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第七章
51.恋
しおりを挟むーー場所はファーストフード店。
放課後にここを訪れた私と澪は店内中央の4人席で向かい合わせに座っているが、お互いの表情は晴れない。
澪は怜の悩み。
そして、私は滝原くんの悩みを抱えている。
「はぁ……。そろそろ怜の事を諦めようかな」
澪は頬杖をつき、ドリンクのストローをクルクルしながら弱気にそう呟いた。
「えっ、どうして?(怜くんに告白された私が聞くことじゃないか……。しかも、告白されたなんて死んでも言えない)」
「あいつとは顔を合わせる度にケンカしてるし、ぜーんぜん私に興味ないし。1年後も2年後も3年後も関係が平行線なような気がしてさ……。はぁぁぁ~~っ」
澪は深く落ち込んでテーブルの上に雪崩れ込む。
「落ち込まないでよ。もしかしたらアピールが足りないんじゃない?」
「アピールってどんな?」
「えっと、ええっと……。例えば、怜くんにお弁当を作ってみるとか」
「きっとあいつの事だから毒入りとか難癖つけて受け取ってくれないよ」
「そんな事ないって! 澪の悪い所は悪い結果に怯えて行動に移さない事。自分が変わらないと怜くんも変わってくれないよ?」
「それは美那も一緒じゃない?」
「えっ、私?」
「校外学習の日に滝原とケンカしてからひと言も喋ってないんでしょ? どんな嘘をついたかわからないけど、そんなに1日に何度も滝原を目で追うくらいなら早く謝ればいいのに。……好きなんでしょ?」
「だからぁ、何度も言ってるけど別に滝原くんの事は好きじゃないってば!」
最近、澪はこの手の質問が多くなった。
何度否定しても澪の気持ちは揺らぎない。
私は全然そんな気がないのに。
「私もそうだからわかるの。恋というのはしたいからしてる訳じゃなくて気付いた時にはもう始まってるの。美那が滝原を目で追ったり、気にしたり、意識したり。滝原の事以外が考えられなくなったら、それはもう恋なんだよ」
「えっ……」
「ほら、心当たりあったでしょ?」
否定できなかった。
確かにここ数日は、ミッションよりも滝原くんの事で頭がいっぱいだった。
早く謝りたいって。
謝ったら以前の関係に戻りたいって。
下駄箱の前で胸をドキドキさせながらお弁当を渡していたあの頃に戻りたいって、何度も願っていた。
でも、冷たくあしらわれたあの日から臆病になっていた。
それは、きっと滝原くんの事が好きだから。
この恋が本気な分、諦められないのかもしれない。
ーーまずは、謝ろう。
その後については、謝った後に考えればいい。
私はこれが恋だと確信すると、気持ちがスッと楽になった。
「ごめん……、澪の言うとおりかも」
「美那……」
「確かに滝原くんの事で頭がいっぱいだよ。最近はお弁当を渡せてないから、ちゃんとご飯食べるのかな、とか。体調は万全なのかな、とか。また怜くんとケンカしてないかな、とか。滝原くんからしたら迷惑かもしれないけど傍に居たい。許してもらえないかもしれないけど、後悔したくない」
「うんうん」
「ずっと1人で悩んでたけど、気持ちに気付いたら少し楽になったよ。前向きな気持ちにさせてくれてありがとう。だから、澪も一緒に頑張ろう!」
「うん、頑張ろう! エイエイオー!」
「エイエイオー!」
人間界はやっぱり地獄だった。
ひったくりに遭うし、クラスの女子には嫌われるし、ターゲットが貧血だし、なかなか吸血出来ないし、川に転落するし、ヴァスピスは川に流されるし、滝原くんには避けられるし。
……でも、ピンチな時にはいつも誰かが救いの手を差し伸べてくれた。
地獄だけじゃないと身を以て知ったからこそ、私は今日まで人間界で頑張って来れたんだと思う。
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