ブラックエンペラー

うー

文字の大きさ
上 下
4 / 4

ラニウスと過ごす日常 2

しおりを挟む
 今日もお日柄もよく、ワタクシとラニウスは家の中でお喧嘩をしておりましたとさ。
「おいてめぇゴルァ! ふざけんじゃねぇ!」
 今日も響くのは俺の怒号、声だけ聞くとまるで俺がDV夫みたいだが、それは違う。こいつが悪い。
 何故なら、こいつは俺が入ってるのに風呂に入ってきたからだ。
「なんで朝から風呂入ってんねん! 女かお前!」
「お前し〇かちゃんに謝れよ! 男だって風呂が好きなんだよ!」
「誰やねんそれ」
「知らねぇのは当たり前だよな!」
 俺にとって風呂とは一人になれることが出来、色々と考え事を整理が出来る場所だ。故に少々長風呂になっちまうかもしれないが、それでも入ってくる事はないだろう。
「あんたの小さいナニなんか興味ないわ、もっとデカくなってから出直せや」
「はぁぁ!? てめぇざけんじゃねぇぞ! 俺のナニが小さいだぁ!?」
「小さい小さい! まだ子供の方がでかいんちゃうか?」
 こいつケラケラと馬鹿にしたように笑いながら言いやがって! 男にそれは言っちゃダメだろうが!  男の子だって傷つくんだぞ!
「なら確認しろよ!」
「なっ!? あんた変態やな!!」
「うるせぇ! こちとら男のプライドをズタズタにされてんだ! つべこべ言わずに見やがれってんだ!」
「やめい!!!」
 ラニウスに腹部を良い感じに殴られて、俺はその場に倒れてしまった。
 全く、こいつはもうちょいお淑やかさってのを身につけろってんだ、そうすればまだマシになるのに。

 さて、俺達はパイセンであるメアリーに職場に呼び出されていた。というのも、先日から一緒に暮らしてるわけだが、近隣住民から苦情が届いているらしい。それもそのはずだ、なんたって日夜問わずに怒鳴り声が聞こえるんだからな。そりゃ苦情も出るわ。そして、メアリー名義の家であるため苦情がメアリーの元へと行く、という事での呼び出しだ。
「お前ら、もう少し仲良くは出来ないのか?」
「そりゃぁ無理って話だぜメアリー、どうしたって反りが合わねぇんだからよ」
「せやせや、ハナから仲良うなろうとせぇへん二人が上手くいくわけあらへん」
 お互いため息を吐きつつ、睨み合った。確かにこいつとは反りが合わねぇ、それも壊滅的に、だ。俺がもう少し丸くなりゃぁいいだけの話なんだけどな。
「……お前らは一応相方同士になるんだ、もう少し上手くやらねば大変だぞ」
「相方?」
 聞くと、騎士は二人一組が基本らしく巡回や休暇も、二人で揃って行うそうだ。それでメアリーは俺とラニウスを組ませる予定だったらしい。
「……まぁ、だが、お前らがその調子なら無理だろうな」
「無理やわ。こいつと常一緒やなんて気狂うわ」
「は? てめぇ口の利き方には気をつけろよ」
 俺はラニウスと額と額をぶつけ合った。久しぶりだぞ、こんなにメンチを切ったのは。
「……全く、わかったわかった、明日にでもお前らの相方を変える、今日一日は好きにしろ」
 深いため息を吐き、メアリーは頭を抱えてそう言った。ふん、と俺はすぐに部屋を後にした。
 何をするでもないが、イラついた頭を冷やすにはやはり散歩だ。俺は町を歩き始めた。
「はぁぁ……女ってめんどくせぇ、っとすまねぇ」
 不意に方に衝撃が来たと思えば、前から歩いていた奴に当たってしまった。俺の不注意であるため、素直に謝り、去ろうとしたが肩を掴まれた。
「いてぇな! こりゃぁ骨が折れてるかもしれねぇな!」
「うっわマジかこいつ」
 とりあえず、古い詐欺師だな、と思いつつその男の顔を思い切り殴り付けた。そんなにヒョロいから骨が折れんだよ、カルシウム取れカルシウム。
 めんどくせぇ、と心の中で何度も繰り返し俺は再び町の散策を始めた。
 歩き続けているとふと、以前ラニウスと入った喫茶店の目の前に来ていた。はぁ、なぁんでこんなとこ来ちまうかね? 来ちまったものは仕方ねぇし、寄っていくか。
「いらっしゃい、おや、この前の」
「お久っす」
「おやおや、何かあったのかい?」
 マスターは親しみのある笑みで口角にシワを作り、以前俺が頼んだものと同じものを出してくれた。
 ラニウスとの一件をマスターに話すとほっほっほ、と笑っていた。
「私は君とラニウスがとても合っていると思ってるんだがねぇ」
「いやいや、マスターそりゃないっすよ、あいつと俺は水と油ですよ。顔を合わせりゃ喧嘩で疲れるし……」
「……自分と張り合える存在は楽しいだろう?」
 マスターの優しい笑みと言葉に俺は静かに頷いた。確かに楽しくないわけじゃない。殴り合いの喧嘩もするし、罵詈雑言が飛び交う口喧嘩もする。だからといって本心から嫌いなわけじゃない。
「君達はね、少しばかり正直になれないんだ。だからこそぶつかってしまう。こういうのは時間は解決してくれない、解決しようとしなければ解決しないんだ、まずは君が正直になってみては?」
「……そう、っすね……はぁ、マスターあざっす! あっ、支払いはラニウスにツケといてくださいっす!」
 そう言ってコーヒーを飲み干すと、俺は手を振りながら見送ってくれるマスターに頭を下げつつ、家に居るであろうラニウスに会いに走った。
「クソ、なんで俺があんな女のために体力使ってんだよ! あぁイライラするぜ!」
 家に着く頃には俺は汗だくになり、息も切れ切れだった。汗を拭い家の扉を開け入っていくとテーブルに頬杖をついているラニウスの姿があった。
「おい、馬鹿女」
「なんや、馬鹿男」
 俺はラニウスの前に座り、一言だけ本音を伝えた。小っ恥ずかしいが、仕方ねぇ。
「相方、てめぇと組みてぇんだ」
「奇遇やな、うちもや」
「……俺は如何せん正直者じゃねぇ」
「知っとるわ、せやけど、悪い奴やない……せやさかい、うちはアンタと相方組むんや、後悔させんといてや?」
 握手を求めてくる相手の手をじっ、と見つめた後ハイタッチのように相手の掌を軽く弾いた。
「握手なんて柄じゃねぇだろ」
「……ははは! せやな!」
 その後、俺達はパイセンメアリーにやはり相方になるという事を伝え、正式にペアになる事が決まった。さぁて、これから大変だぜ。

「なぁラニウスよぅ、なぁんでこんな状況になってんだ?」
「なんでやろうな、多分これには深ぁいわけがあるんや」
「よし殴る」
 とりあえず一発だけ殴ろう、そう思えるほどに部屋が汚い。何故こんなにも汚く出来るんだ? 謎だ、不可解だ、理解不能だ。
「自分ちょっと神経質ちゃうか? それともいらちか?」
 このクソ野郎、足の踏み場もない部屋を見たら、誰だって俺みたいになっちまうっての。
 俺は綺麗好きなんだ、自分で言うのもなんだがな。だからラニウスの自室の惨状がとてつもなく許せない。
「てめぇもうちっと家事できねぇのか?」
「なにゆーとんねん、うちはもうものすごい、その、家庭的や」
 おう、部屋の惨状を再確認してから言ってくれや、とツッコミながら、俺は脱ぎ散らかしている上着や下着を綺麗にたたみ始めた。
「あっ! そこ開けたアカンで!」
 あん? と言いつつクローゼットを開くとそこにはラニウスの性格からは、想像も出来ないほどに可愛らしいフリフリの服が沢山あった。あぁ、好きなのねこういうの。
「もー! 開けんなや! 見んなや! ほんまデリカシーない男やのう! せやからモテへんねん!」
「そのまんまてめぇにお返ししてやるよ! てか、モテねぇわけじゃねぇし、ただ興味ねぇだけだし」
「え、自分女より男が好きなん?」
「ちげぇ!!」
 しかし、一枚だけ綺麗に畳まれている服があった。以前俺が買った服だ、ったく、こういうとこは可愛いんだよなぁ。
「随分と大事にしまってんのな?」
「当たり前や、人から貰ったもんは大事にせなあかんやろ」
 可愛いやつだ。常にこういう態度で居てくれたら、俺だって可愛がってやるのによ。もうそりゃぁよしよししまくるぜ。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...