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第四章
32.気持ちの変化
しおりを挟むーー同日の夜。
私は滝原くんの家に夕飯を作りに行った。
台所で作業をしている美那は鍋でカキフライを揚げながら先ほどの事を思い返していた。
河合さん、本当に吸血したのかな。
一度もヴァスピスを見せてもらってないけど、こんな私ですら1点灯だから河合さんが0って事はないよね。
校外学習が終わるまでにミッションを終わらせるつもりのようだから、残り3週間くらい。
私にもミッションがあるけど、もちろん彼女にもミッションがある。
これは成人の儀式を迎える為の使命。
もし彼女が今日吸血してたら私は吸血出来ない。
しかも、それを確認する術もない。
河合さんは何回くらい吸血したのかな。
滝原くんが倒れているのは久しぶりに見たけど、知らないうちに何度か吸血されてたのかな。
河合さんはヴァンパイア仲間のはずなのに、仲間じゃない。
それに、私と同じように滝原くんと近い存在。
1日に2人のヴァンパイアに吸血されたら命を落とす場合があると言ってたから吸血はかぶってないと思うけど、残り2回をどうやってこなしていけばいいか……。
河合さんがミッションを終えるまで待つ?
でも、そしたら私の残り時間が3週間になる。
人間界に来てから1ヶ月半も経っているのに一度しか吸血出来てない私が残り3週間で勝負できるの?
万が一、期日中に達成出来なかったらヴァンパイアではいられなくなるのに……。
私は深刻に思い詰めたままカキフライを揚げていると……。
パチッッ……
鍋の中から油が跳ねて、手の甲に落ちて激痛が走った。
「あっっつぅぅ!!」
思わず声を張り上げると、リビングのセンターテーブルでクラムチャウダーをよそっている滝原くんが気付いて私の元へやってきた。
「どうしたの?」
「右手の甲に油がはねてやけどしたみたい」
「じゃあ、すぐ水で冷やさないと!」
彼は天ぷら鍋の火を止めてから私の手を取ると、水道の蛇口を開けてやけど部分を冷水で冷やし始めた。
「痛い?」
「ううん、大丈夫……。ありがとう」
7月7日まで残り2回の吸血をしなきゃいけないけど、人間界の友達ともお別れしなきゃいけない。
毎日楽しい分、離れたくなくなる。
人間界は地獄と伝えられてきたのに、全然地獄じゃないし、毎日が幸せなのに……。
私はネガティブな気持ちに包まれてシュンとしていると、彼は言った。
「いつもありがとう」
「えっ?」
「弁当もこうやってケガをしながら作ってるんだよね。いつも傷だらけの手を見て思ってた。俺から貧血持ちだと言われなければ、こんな面倒な事をしなくても済んだのに」
「そんな事ない! お弁当作りや夕飯作りは楽しいし、私も普段から滝原くんに助けてもらって感謝してるからお互い様だよ!」
少しムキになって返事をすると、彼はフッと笑った。
「俺、やっぱり間違ってなかった」
「えっ……」
「お前のご飯が美味しいって思う理由はそこだったわ」
「えっえっ? 意味わかんない!」
「いーよ、別にわかんなくても」
「えーっ。教えてよ~っ!」
やけどをした時は痛くて辛かったけど、彼が傍にいてくれるだけで痛みは自然と吹っ飛んでいく。
後の事より今を考えよう。
そして、その今の幸せをかみしめていかなきゃね。
ーーそれから1時間半後。
マンションを出ると、ほんわりと照らしている街灯に包まれながら彼の部屋を見上げて深いため息をもらした。
「はあぁぁぁ…………。今日も吸血出来なかった。今後はどうしようかな。やっぱり河合さんの吸血が終わるまで何もしないのが一番なのかな……」
美那がボソッと呟いた後に肩を落としながら家路に向かうと、たまたまランニングで付近を通りかかっていた怜がその様子を見ていた。
「あれ、美那っち? こんな時間にどうしてここに?」
見上げると、そこは夏都が暮らしてるマンション。
そして、そこから一人で出てきた美那。
怜の妄想は膨らんでいき、何かに勘づいた瞬間。
「もしかして、美那っちはさっきまで夏都の家に……。うぉぉぉお、許せねぇ!!」
猛烈な嫉妬心が生まれていき、進めていた足により力が加わっていった。
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