カパチタ・アッロガンテ

うー

文字の大きさ
5 / 15

第四話

しおりを挟む
 七月六日

 カパチタを発生させる事が出来て、学校から去らずに済んだ。身体強化、反射神経や筋肉量の増加、痛覚の遮断、明らかに戦闘向きだった。
 しかし、最初からチップが入っていたなんて思いもしなかった。相反現象ダブルブッキングというらしいが最悪、脳が使い物にならなくなる可能性もあった。そう思うとゾッとしてしまう。
 父と母が何を思って俺の頭に、チップを埋め込んだのか、今となってはわからないが俺にとっては唯一の両親との繋がりだ。

 第四国民カパチタ育成学校 戦闘訓練場

 能力テストの結果によるクラス替えを行ってから約二週間後、かなり本格的な実戦授業が行われていた。二十人のクラスメイトと二人組みを作り、二対二の実戦を行うペア戦だ。
 俺の片割れは柊だ。自分の場合、本来なら遠距離を得意とするカパチタを相棒にするべきだが、相手の事が分かっていない方より、よく分かっている奴と組んだ方がやりやすいだろう、という理由からだった。
 舞台の右端に俺と柊、反対側に相手となるペアが立っていた。
「鬼塚、準備はいいか」
「柊こそいいか」
 はっ、と鼻で笑いながら「ぬかせ」とハモるように言うと、熊子先生が戦闘を始める合図、手に持つ回転式拳銃の空砲を上に向けて発砲した。
 音と同時に向こうとこちらは動き出した。柊はメリケンサックから、自慢の力を活かし斧槍ハルバードを得物として持ち、俺は身体強化を活かすために二本のコンバットナイフを持っている。
「鬼塚! 飛ばすぜ!」
 柊がハルバードの三日月形をした斧頭を地面に叩きつけると、俺の足元の地面が盛り上がり俺を押し上げた。
 空に高く上がった俺は腕の筋肉量を増加させた。肥大化した腕を大きく振り、相手側の少し前の地面に拳を叩きつけた。
 痛覚というのは身の危険などを回避するための合図だ。それを遮断すると言うことは大怪我に繋がる。しかし、痛みがあると人は無意識に避けてしまう。

 どうやら意識を失っていたようだ。全身に包帯を巻かれて保健室のベッドの上で目を覚ました。
 相変わらず無表情な熊子先生が呆れたようにこちらを見ていた。柊は授業を受けている最中らしい。
「鬼塚君、カパチタを使うのが楽しいのは分かりますが、キャパを超える使い方は関心しませんよ」
 至極もっともです。聞くと全身から血を吹き出してそのまま倒れたらしい。身体強化をしたのはいいが、それでも体が衝撃に耐える事できなかったようで、その結果が穴という穴から血が吹き出した、という事らしい。さながらそこは地獄絵図のようだったそうだ。
「それでどうですか? カパチタを使うのは楽しいですか」
 そう問われて俺の顔には無意識に笑みが浮かんだ。それを見た熊子先生もよかった、と少しだけ笑ったような気がした。そしてすっ、と一枚の封筒を渡してきた。帰ったら開けてください、とだけ言い残し、彼女は教室へと戻っていった。
 それと代わるように学友である一人の男が入室してきた。確か、さざなみ恭一きょういちといった名前だったはずだ。天然なのかかけているのかは知らないが、パーマが特徴的な男だ。
「裏切り者のガキは役にも立たない力なんだなやっぱり」
 なるほど。そういう事か。随分と偉そうな言い方だし、何よりも人を見下したように顎を上げている人間は気に食わない。
 痛む体を起こしながら俺はベッドから降りた。
「随分な言い草だな」
「その通りじゃないか? お前の両親は国を裏切って逃げたんだからよ」
 確かに俺の両親は世間では他国へ技術だけ持って亡命した、と思われている。その理由で俺を避けるのは別に構わない。厄介事に関わりたくないのは誰だって同じだ。だが、それを理由に喧嘩を売られるのは納得がいかないし、気分が悪い。
「あぁ、そうだな。だからなんだ、それがお前に関係あるのか? あまりまどろっこしいのは好きじゃない、何が言いたい。何が目的だ。殴りたいか?」
 そう眉間に皺を寄せながら詰め寄るように連続して問いかけると、頬を殴られた。柊の拳に比べれば重くはない。
「うぜぇんだよ!」
 そう叫ぶと保健室から出ていった漣を、ため息混じりで俺は見ていた。これから忙しくなりそうだ、と心の中でもため息を吐いた。

 七月十日

 漣 恭一が俺に絡み始めて四日が経った。他の学友に彼について情報を聞き出してみると、俺にしている事と同じような情報がボロボロと出てくる。どうやら俺だけを目の敵にしている訳では無いようだ。
 彼はとある企業の社長の子供らしいのだ。昔から甘やかされたきた為か、性格が捻じ曲がっており、それも鉄のような頑固さで治せる気もしない。家が名の通ったお金持ちという事でやり返される事も無かったのだろう。

 さて、今日は七月十日だが漣は俺の事をまるで、親の仇のように付け狙ってくる訳だが、柊に話してみると面白そうな事やってるじゃねぇか、と指をボキボキと鳴らしていた。彼も見た目的にはあっち側だが。
 教室の席で俺は柊と話していたのだが、どうやら柊と居る時には何もしてくる気配は無い。
「そういや、柊はなんでカパチタを使う時に技名? ぽいこと言ってるんだ? 好きなのか? そういうのが」
「ん、いや、確かにアニメも漫画も見るが、そういう訳じゃねぇよ。結びつけてんだよ、カパチタをどう使うか、どんな事を起こすのか、ってな」
 以前から気になっている事を柊に問いかけた。彼はカパチタを使う際、その行動に名前を付けているのだ。勿論、悪い事だとは思わないがやはり気になってしまう。
「どんなに想像力が富んでてもよ、思い描くまでに時間がかかっちまう。それを簡略化するためのもんだよ」
「彼のやっている事は正しいですよ」
 そこに熊子先生が入ってきた。次の授業で使う教材を教卓の上に置き、またこちらに戻ってきて話を続けた。
「行動に固有名詞を付ける事によって、迅速に発動出来るようになり、これを能力の固定化と言います」
 なるほど。スイッチみたいなものか。俺も今度考えてみようか。そこで授業の始まりを告げる鐘が鳴り響いた。
「柊君、座学の途中にカパチタを使って鬼塚君にイタズラしないでください」
「あ、サーセン」

 その日の夜、寮のベランダに動物の死体が置かれていた。他に「死ね」と、地面一面にびっしりと書かれていたのだ。ここまで来ると流石にマズい。これはただのイジめで済ませるには危険だ。誰がやったのかはすぐに分かった。誰かと思考を巡らす必要もなく分かった。
 ここは一つ友の力を借りるとしよう。俺は柊に連絡を取った。事情を説明し、部屋まで来てもらった。まず最初にベランダを見た時の反応は、苦笑いだった。
「こりゃまた随分とやる気が入ってるじゃねぇか」
「正直このやる気をカパチタに向けてほしい所だが、柊、俺は久しぶりに頭に血が上りそうなんだ」
「結構な事じゃねぇか。だがやり方を間違えんじゃねぇぞ」
 任せろ、と俺は地面の血を拭きながら笑みを浮かべた。柊も手を貸してくれるそうだ。まるで童心に帰ったようにその日は柊と悪巧みをしていた。
 仕返し、と言えば可愛く聞こえるが、考えている事はそんなに可愛いものでは無い。
 そういえば、中学の頃にもこんな事があったような気がするが、その頃の記憶はあまり覚えていない。俺は自分自身をあまり覚えていない。もしかすると、俺も自分で思っている以上に捻じ曲がっている性格をしているのかもしれない。
 翌日、俺と柊は揃って遅刻し、熊子先生に叱られるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...