31 / 66
第四章
30.不器用な彼
しおりを挟むーー朝8時15分。
今日もいつも通り、滝原くんにお弁当を渡そうと思って胸をドキドキさせながら学校の下駄箱前で待っていた。
最初のうちは照れ臭くて何と言って渡したらいいかわからなかったけど、次第にお互い慣れてきてすんなり渡せるように。
すると、彼はいつも通りの時間に校舎の扉の向こう側からやってくる姿が見えた。
毎回外から校舎に足を踏み入れる瞬間に「おはよー」って声をかけるけど……。
「滝原くん!」
喉の奥で声が出かかった直前に同じクラスの女子がさっと扉の横から出てきて彼に声をかけた。
彼は気付いて目を向けると、彼女は背中側に隠していた何かを目の前に差し出した。
「あのね、滝原くんにお弁当作ってきたの。佐川さんがお弁当を渡してるのを見て、私も自分が作ったお弁当を食べてもらいたいなと思って……」
頬をピンクに染めながら彼の前に向けたのは、黄色いお弁当袋。
それを見た瞬間、色んな想いが脳裏を駆け巡っていき、お弁当袋をギュッと握りしめる。
「それ、俺の為に作って来てくれたの?」
「うん、滝原くんに食べて欲しくて」
ドクン…… ドクン……
滝原くんが他の人のお弁当を食べるかどうか自分には関係ない事はずなのに、なぜか心臓が低い音を奏ている。
私が手に傷を負いながら作ってきたように、彼女も一生懸命作ってきただろう。
それなのに、自分以外のお弁当を受け取って欲しくない。
どうしてこんなに嫌な気持ちになってるかさえわからない。
すると、滝原くんは彼女の隣を素通りして……、
「ごめん……。俺、こいつの弁当食う約束をしてるから受け取れないわ」
私のお弁当袋をさっと取り上げて横目でそう言うと、教室へ向かって行った。
その場に取り残された私と彼女は、彼の方を向いたままポカンと口を開ける。
すると、頭が真っ白な状態で……、
「美那っち、おはよー! ねねっ、夏都に弁当作ってんの?」
怜くんが陽気な態度で後ろから現れた。
そこでいま目が覚めたかのように肩がビクッと揺れ動く。
「……あ、うん」
「どうして?」
「一人暮らしだから栄養面が気になって」
「あ、そう……? じゃあさ、俺の分も一緒に作ってよ」
「えっ!」
「一つも二つも変わんないし。俺も美那っちの弁当が食いたい」
「でも、いま一人分でも時間がいっぱいいっぱいで……」
「美那っちぃ~! お願~い」
怜くんが困惑している私にふざけながらそう言うと、後ろから現れた澪が学生カバンでバシッと背中を叩いた。
「ばーか! あんたに作りたくないって言ってんのにわかんない?」
「えっ? そうなの?」
「あはは……。実はお弁当を作る時間がギリギリで。ごめんね」
靴を履き替えながらそう言った会話をして廊下に上がると、滝原くんにお弁当を渡せなかった女子が私にキッと不機嫌な目を向けて横を走り去って行った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
「史上まれにみる美少女の日常」
綾羽 ミカ
青春
鹿取莉菜子17歳 まさに絵にかいたような美少女、街を歩けば一日に20人以上ナンパやスカウトに声を掛けられる少女。家は団地暮らしで母子家庭の生活保護一歩手前という貧乏。性格は非常に悪く、ひがみっぽく、ねたみやすく過激だが、そんなことは一切表に出しません。
燦歌を乗せて
河島アドミ
青春
「燦歌彩月第六作――」その先の言葉は夜に消える。
久慈家の名家である天才画家・久慈色助は大学にも通わず怠惰な毎日をダラダラと過ごす。ある日、久慈家を勘当されホームレス生活がスタートすると、心を奪われる被写体・田中ゆかりに出会う。
第六作を描く。そう心に誓った色助は、己の未熟とホームレス生活を満喫しながら作品へ向き合っていく。
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
神絵師、青春を履修する
exa
青春
「はやく二次元に帰りたい」
そうぼやく上江史郎は、高校生でありながらイラストを描いてお金をもらっている絵師だ。二次元でそこそこの評価を得ている彼は過去のトラウマからクラスどころか学校の誰ともかかわらずに日々を過ごしていた。
そんなある日、クラスメイトのお気楽ギャル猿渡楓花が急接近し、史郎の平穏な隠れ絵師生活は一転する。
二次元に引きこもりたい高校生絵師と押しの強い女子高生の青春ラブコメディ!
小説家になろうにも投稿しています。
僕は 彼女の彼氏のはずなんだ
すんのはじめ
青春
昔、つぶれていった父のレストランを復活させるために その娘は
僕等4人の仲好しグループは同じ小学校を出て、中学校も同じで、地域では有名な進学高校を目指していた。中でも、中道美鈴には特別な想いがあったが、中学を卒業する時、彼女の消息が突然消えてしまった。僕は、彼女のことを忘れることが出来なくて、大学3年になって、ようやく探し出せた。それからの彼女は、高校進学を犠牲にしてまでも、昔、つぶされた様な形になった父のレストランを復活させるため、その思いを秘め、色々と奮闘してゆく
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。
ファンファーレ!
ほしのことば
青春
♡完結まで毎日投稿♡
高校2年生の初夏、ユキは余命1年だと申告された。思えば、今まで「なんとなく」で生きてきた人生。延命治療も勧められたが、ユキは治療はせず、残りの人生を全力で生きることを決意した。
友情・恋愛・行事・学業…。
今まで適当にこなしてきただけの毎日を全力で過ごすことで、ユキの「生」に関する気持ちは段々と動いていく。
主人公のユキの心情を軸に、ユキが全力で生きることで起きる周りの心情の変化も描く。
誰もが感じたことのある青春時代の悩みや感動が、きっとあなたの心に寄り添う作品。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる