47 / 66
第六章
46.行方不明になったヴァスピス
しおりを挟むーー目が覚めたらホテルの部屋にいた。
私は肝試し中に怜くんの元から離れて滝原くんの背中を追った後、地面に足が滑って川に転落してから意識を失っていた。
次に目を覚ました時は川の中で、滝原くんが心配の目でしきりに呼びかけていて川から救出してくれた。
でも、その先からの記憶はない。
「佐川さん、目をさました?」
ぼーっとした頭のまま担任教師の呼びかけに気づいて目を合わせた。
気づいたら先程までびしょびしょだった服が上下着替えさせられている。
「……あ、はい」
「痛い所やぶつけた箇所の記憶はある?」
「あちこちぶつけたような痛みはあるけど、大した事はありません」
「そう。それじゃあ明日朝イチで病院へ連れて行くから今日はゆっくり……」
「大丈夫です。もう部屋に戻りますから」
私は教師の心配を跳ね除けると、起き上がって部屋を後にした。
病院なんて行ったらヴァンパイアだとバレてしまうかもしれない。
だから、教師の言う事は聞けなかった。
川ですっかり冷え切った身体。
部屋に戻ったら温かいお風呂でも入りに行こうかなと思って両手で身体をゆすっていたら、指に異変を感じた。
まさかと思って右手の薬指に目を向けると、川に転落する前まではめていたはずのヴァスピスがなくなっている。
「あれっ? ヴァスピスが……ない……」
氷水のような冷や汗が額から流れ落ちると、焦り狂った足で河合さんの部屋へ向かった。
ドンドンドン……
「ねぇ、河合さん。部屋にいる? いたら返事をして。大事な話があるの」
ドンドンドン……
しきりに扉を叩いていると、部屋から河合さんが嫌そうな表情をして出てきた。
「うるさいわねぇ。何度も扉を叩いて何?」
「ヴァスピス……。ねぇ、私のヴァスピスを知らない? 何処かで見なかった?」
「……まっ、まさかヴァスピスを無くしたの? あれだけ無くすなって言われてたのに」
「さっき川に流された時に無くしちゃったみたい。あれがないと……あれがないと……」
私は死の恐怖に駆られながら切迫した目でそう訴えたけど……。
「知らないわよ。自分で探しなさい」
彼女は冷たい態度で言い退けてから部屋の中へ戻って行った。
どうしよう……。
ヴァスピスを装着してないと24時間後にはヴァンパイアの姿に戻ってしまう。
そしたら、校外学習中にクラスメイトにヴァンパイア姿をさらしてしまう事に。
それだけじゃない。
魔力が弱っている状態だから、太陽の光を浴びたら砂になって生きていられなくなる。
人間界で命を落とす訳にいかない。
そうだ、こんな事をしてる場合じゃない。
探しに行かなくちゃ。
今だったら魔力が効いてるから人間の姿でいられるし、全てが間に合う。
目標は朝日が昇るまで。
それまでには絶対探し出さなくちゃ。
私は1人でホテルを抜け出して、川辺から転落した箇所を目で確認してからその付近に足を浸す。
しかし、3分も経たない間に滝原くんが後から追いかけて私を引き止めた。
「バカ! こんな時間に何やってんだよ!!」
「指輪……無くしちゃったの……」
「えっ、指輪? この前うちに忘れてったやつ?」
私は無言のままコクンとうなずく。
「それは、今探さなきゃいけないくらい大切なの?」
「うん……」
「もしかして肉親の形見……とか」
本当は違うけど頭を二回頷かせた。
このやりとりすら短縮したいと思うほど気が焦っていたから。
「じゃあ、明日の朝一緒に探そう。今日はもう遅いし川の流れが早いから」
「今日じゃなきゃダメなの」
「今は身体が弱ってるのに……」
「あの指輪は今日中に探さなきゃいけないの。……絶対に」
涙を流しながら反論したけど、彼は私の意見を無視して手を引きながらホテルへ戻った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
雨上がりに僕らは駆けていく Part2
平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女
彼女は、遠い未来から来たと言った。
「甲子園に行くで」
そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな?
グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。
ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。
しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。
首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!
👼天のまにまに
ファンタジー
戦国逆境からの内政チ-トを経て全ての敵にざまぁします。
戦場でのハードざまぁな戦いが魅力。ハイブリッド戦をしているので戦場以外でもざまぁします。金融とか経済面でも文化面でもざまぁ。
第1話はバリバリの歴史ファンタジー。
最初、主人公がお茶らけているけど、それに惑わされてはいけません。
どんどん
ハ-ドな作風になり、100話を超えると涙腺を崩壊させる仕掛けが沢山あります!
多彩なキャラが戦場や経済外交シ-ンで大活躍。
彼らの視点で物語が進行します。
残念ながら「とある事情にて」主人公の一人称はございません。
その分、多元視点で戦国時代に生きる人達。そして戦場でどのようなやり取りがされたかを活写しています。
地図を多数つけていますので、戦場物に疎いかたでも分かるようにしています。
ただし、武田編からガチな戦いになりますのでご注意を。
戦国ファンタジー作品の中でもトップクラスのハ-ドドラマかと思います。
そういった泣ける作品をお望みのかたは最初のゆるキャラにだまされないで下さい。
あれ入れないと、普通の戦国ファンタジー
になってしまいますので。
あらすじ
1535年、上野国(今の群馬県)に一人の赤子が生まれた。
厩橋(現前橋市)長野氏の嫡男の娘が、時の関東管領・上杉憲政に凌辱されて身ごもり生まれた子。
ご時世故に捨てられる運命であったが、外交カードとして育てられることに。
その子供の名前は『松風丸』。
小さいときから天才性を発揮し、文字・計算はおろか、様々な工夫をして当時としてはあり得ないものを作り出していく。
ああ、転生者ね。
何だかわからないけど、都合よくお隣の大胡氏の血縁が途絶え、養子として押し込まれることに。
松風丸はそこまで準備していた、技術・人材・そして資金を生かして、一大高度成長を大胡領に巻き起こす!
しかし上野国は、南に北条、西に武田、北に長尾(上杉)が勢力を伸ばして、刻一刻と侵略の魔の手が伸びようとしている情勢。
この状況をひっくり返せるか?
親の仇、自分を暗殺しようとした連中を倒して、ざまぁできるか?
これより80万字の大長編が始まりま~す!
注意
設定は2年前の筆者の力の及ぶ限り、綿密に『嘘を紛れ込ませて』面白くしています。
突っ込みはノーセンキュー(^▽^;)
「ああ、ここは分かってやっているんだな」
と、見逃してやってください!
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
同僚がヴァンパイア体質だった件について
真衣 優夢
BL
ヴァンパイア体質とは、人間から生まれる突然変異。そっと隠れ住む存在。
「人を襲うなんて、人聞きの悪いこと言わないでよ!?
そんなことしたら犯罪だよ!!」
この世には、科学でも医療でも解明されていない不思議な体質がある。
差別や偏見にさらされるのを怖れて自らの存在を隠し、ひっそりと生きる、伝承の『ヴァンパイア』そっくりの体質を持った人間。
人間から生まれ、人間として育つ彼らは、価値観は人間であって。
人間同様に老いて、寿命で死ぬ。
十字架やニンニクは平気。
鏡にうつるし、太陽を浴びても灰にならない。
夜にちょっと強くて、少し身体能力が強い程度。
月に一回、どうしようもない吸血衝動が来るという苦しみにどうにか対処しないといけない。
放置すれば、見た目のある一部が変化してしまう。
それに、激しい飢餓に似た症状は、うっかり理性が揺らぎかねない。
人を傷つけたくはない。だから自分なりの対処法を探す。
現代に生きるヴァンパイアは、優しくて、お人好しで、ちょっとへっぽこで、少しだけ臆病で。
強く美しい存在だった。
ヴァンパイアという言葉にこめられた残虐性はどこへやら。
少なくとも、この青年は人間を一度も襲うことなく大人になった。
『人間』の朝霧令一は、私立アヤザワ高校の生物教師。
人付き合い朝霧が少し気を許すのは、同い年の国語教師、小宮山桐生だった。
桐生が朝霧にカミングアウトしたのは、自分がヴァンパイア体質であるということ。
穏やかで誰にでも優しく、教師の鑑のような桐生にコンプレックスを抱きながらも、数少ない友人として接していたある日。
宿直の夜、朝霧は、桐生の秘密を目撃してしまった。
桐生(ヴァンパイア体質)×朝霧(人間)です。
ヘタレ攻に見せかけて、ここぞという時や怒りで(受ではなく怒った相手に)豹変する獣攻。
無愛想の俺様受に見せかけて、恋愛経験ゼロで初心で必死の努力家で、勢い任せの猪突猛進受です。
攻の身長189cm、受の身長171cmです。
穏やか笑顔攻×無愛想受です。
リアル教師っぽい年齢設定にしたので、年齢高すぎ!と思った方は、脳内で25歳くらいに修正お願いいたします。
できるだけ男同士の恋愛は双方とも男っぽく書きたい、と思っています。
頑張ります!
性的表現が苦手な方は、●印のあるタイトルを読み飛ばしてください。
割と問題なく話が繋がると思います。
時にコミカルに、時に切なく、時にシリアスな二人の物語を、あなたへ。
もう一度時間を巻き戻せたら
花井美月
青春
中嶋香織は、県内でも屈指の進学校に入学した高校一年生。
香織は七年前、交通事故に遭い、香織を庇って亡くなった命の恩人は、未だ身元が判明していない。
高校の入学式の日に、運命的な出会いがあった。
その人は偶然にも、入部を希望した写真部の先輩だった。
カメラを介して親しくなり、お付き合いが始まった。
そんなある日、幼馴染の友達と一緒に遊んでいる時に、彼女が衝撃的な写真を見つけた。
それは七年前のもので、『現在』の先輩の姿が写り込んでいたのだ。
それも一枚だけではない。
先輩、もしかしてあなたが私の命の恩人なんですか……?
だとしたら、先輩は、もうすぐ私を庇って死んでしまうーー
現在進行形で執筆しているため、タイトル変わるかもです。
2024/07/08 連載開始
2024/07/29 完結
ロングディスタンス
くもはばき
青春
「お前ってもしかしてそっち系?」
としつこく揶揄された時、何も考えずに強く否定できたらよかった。
そんな後悔と自己嫌悪を抱える自他共に認める写真部の陰キャ・織部夕真
そして、
「おれは、走ってる間だけが楽しい。あとは全部苦しい」
と夕真にだけ打ち明けた陸上部のエース・喜久井エヴァンズ重陽
雲ひとつない秋晴れの日、夕真の「とっておき」のフィルム越しに偶然交わった二人の青春と初恋が報われるまでの長い長い時間と距離の物語。
「約束どおりおれが箱根駅伝走れたら、先輩はもう絶対に幸せな恋愛しかしないって約束して」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる