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第七章

53.誠意

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  ピンポーン……  ピンポーン……

  私は今日も滝原くんのマンションのエントランスからインターフォンを押した。
  背中からは虫の大合唱が聞こえてくる。

  時には住人の帰宅の開錠でインターフォンから避けて。
  時には集中豪雨に遭って全身ずぶ濡れのままインターフォンを押す。

  滝原くんに学校で話しかけても私の声が聞こえないようにイヤホンをしたり、すぐに何処かに行っちゃったりして避けている事があからさまになっていたから、ここ数日はこうやって毎日家に出向いていた。


  でも、今日もインターフォンに出てくれない。
  最近は学校でお弁当を手渡せてないし、ご飯も作りに行けてない。
  だから、ここ数日は使い捨て容器におかずを詰めて宅配ボックスに入れておいた。
  受け取ってくれるかわからないけど、河合さんが吸血しても耐えられる身体でいて欲しいと思っているから。


  一方の夏都は、美那が諦めてトボトボと帰宅していく姿をベランダから眺めていた。
  姿がなくなると、宅配ボックスに行ってレジ袋に入ったお弁当を取り出して部屋に戻る。

  テーブルの上に置いたレジ袋からお弁当を取り出すと、フタの上には手紙がセロテープで貼り付けられていた。
  それ剥がして手紙を読み始めると、そこには美那の気持ちが書き綴られていた。
  


『滝原くんへ

  話を聞いて欲しいので手紙を書きました。
  最後まで読んでくれると嬉しいです。

  確かに先日言ったとおり、私は吸血目的で滝原くんに近づきました。
  それは、ヴァンパイアとして生まれ持った使命だから。
  最初のうちはさっさと吸血を終えて自分の世界に戻ろうと思ってました。

  でも、そこで問題が生じたのです。
  90日以内に三回吸血しなければヴァンパイアではいられなくなる自分と、吸血は身体に負担がかかる滝原くん。
  私達2人の相性は最悪で吸血をためらいました。

  この2つを解決するには、滝原くんが栄養をとって元気になる事だと思って、お弁当を作る事にしたのです。

  滝原くんの体が元気になったら、また大好きなサッカーが出来るんじゃないかと思ったら、次第にお弁当作りも楽しくなってきて……。

  私が吸血しても滝原くんが倒れなければいいなって。
  バカバカしいと思うかもしれないけど、自分と滝原くんが助かる方法はそれしかなかった。

  私はミッションが成功してもしなくても、7月7日の23時59分には人間界からいなくなります。
  そして、みんなの記憶から私という存在が消されます。
  だから、残り7日の間に滝原くんと仲直りがしたいです。美那より』



  夏都は手紙を読み終えると、くしゃっと握りしめた。
  受け入れられない気持ちと、美那が人間界を去って行くという現実。
  気持ちの整理が出来ないままお弁当のパックの蓋を開いた。

  中には、マグロのカツ、ほうれん草のおひたし、かつおぶし入りの卵焼き、ミニトマトと、栄養盛りだくさんのおかず。
  美那は自分とケンカしてる時でさえ体調を意識してくれている。



「くっそ……」



  夏都は美那の想いが心に浸透すると、消化しきれない気持ちと格闘が始まった。

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