モノクロス

うー

文字の大きさ
上 下
2 / 11
プロローグ

しおりを挟む
 昔から周りには誰かが居た。しかし、それは、私を認めて、居るのではない。がその誰かを周りに引き寄せているに過ぎない。だが、私はそれを、受け入れる事しか出来ない。私の中には何も無いのだから。

 その女は空虚だった。中身が無い、だ。だが、中身がないということは何にでも染まる。何でも受け入れる。何でにも変わる。
 だからこそ、彼に出会ったのは女神の加護なのか、それとも女神の呪いなのか。

 女が立っているのは荒野のとある場所にある水の湧き出る小さな泉。荒野を吹き付ける風と自身の吐息しか聞こえないほどの静かだった。
 女は何故こんな場所に居るのか、何故自分の名前が思い出せないのか、記憶が混濁していた。だが女は意外と楽観的だった。

「思い出せないのなら、思い出せなくてもいい、かな?」

 女は空っぽだった。どこか乾いていた。
 目的も思い出せず、女は泉の辺で空を仰いでいた。どんなに世界が悲惨でも自分には関係の無い、そんな事は関係の無いのだ。
 女は陽気に歌い始めた。透き通るような声色だった。そんな綺麗な歌声におびき寄せられたのか部隊からはぐれた機甲兵クリーガーが姿を現した。
 この荒野で魔法使いコルドゥーンか機甲兵以外の人間を目にするのは希だ。隊商キャラバンや旅人ならいざ知れず、ただの、それも美しい女が一人で荒野を彷徨くなんて、自殺行為だった。
 戦地に赴いていた兵士が女を見るとどうなるだろうか、それもか弱く、周りには誰もいない、声を出しても誰もいない。そんな状況になれば犯すだろう。

「見ろよ。女だ」

「上玉じゃねぇか。どうせ本隊に戻れねぇんだし、楽しんじまおうぜ」

 女は機甲兵達に気付かず歌い続けた。そしてしばらくすると機甲兵に異変が起きた。

「な、なんだ……体が……」

「っぁ、頭がいてぇ……」

 体の一部に痛みを感じるようになっていた。次第にそれは強くなっていき徐々にそれが表面に現れてきた。

「ぐあああっ! 頭がっ!」

「う、腕がァ!」

 機甲兵は戦闘服越しでもわかるほど、痛む部分が肥大化していった。そして最後には、まるで風船に針でも刺したように破裂した。
 その破裂音でようやく機甲兵だったものに気付いた女はそちらの方に振り向いた。女の目線にあるのは、血を噴水のように流しながら倒れている機甲兵達の姿だった。

「なんだろ、あんな所に死体なんてあったかな?」

 女は首を傾げて不思議そうにそれを見ていた。しかし、女はすぐに興味をなくした。彼女には関係の無いだから。


 世界は残酷だ。だが、だからこそ美しい。
 白と黒以外にも色がある。赤や青、黄、世界を彩るのには白と黒だけでは足りない。だが、黒で塗りつぶす者がいる。白で全ての色に変わる者がいる。
 それが彼と彼女だ。

「……おい、女。名は」

「……白」

 偶然出会ってしまった白と黒。


「記憶がねぇんだろ? なら一緒に探してやるよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

丘の上の嘆き岩

森羅秋
ファンタジー
とある街のとある孤児院の裏の丘の上に突然現れた大きな岩。 毎日深夜になると嘆き声を響かせる岩に恐れ、次々と家族が去ってしまう。 家族はきっと戻ってくる、と孤児院で待ち続けるフェール。 そんなある日、嘆き岩の様子を見に行った帰り道で、フェールは奇妙な魚と出会うことになる。 ***************** 中編小説くらいの長さです。 こちらの作品はpixivに載せているものを加筆&修正したものです。 *****************

処理中です...