からないが、それを探るためには旅に出るという選択肢もいいのかもしれない。私はとりあえず、頷いた。
「この酒場にいらっしゃる方々も冒険者です。チームを組んで行動している方もいますので、チームを組むのもいいかもしれませんね」
年がら年中ぼっちだった私に誰かと組め、と? 酷いことを言うもんじゃありません。そんな事を考えながら笑顔で、ありがとうと店員に伝えて酒場を見回した。
ごついおっさんや毛むくじゃらの亜人ばかりしかいない。どうやら女性の冒険者はあまり多くないようだ。出来ることなら同性の方が色々とやりやすいけど、そればかりは仕方がない。
「お嬢ちゃん、一人?」
やはりこの世界にもナンパ師というのはいるようだ。ため息を吐きながら背後を見た。
そこに居たのは明らかに頭も性格も軽そうな男だった。
「まぁ、うん」
「なら一緒にそこら辺のモンスターを倒しにいかない? 俺結構長くやってるからさ。色々と教える事とか出来るかも知んないよ」
うわぁ、ヤリモクってモロバレだけど、地味にイケメンなのが腹が立つ。しかし、これはいろいろと聞けるいい機会かもしれない。させないけど。
町の外は意外と整備されていた。次の町に続く道が、草原の間に作られており歩きやすくなっていた。そんな道を先程の軽い男と共に歩いていた。
「アイリスちゃんはなんで冒険者になろうと思ったの?」
「そうだなぁ、私には記憶が無いからね。やりたい事も、やるべき事も分からないから、かな」
という嘘の設定を作った。その方が何かと都合がいいだろうし。
そうすると、こちらが疑問に思っている事や、この世界の事を彼は色々と教えてくれた。
この世界はヴラギトルという名前、モンスターは元々動植物だったが五百年以上前に、魔王と呼ばれる人物が世界に呪いをかけ作り出してしまったという事や、その呪いのおかげ、というべきなのか魔法が使えるようになった、とかだ。
後は、世界情勢についてだ。まぁ、自ら関わろうだなんてしようとも思わないけど、今私がいる国は、アシュヴィ帝国という巨大な軍事国家だ。帝国というからには、余程強力な軍隊を持っているのだろうと思ったが、そうではないらしい。
最近は周辺諸国にボコボコに連敗中のようで、もう国仕舞いの時間だろう、などと言われているらしい。まぁ、連合対帝国、と言った感じかな?
それにしても、モンスターというのは意外とグロテスクな見た目をしている。なんというか、私はもっとデフォルメされた感じだと思っていた。やはりリアルはそうではないらしい。
例えば、今目の前にいるモンスターは元々は何かの花だったのが分かるが、花に手足が生え、花の真ん中には大きな口が開いていた。涎を垂らしながらこちらに近付いてくるその姿は、正真正銘の化け物だ。しかし、そんな怪物が相手でも何故か怖いという感情は湧いてこない。死んで頭がおかしくなったのか、はたまた端からおかしかったのかは定かではないが、正常に働いているよりかはマシだね。
「アイリスちゃん下がってて、可愛い顔に怪我でも出来たら大変だから」
うわ、優しい。だけど長年やっているというのは本当のようで、背中に担いでいる弓と矢を手に取る優男は、正確に花の化け物の頭を撃ち抜いた。
見事な腕前に拍手を送りながら、もう一匹出てくるのに気付いた。
「次は私がやってみるよ」
気をつけて、と少し退きながらも弓を構える優男を横目に、タダで貰った魔法のマスケット銃のバレル部分を持った。
相変わらず涎を垂らす目の前の化け物に大して大きく振りかぶり、首であろう部位に向けて横から殴りつけた。そこまで強く振った訳では無いが、相手が元々花であるという事もあり、モンスターの首は飛んでいってしまった。
それを見ていた優男は少し引き気味だった。
「ちょっと遅くなったね。今日は野宿して明日の朝早くに帰ろうか」
少し遠くまで進んでいた。町に戻る頃には夜中になってしまう、という事で野宿する事となった。夜はモンスターが活発になり、凶暴化するそうで危険なそうだ。
「見張りは任せてアイリスちゃんは寝てていいよ」
さて、その優しさは仮面なのか、本心なのか気になるけど妙に眠たい。お腹が膨れた事も関係しているのかな。
焚き火がいい感じの温さでよく寝れそう。私は寝転びながら、ゆっくりと目を閉じようとした。優男のニヤケ顔を見ながら。
あ、これはやばい──かも。
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