レイヴン戦記

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鴉の旗

今後の課題

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 盛大な祝宴と小さな葬儀が執り行われた、残念ながら死産となったアルマの子の葬儀と、無事生まれたユリアーヌスの双子の子供の誕生祝いだった。
 
「30点ってとこね」

「おまけして10点くらいなんじゃない?」

 ユリアーヌスとヒルデガルドの評点は厳しかった、その評点を受けるアルマにしても心当たりがあるだけに、微妙にバツの悪そうな顔をする以外に対処法がなかった。

「まぁそこまで悪くなかったんじゃない?」

 テオドールの執り成しを二人係りで一蹴する。

「甘い!だいたい死産の子の葬儀中に欠伸するのは流石におかしい!」

「しかも、ちょっとウツラウツラと居眠りしかけてたでしょ?」

 言われるとテオドールもそれ以上の弁護はしずらかった、アルマも心当たりがあるだけに黙ってしまった、もっとも責めているユリアーヌスもヒルデガルドも本気で怒っているわけではなく、半分以上冗談であるのは分かっているのだから。授乳などで夜の睡眠時間がしっかりとキープできず、どうしても日中でも少し居眠りをしてしまう事があるため、実の子の葬儀の最中でもついつい欠伸が出たり、居眠りをしかけてしまっていたのだった。

「まぁそれはいいとして、よかったの?実子ってことにして?この後男児が生まれたらどういうシナリオでいくつもりなの?」

 アルマにとっても気になる所であった、テオドールとしてもアルマのいない所で聞き後から伝えたのでは不安を感じたり、深読みしすぎて心配の種になるのではという気を効かせての質問であった。

「どこかに養子に出すとかもありうるし、適正次第じゃないかしらねぇ、例えばだけど王様に向いてないタイプの人間もいると思ってるのよ、むしろ田舎の小領主として捨扶持でも貰ってのんびり生きるのが向いてる人間を無理に王様にしても苦痛でしょ?だから適正を見た上でそれに沿うシナリオを用意すればいいと思ってるから、今はまだいいんじゃない?」
 
 ユリアーヌスの中にアルマの子を害しようという発想はほとんどなかった、しかし自分で子を産んでみればやはり自分の子は可愛いだけに、できればより多くを自分の子に残してやりたいという思いも産まれていた。だからこそ現段階で未来を決定するかのような明言を避けた、もっとも現状でいくら口約束をしても覆す事など造作もない事だが、ヒルデガルド達が一斉に反目し孤立無援の状態を作るのは小さな村社会では時に権力の大きさを度外視した事態に陥る事もありうるだけに避けねばならぬ問題と思っていた。
 


 村での祝宴は盛大なものであった、先の戦役での沈鬱なムードを吹き飛ばす目的や、新たに村人となった者達の歓迎も含めて、盛り上げようと必死になっている節さえあった。一部にはアルマの死産を心配する声も聞こえたが、産婆や手伝いとして参加していた名主衆の妻などの様子から、なんとなしに問題のなさを感じ取る者もいたが、言わぬが花と黙って祝宴のムードを楽しんでいた。
 そんな中で人気を集めたのはテオドールとマルティンが美人と目を付けたアラベラだった、独身の村の若い者は何気なく近寄り話をする機会を持とうと躍起になっていたが、そんな若衆をアラベラは失礼のないように愛想よく見事にあしらって見せていた。彼女は元居た村でも求婚者が出るなど非常に美人で性格も悪いわけではないのだが、秘めた野心が大きかった、村の村長や名主の家の息子でも物足りず貴族階級の所、さらに言えば王族への嫁入りを夢見ていた、そんな事を口にすれば馬鹿にされるのが落ちであるから誰にも言ってはいなかったが、その野望の火は消える事無く燃え続けていた。ユリアーヌスは王姉であるだけに、王都に上る際は同行のチャンスもあり、その流れで王様に見初められて一気になんとかなるかもしれない、そんな夢を見ていた。
 そんな彼女の思いも露知らずルヨは盛んにモーションをかけていたが、愛想よく受け流されるのみで効果や成果はまったく期待できないものであった。



 祝宴が終わり、現実的な問題を目にすると若干の現実逃避をしたくなるような問題の山であった、なるべく触れないようにしていた問題がここにきて避けられないと判断したヒルデガルドが口火を切った。

「報告や移民依頼の調整に王都に上らないとまずいでしょうね、ユリアーヌスが手紙で依頼はしておいてくれただけに、それを完遂させないとね」

 テオドールにしても、もう王都に行きたくない、などと言っていられない事は理解していたし、完遂しなければならないというのは分かっていた。

「ちなみに、足りないものが何かわかってる?何もかもが足りないって事じゃなく、優先的に確保しておかないと困るものって意味でね」

 彼女の問いかけに、足りないものが多すぎて、何を優先しなくてはいけないのか即答できなかった、その様子を見ながら、今度はカイに問う。

「カイ、あなたは分る?」

「私の代わりでしょうな、まだ大丈夫なつもりですが、さすがにあと何年現役でいられるか保証しかねますからな」

 カイの回答に軽く頷くが、この問題はかなり深刻でもあった、従士長として騎士に準じる立ち居振る舞いを要求され、しかも信用できる人材、軍務経験も豊富、そんな人材は村にはいなかった、今から人材育成では間に合いそうもなく、外部から招く場合この家には口外できない秘密が多すぎる、どうしていいのか名案は浮かばなかった。

「言われてみればたしかに早期に解決しておかなければならないのは理解できた、なにかいい案はないのかな?」

「育成が時間的に無理でしょうから、外部一択になるわね、ただし信頼って点で問題なら一蓮托生で、うちが潰れたら色々と困るところから引っ張るのが妥当でしょうね」

「伯爵家からか・・・」

 それが理屈的には最も妥当な策であることは分かっていた、しかし危惧すべき点としてパワーバランスの問題があった、内部で伯爵派の人間が増えることにより主権が脅かされる可能性があり、最終的には乗っ取られるような危機感を感じさせるものがある。
 
「王都にいけば宮廷騎士家の次男や三男で庶民落ちを受け入れる者も多いわ、そいつらにとってうちの家を売って得られる目先の金より安住の地を選ぶんじゃないかしら?もっとも目先に転びそうなのは最初から使い物にならないだろうから、刎ねないといけないけど」

 ユリアーヌスの意見ももっともなのだが、テオドールには正直どうやって人を集めたらよいのか?仮に応募が来たらそれをどう審査すればいいのかに皆目見当がつかなかった。

「それってどういう手順で募集をかけて、どういう選考基準で採用不採用を決めればいいのか分からないんだよね」

「イゾルデを連れて行けばいいわ、私は産後で少し王都まではきつい、ヒルデガルドも馬車での旅は避けた方がいい、となるとわりと詳しいのはイゾルデが助言してくれるわ、なんなら手を着けてもいいわよ」

「たしかに、王都の宮廷騎士家の出身だし、そういうの詳しそうだしね」

 『手を出していい』の部分は完全に無視して話を進める、そんな様子を若干不満げに眺めるイゾルデだが、ヒルデガルドが横槍を入れてきた。

「大丈夫なの?微妙にポンコツの臭いがするけど」

「大丈夫よ、一応これでも30年近く側仕えしてきてるんだから」

「え?40年近くの間違いじゃないの?」

 その場にいる者達はみな逃げたくなった『それを言ったら戦争だろう!』みながそう思う中、イゾルデは勝ち誇るように言う。

「まだ、四捨五入で余裕で30です~、そこ!いちいち数えない!」

 彼女の発言を聞き、指を折って数え始めたアルマを強く糾弾する、真実の追及が正しい事ばかりではないので、ここは関わらないようにするのが最善の策であると思い、皆は静かにしていた、唯一人を除いて。

「まぁ、そんな事はどうでもいいとして、グリュックの乳兄弟も欲しいところよね」

 彼女の発言に、アルマが恐る恐ると質問する。

「乳兄弟とか必要なんですか?よく分からないんですが」

「ええ、未来の側近候補、相談役として、いた方がいいわね、なんでも言い合える相手が側にいるって貴重よ」

 これも悩ましい問題であった、農民の中で似た年齢の者を育てるのも手だが、これは相手の家との繋がりを作るという側面もあるため、やはり王都で人材を求める事になるのであろう、そんな話をしながら最後にさらに口撃をする事を忘れなかった。

「マリアさんが産んでくれると早いんだけどね」

 先ほどからの口撃に少なからず思う所のあったイゾルデは反撃を開始した。

「テオドール様、今晩お伺いしてよろしいでしょうか?仕込みがないとさすがに産めませんので!」

 場は完全に凍り付いた、色々つっ込みどころがあり過ぎて、どう言っていいのか分からない、そんな空気が場を支配した。
 
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