ポンコツヴァンパイアが貧血男子を好きになってもいいですか?

風音

文字の大きさ
上 下
65 / 66
第八章

64.旅立ちの瞬間

しおりを挟む



  ーー場所は、異次元空間の部屋。
  大広間から河合さんに連れて来られた私は、身体にわずかな煙幕の光を浴びながら聞いた。



「どうして私をここに……」

「今からミーナに魔法をかけて人間にするから、それが上手に出来たら人間界に帰してあげる」


「えっ! 私を人間界に??」

「でも、今から戻る所は人間界を去った時間と場所じゃない。ヴァンパイアの修行でここを出発した91日前の同じ時間と場所なの。つまり、人間界でヴァンパイアとして過ごしてきた90日間が、次は人間として同じ時間をまた過ごすことになるの」


「……つまり、滝原くんと出会う前って事?」

「そうよ。これだけは私がどうこうできる問題じゃなかった。この異次元空間は、何年経っても何十年経っても16歳になる90日前からスタートされるように魔法をかけられているからね」


「そっか……。じゃあ、またみんなと出会う所から始まるんだね」

「私はいないけどね」



  彼女はそう言うと、少し寂しそうに微笑む。



「河合さん……」

「でも、小さなお土産を送っておいたから楽しみにしててね」


「えっ、お土産って?」



  言ってる意味がわからなくてキョトンとすると、彼女はクスッと笑う。



「実はあなたに嘘をついたからそのお詫び。この前、1日に2人のヴァンパイアに吸血されたら死ぬかもしれないって言ったけど、あれば嘘なの」

「えぇっ?!?!」


「本来なら別に何人に吸血されても問題ないの。司令部からはそんな説明されなかったはずよ。それに、私は滝原くんに一度も吸血してない。ミーナの反応が見たくて気持ちを煽ったの」

「えっ……、だ、だって……最終日に滝原くんの家に行ったって……」


「あぁあ~。家には行ったけど魔法で軽く眠らせただけ。ミーナの為に吸血しやすくしてやったのに、好きな人の血を吸えないとかありえない」

「ちょ……ちょっと待って。頭の中が整理出来ないんだけど……。えーっと、えーっと……つまり、私が勝手に吸血したと勘違いしてたって事?」


「そうね。吸血するとは言ったけど、吸血したとは言わなかった。なのに、簡単に騙されてくれたから案外チョロかったわ」

「(酷いなぁ……)吸血しやすくと言われても、家はオートロックで入れなかったし、逆にそれで時間がなくなっちゃったし」


「それは計算ミスだった」

「計算ミスっ……。こっちは深刻な問題だったのに……」


「あら、ごめんなさい」

「あっ!  そうだ!  それに、河合さんのミッション……。ヴァスピスは2点灯だったでしょ?  あれはどうして……」



  実際のところ、彼女のヴァスピスを見て滝原くんに吸血したんだなと思い込んでいた分気持ちがついていけない。



「実は私、本当は20歳なの。つまり、ミッションなんてもう関係ない。それに、魔法の勉強中だから、人間界にいる時に少しだけ魔法を使って自分が有利なように情報を塗り替えたわ」

「情報を塗り替えた……?  例えば?」


「ん~、そうねぇ。レク係を3人から4人に変更させたり、校外学習のあみだくじのペアを入れ替えたりかしら」

「そうだったのね……」



  つまり全ての話を纏めると、私は彼女の都合によって気持ちが上下されてたのね。
  しかも、想像力を膨らませながら過剰に信じ込んだ分、自分の足を引っ張ってたとは……。



「運命を感じたならきっと何度でもやり直せる。実の母親も滝原くんも……」

「うん」


「これからは自分の手で幸せを掴み取ってね。でも、ヴァンパイアだった時の記憶は口外しないと約束くれる?」

「わかった。約束する」


「じゃあ、魔法をかけるよ。身体の力を抜いてね」



  彼女がそう言って一歩後ずさりすると、虹彩を青く光らせて、目一杯開いた両手を前に突き出して何かを念じた。
  呪文のような言葉は聞き取れなかったけど、ハリケーンのような空圧がドスンと身体を突き抜けていくような感覚があった。

  すると、ヴァンパイアだった私の身体は、あっという間に姿形と共に数時間前の姿に戻る。



「凄い……。人間の姿になってる」

「ヴァンパイアの姿にはもう二度と戻れないよ。……だから、幸せになってね」



  彼女はクルッと背中を向けてそう言うと、駆け足に近いほどの足取りで扉に向かった。
  私は今日までの彼女との思い出が蘇った途端、このままではいけないと思って声を発した。



「待って、紗彩!!」



  出会ってから今日初めて名前を呼び捨てすると、彼女の足は止まる。
  しかし、振り向きはしなかったのでそのまま背中に向けて言った。



「ありがとう。ずっと友達だからね。また会えるからバイバイは言わないよ」



  紗彩はそのひと言によって涙が溢れそうだったが、唇を噛み締めて下を向いたまま美那の元に戻った。



「生意気なのよ。……でも、幸せになってね」



  左目からポロリと涙を溢すと、両手を前に突き出して異次元空間の中に美那の身体を押し込んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

ファンファーレ!

ほしのことば
青春
♡完結まで毎日投稿♡ 高校2年生の初夏、ユキは余命1年だと申告された。思えば、今まで「なんとなく」で生きてきた人生。延命治療も勧められたが、ユキは治療はせず、残りの人生を全力で生きることを決意した。 友情・恋愛・行事・学業…。 今まで適当にこなしてきただけの毎日を全力で過ごすことで、ユキの「生」に関する気持ちは段々と動いていく。 主人公のユキの心情を軸に、ユキが全力で生きることで起きる周りの心情の変化も描く。 誰もが感じたことのある青春時代の悩みや感動が、きっとあなたの心に寄り添う作品。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】君への祈りが届くとき

remo
青春
私は秘密を抱えている。 深夜1時43分。震えるスマートフォンの相手は、ふいに姿を消した学校の有名人。 彼の声は私の心臓を鷲掴みにする。 ただ愛しい。あなたがそこにいてくれるだけで。 あなたの思う電話の相手が、私ではないとしても。 彼を想うと、胸の奥がヒリヒリする。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...