上 下
52 / 66
第七章

51.恋

しおりを挟む



  ーー場所はファーストフード店。
  放課後にここを訪れた私と澪は店内中央の4人席で向かい合わせに座っているが、お互いの表情は晴れない。

  澪は怜の悩み。
  そして、私は滝原くんの悩みを抱えている。



「はぁ……。そろそろ怜の事を諦めようかな」



  澪は頬杖をつき、ドリンクのストローをクルクルしながら弱気にそう呟いた。



「えっ、どうして?(怜くんに告白された私が聞くことじゃないか……。しかも、告白されたなんて死んでも言えない)」

「あいつとは顔を合わせる度にケンカしてるし、ぜーんぜん私に興味ないし。1年後も2年後も3年後も関係が平行線なような気がしてさ……。はぁぁぁ~~っ」



  澪は深く落ち込んでテーブルの上に雪崩れ込む。



「落ち込まないでよ。もしかしたらアピールが足りないんじゃない?」

「アピールってどんな?」


「えっと、ええっと……。例えば、怜くんにお弁当を作ってみるとか」

「きっとあいつの事だから毒入りとか難癖つけて受け取ってくれないよ」


「そんな事ないって!  澪の悪い所は悪い結果に怯えて行動に移さない事。自分が変わらないと怜くんも変わってくれないよ?」

「それは美那も一緒じゃない?」


「えっ、私?」

「校外学習の日に滝原とケンカしてからひと言も喋ってないんでしょ?  どんな嘘をついたかわからないけど、そんなに1日に何度も滝原を目で追うくらいなら早く謝ればいいのに。……好きなんでしょ?」


「だからぁ、何度も言ってるけど別に滝原くんの事は好きじゃないってば!」



  最近、澪はこの手の質問が多くなった。
  何度否定しても澪の気持ちは揺らぎない。
  私は全然そんな気がないのに。



「私もそうだからわかるの。恋というのはしたいからしてる訳じゃなくて気付いた時にはもう始まってるの。美那が滝原を目で追ったり、気にしたり、意識したり。滝原の事以外が考えられなくなったら、それはもう恋なんだよ」

「えっ……」


「ほら、心当たりあったでしょ?」



  否定できなかった。
  確かにここ数日は、ミッションよりも滝原くんの事で頭がいっぱいだった。
  
  早く謝りたいって。
  謝ったら以前の関係に戻りたいって。
  下駄箱の前で胸をドキドキさせながらお弁当を渡していたあの頃に戻りたいって、何度も願っていた。


  でも、冷たくあしらわれたあの日から臆病になっていた。
  それは、きっと滝原くんの事が好きだから。
  この恋が本気な分、諦められないのかもしれない。

  ーーまずは、謝ろう。
  その後については、謝った後に考えればいい。


  私はこれが恋だと確信すると、気持ちがスッと楽になった。



「ごめん……、澪の言うとおりかも」

「美那……」


「確かに滝原くんの事で頭がいっぱいだよ。最近はお弁当を渡せてないから、ちゃんとご飯食べるのかな、とか。体調は万全なのかな、とか。また怜くんとケンカしてないかな、とか。滝原くんからしたら迷惑かもしれないけど傍に居たい。許してもらえないかもしれないけど、後悔したくない」

「うんうん」


「ずっと1人で悩んでたけど、気持ちに気付いたら少し楽になったよ。前向きな気持ちにさせてくれてありがとう。だから、澪も一緒に頑張ろう!」

「うん、頑張ろう!  エイエイオー!」


「エイエイオー!」



  人間界はやっぱり地獄だった。
  ひったくりに遭うし、クラスの女子には嫌われるし、ターゲットが貧血だし、なかなか吸血出来ないし、川に転落するし、ヴァスピスは川に流されるし、滝原くんには避けられるし。

  ……でも、ピンチな時にはいつも誰かが救いの手を差し伸べてくれた。
  地獄だけじゃないと身を以て知ったからこそ、私は今日まで人間界で頑張って来れたんだと思う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

男装部?!

猫又うさぎ
青春
男装女子に抱かれたいっ! そんな気持ちを持った ただの女好き高校生のお話です。 〇登場人物 随時更新。 親松 駿(おやまつ しゅん) 3年 堀田 優希(ほった ゆうき) 3年 松浦 隼人(まつうら はやと) 3年 浦野 結華(うらの ゆいか) 3年 櫻井 穂乃果(さくらい ほのか) 3年 本田 佳那(ほんだ かな) 2年 熊谷 澪(くまがや れい) 3年 𝐧𝐞𝐰 委員会メンバー 委員長 松浦 隼人(まつうら はやと)3年 副委員長 池原 亮太(いけはら ゆうた)3年 書記   本田 佳那(ほんだ かな)2年 頑張ってます。頑張って更新するのでお待ちくださいっ!

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

アナタはイケメン達に囲まれた生活を望みますか?  ▶はい いいえ

山法師
青春
 私立紅蘭(こうらん)高校二年生の如月結華(きさらぎゆいか)。その結華の親友二人に、最近恋人が出来たらしい。恋人が出来たのは喜ばしいと思う。だが自分は、恋人──彼氏どころか、小中高とここまでずっと、恋愛といったものとは縁遠い生活を送っている。悲しい。そんなことを思っていた結華は、家の近所に恋愛成就の神社があることを思い出す。どうせ何もならないだろうと思いながらも、結華はそこにお参りをして、彼氏が欲しいと願った。そして、奇妙な夢を見る。  結華は、起きても鮮明に覚えている意味不明な内容のその夢を不思議に思いながらも、まあ夢だし、で、片付けようとした。  が、次の日から、結華の周りで次々と妙なことが起こり始めたのだった──

隣の席の関さんが許嫁だった件

桜井正宗
青春
 有馬 純(ありま じゅん)は退屈な毎日を送っていた。変わらない日々、彼女も出来なければ友達もいなかった。  高校二年に上がると隣の席が関 咲良(せき さくら)という女子になった。噂の美少女で有名だった。アイドルのような存在であり、男子の憧れ。  そんな女子と純は、許嫁だった……!?

不人気プリンスの奮闘 〜唯一の皇位継承者は傍系宮家出身で、ハードモードの無理ゲー人生ですが、頑張って幸せを掴みます〜

田吾作
青春
21世紀「礼和」の日本。皇室に残された次世代の皇位継承資格者は当代の天皇から血縁の遠い傍系宮家の「王」唯一人。  彼はマスコミやネットの逆風にさらされながらも、仲間や家族と力を合わせ、次々と立ちはだかる試練に立ち向かっていく。その中で一人の女性と想いを通わせていく。やがて訪れる最大の試練。そして迫られる重大な決断。  公と私の間で彼は何を思うのか?

処理中です...