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第七章

52.人間界の監視員

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  ーー場所はヴァンパイア界。
  ブリュッセルは背中で手を組みながらヴァンパイア城の窓の外の景色を眺めていると……。

  コンコン……
  ノック音が耳に飛び込んだ。



「入りなさい」

「失礼します」



  付き人は入室するとブリュッセルの隣について、先日依頼されたファイルを差し出した。



「こちらが4月9日に出発したミーナの個人ファイルになります」

「うむ。ご苦労だった」



  ブリュッセルは受け取ったファイルを開いてさっと目を通す。
  内容は、ミーナが人間界に発ってから昨日までの情報が書き記されている。



「同日に出発した者は全員ミッションを終えて戻ってきてるというのに、ミーナはターゲットと揉め事を……。その上、吸血は一度きり。……あいつは人間界に何しに行ったんだ?」



  ブリュッセルは顔を真っ赤にしながらワナワナと拳を震わせた。



「理由はわかりません。……ただ、一つ考えられるとしたら」

「考えられるとしたら?」


「あははっ、人間界をエンジョイしてるんじゃないでしょうかね~」



  付き人が空気も読まずに楽観的にそう答えると、ブリュッセルの眉間にシワが増えた。



「バカものーー!」

「ひえぇっ……」


「人間界にエンジョイもクソもあるかっっ!  ミッションを行う気がないなら人間界から引きずり戻せっ!」

「しかし、あと8日残ってますけど……」


「うるさいっ!  これは私からの命令だ!  さっさとヴァンパイア界に引き戻せ。今すぐ私の手で処分してやる」

「それはあまりにも……。もしかしたら期日までに間に合うかもしれませんし……」


「バカ者!  82日間もあったのに、たった一度ポッキリの吸血しか出来ないポンコツが残り8日間で2回吸血を?  地球がひっくり返ってもそれは考えられん!  早くポンコツのヴァスピスに魔法をかけてヴァンパイア界に引き戻すんだ!」



  カンカンに怒っているブリュッセルが手振りを加えてツバを撒き散らしながら付き人に指示を出すと……。



「ブリュッセル様、お待ちくださいませ」



  扉の奥から髪の長いある女性が入室した。
  ブリュッセルと付き人の話は一旦中断すると、声の方へ目を向けた。

  そのある女性とは紗彩。
  黒い長袖のロングドレスに身を包み、ひらりひらりとスカートをなびかせながらブリュッセルの元へ向かう。



「サーヤ。お前は一体何の為にミーナの監視をしてるんだ。お前が人間界に行ってから何ひとつ結果を出していないじゃないか」

「大変申し訳ございません。何度か気持ちを煽ったのですがいい結果に結びつかなくて……。確かにブリュッセル様がおっしゃるとおりです。だからこそ、残り8日でどこまで勝負出来るか見守ってあげませんか?」


「何故だ!  見守る価値もない」

「私はこれから最終手段に出ます。ミーナが人間界をきっぱり断ち切って戻ってこれるように仕向けるので見ていてください」


「……もし失敗したら?」

「自信はあります。……その代わり約束してくれませんか?」


「なんだ、言ってみろ」

「万が一ミッションが失敗した場合、ミーナの処分は任せて下さい。私の魔力で地獄の底へ突き落としてやります」


「……それほど自信があるって事だな」

「もちろん全力を尽くします」


「わかった。お前に全てを任せる。その代わり、何があっても全力で取り組むんだぞ」

「かしこまりました」



  紗彩は眉を動かさずに言いたい事を伝えると、一礼してから背中を向けて優雅な足取りで扉の奥へ去って行った。

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