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第六章
46.行方不明になったヴァスピス
しおりを挟むーー目が覚めたらホテルの部屋にいた。
私は肝試し中に怜くんの元から離れて滝原くんの背中を追った後、地面に足が滑って川に転落してから意識を失っていた。
次に目を覚ました時は川の中で、滝原くんが心配の目でしきりに呼びかけていて川から救出してくれた。
でも、その先からの記憶はない。
「佐川さん、目をさました?」
ぼーっとした頭のまま担任教師の呼びかけに気づいて目を合わせた。
気づいたら先程までびしょびしょだった服が上下着替えさせられている。
「……あ、はい」
「痛い所やぶつけた箇所の記憶はある?」
「あちこちぶつけたような痛みはあるけど、大した事はありません」
「そう。それじゃあ明日朝イチで病院へ連れて行くから今日はゆっくり……」
「大丈夫です。もう部屋に戻りますから」
私は教師の心配を跳ね除けると、起き上がって部屋を後にした。
病院なんて行ったらヴァンパイアだとバレてしまうかもしれない。
だから、教師の言う事は聞けなかった。
川ですっかり冷え切った身体。
部屋に戻ったら温かいお風呂でも入りに行こうかなと思って両手で身体をゆすっていたら、指に異変を感じた。
まさかと思って右手の薬指に目を向けると、川に転落する前まではめていたはずのヴァスピスがなくなっている。
「あれっ? ヴァスピスが……ない……」
氷水のような冷や汗が額から流れ落ちると、焦り狂った足で河合さんの部屋へ向かった。
ドンドンドン……
「ねぇ、河合さん。部屋にいる? いたら返事をして。大事な話があるの」
ドンドンドン……
しきりに扉を叩いていると、部屋から河合さんが嫌そうな表情をして出てきた。
「うるさいわねぇ。何度も扉を叩いて何?」
「ヴァスピス……。ねぇ、私のヴァスピスを知らない? 何処かで見なかった?」
「……まっ、まさかヴァスピスを無くしたの? あれだけ無くすなって言われてたのに」
「さっき川に流された時に無くしちゃったみたい。あれがないと……あれがないと……」
私は死の恐怖に駆られながら切迫した目でそう訴えたけど……。
「知らないわよ。自分で探しなさい」
彼女は冷たい態度で言い退けてから部屋の中へ戻って行った。
どうしよう……。
ヴァスピスを装着してないと24時間後にはヴァンパイアの姿に戻ってしまう。
そしたら、校外学習中にクラスメイトにヴァンパイア姿をさらしてしまう事に。
それだけじゃない。
魔力が弱っている状態だから、太陽の光を浴びたら砂になって生きていられなくなる。
人間界で命を落とす訳にいかない。
そうだ、こんな事をしてる場合じゃない。
探しに行かなくちゃ。
今だったら魔力が効いてるから人間の姿でいられるし、全てが間に合う。
目標は朝日が昇るまで。
それまでには絶対探し出さなくちゃ。
私は1人でホテルを抜け出して、川辺から転落した箇所を目で確認してからその付近に足を浸す。
しかし、3分も経たない間に滝原くんが後から追いかけて私を引き止めた。
「バカ! こんな時間に何やってんだよ!!」
「指輪……無くしちゃったの……」
「えっ、指輪? この前うちに忘れてったやつ?」
私は無言のままコクンとうなずく。
「それは、今探さなきゃいけないくらい大切なの?」
「うん……」
「もしかして肉親の形見……とか」
本当は違うけど頭を二回頷かせた。
このやりとりすら短縮したいと思うほど気が焦っていたから。
「じゃあ、明日の朝一緒に探そう。今日はもう遅いし川の流れが早いから」
「今日じゃなきゃダメなの」
「今は身体が弱ってるのに……」
「あの指輪は今日中に探さなきゃいけないの。……絶対に」
涙を流しながら反論したけど、彼は私の意見を無視して手を引きながらホテルへ戻った。
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