ポンコツヴァンパイアが貧血男子を好きになってもいいですか?

風音

文字の大きさ
上 下
39 / 66
第五章

38.活き活きとしてる表情

しおりを挟む



  ーー場所は滝原くんの家。
  台所で夕飯用のポテトサラダを作っている最中マヨネーズが足りなくなった。
  マヨネーズの蓋をして前後にブンブンと振っても、あともう少しが足りない。



「ねぇ、滝原くん。マヨネーズが終わっちゃった。もう少し欲しかったのに……」

「えっ、本当?  いま買ってこようか?」


「うん、お願い」



  彼が家から出ていくと部屋には1人きりになった。
  一昨日、サッカーを辞めた理由になんとなく辿りついてからずっと気になっていた。


  この部屋にサッカーに繋がるものが残されていたら、怜くんと仲違いしてしまったヒントに繋がるかもしれないと思ってクローゼットに向かって扉を開けた。

  すると、くしゃくしゃになったレジ袋の中に入っていたサッカーボールに目がいって両手で拾い上げた。
  袋の口は固結びになっていて、指先を駆使して時間をかけて解いていく。
  中にはボール以外に割れ目の入った写真立てが入っていたので手に取った。


  写真にはチーム全員が写っていて、少し幼顔の滝原くんの表情は笑顔で活き活きしている。
  同じく袋に入っている輪ゴムで止められた束の写真を手にとって、輪ゴムを解いて一枚一枚目を通した。
  そこには、仲間とサッカーしていたり、試合中と思われるものや、休憩してる時に撮られたと思われる写真や、怜くんの肩を抱いてる写真があった。

  今とは別人のように幸せいっぱいに笑ってる写真を眺めているうちに、つい時間を忘れていく……。

  すると、背中から声を浴びた。



「人んちのクローゼットを勝手に開けて何やってんの?」



  そこでハッと我に返って振り返ると、滝原くんは腕組みしながら壁に寄りかかって、怜くんにいつも向けてるような冷たい目線でこっちを見ていた。
  


「ごめんね……。写真を勝手に見ちゃって」

「…………」



  彼は返事をせずに私から写真を取り上げると、先ほどまで写真が入っていたビニール袋の中にしまった。
  私はその背中を見ながら、今が彼の悩みを乗り越えるチャンスなのではないかと考えていた。



「またサッカーやってみない?  当時の写真を見てたら凄く幸せそうに見えるし、表情が活き活きしてる」

「…………」


「昔の写真をこんなに大切にとっておくくらいサッカーが好きなんだよね。怜くんも誘ってくれてるし、最近は体調も右肩上がりで元気になってきてるし……」
    ドンッ……


  前向きな気持ちになって欲しくてつい熱が入ってそう言ってる最中、彼は私の口を塞ぐかのように顔のすぐ横のクローゼットの扉に手を叩きつけた。



「それ……、美那には関係ないから口出ししないでくんない?」



  そう言って見つめてきた瞳は睨んでいるかのように険しい。



「た……確かに関係ないよ?  だけど、あんなに幸せそうにプレイしてる写真を見たら誰でも……」
「お前に俺の気持ちなんてわかるわけがない。……もう、帰って」


「滝原くんっ……」

「帰れ!」



  彼はズカズカと足音を立てながら私の手を引いてリビングに置いてあるカバンを持たせると、玄関扉を開けて追い出した。
  そこで扉は自動ロックがかかると、私は力を込めて両手で扉を叩いた。

  ドンドンドンドン……


「滝原くんっ、ごめん。滝原くんっ、扉を開けて……。話をしたい……」



  美那が叩いた振動で揺れる扉に夏都は背中をもたらせていた。


  続けたくても続けられなかったサッカー。
  戦力外と通告しているようにレギュラーを降ろされた辛い過去。
  自分がいてもいなくても関係ないと言わんばかりに進行されている試合。
  空気のようにベンチに座る無力な自分。

  過去の辛い記憶が夏都の心を卍固めにしている。



「くっそ……」



  心の暗闇はやがて悔し涙を誘い、顎から流れ落ちた涙は床に小さく砕け散った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕とやっちゃん

山中聡士
青春
高校2年生の浅野タケシは、クラスで浮いた存在。彼がひそかに思いを寄せるのは、クラスの誰もが憧れるキョウちゃんこと、坂本京香だ。 ある日、タケシは同じくクラスで浮いた存在の内田靖子、通称やっちゃんに「キョウちゃんのこと、好きなんでしょ?」と声をかけられる。 読書好きのタケシとやっちゃんは、たちまち意気投合。 やっちゃんとの出会いをきっかけに、タケシの日常は変わり始める。 これは、ちょっと変わった高校生たちの、ちょっと変わった青春物語。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

君のために僕は歌う

なめめ
青春
六歳の頃から芸能界で生きてきた麻倉律仁。 子役のころは持てはやされていた彼も成長ともに仕事が激減する。アイドル育成に力を入れた事務所に言われるままにダンスや歌のレッスンをするものの将来に不安を抱いていた律仁は全てに反抗的だった。 そんな夏のある日、公園の路上でギターを手に歌ってる雪城鈴菜と出会う。律仁の二つ上でシンガーソングライター志望。大好きな歌で裕福ではない家族を支えるために上京してきたという。そんな彼女と過ごすうちに歌うことへの楽しさ、魅力を知ると同時に律仁は彼女に惹かれていった……… 恋愛、友情など芸能界にもまれながらも成長していく一人のアイドルの物語です。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】君とひなたを歩くまで

みやこ嬢
ライト文芸
【2023年5月13日 完結、全55話】 身体的な理由から高校卒業後に進学や就職をせず親のスネをかじる主人公、アダ名は『プーさん』。ダラダラと無駄に時間を消費するだけのプーさんの元に女子高生ミノリが遊びに来るようになった。 一緒にいるうちに懐かれたか。 はたまた好意を持たれたか。 彼女にはプーさんの家に入り浸る理由があった。その悩みを聞いて、なんとか助けてあげたいと思うように。 友人との関係。 働けない理由。 彼女の悩み。 身体的な問題。 親との確執。 色んな問題を抱えながら見て見ぬフリをしてきた青年は、少女との出会いをきっかけに少しずつ前を向き始める。 *** 「小説家になろう」にて【ワケあり無職ニートの俺んちに地味めの女子高生が週三で入り浸ってるんだけど、彼女は別に俺が好きなワケではないらしい。】というタイトルで公開している作品を改題、リメイクしたものです。

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

処理中です...