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第四章
30.不器用な彼
しおりを挟むーー朝8時15分。
今日もいつも通り、滝原くんにお弁当を渡そうと思って胸をドキドキさせながら学校の下駄箱前で待っていた。
最初のうちは照れ臭くて何と言って渡したらいいかわからなかったけど、次第にお互い慣れてきてすんなり渡せるように。
すると、彼はいつも通りの時間に校舎の扉の向こう側からやってくる姿が見えた。
毎回外から校舎に足を踏み入れる瞬間に「おはよー」って声をかけるけど……。
「滝原くん!」
喉の奥で声が出かかった直前に同じクラスの女子がさっと扉の横から出てきて彼に声をかけた。
彼は気付いて目を向けると、彼女は背中側に隠していた何かを目の前に差し出した。
「あのね、滝原くんにお弁当作ってきたの。佐川さんがお弁当を渡してるのを見て、私も自分が作ったお弁当を食べてもらいたいなと思って……」
頬をピンクに染めながら彼の前に向けたのは、黄色いお弁当袋。
それを見た瞬間、色んな想いが脳裏を駆け巡っていき、お弁当袋をギュッと握りしめる。
「それ、俺の為に作って来てくれたの?」
「うん、滝原くんに食べて欲しくて」
ドクン…… ドクン……
滝原くんが他の人のお弁当を食べるかどうか自分には関係ない事はずなのに、なぜか心臓が低い音を奏ている。
私が手に傷を負いながら作ってきたように、彼女も一生懸命作ってきただろう。
それなのに、自分以外のお弁当を受け取って欲しくない。
どうしてこんなに嫌な気持ちになってるかさえわからない。
すると、滝原くんは彼女の隣を素通りして……、
「ごめん……。俺、こいつの弁当食う約束をしてるから受け取れないわ」
私のお弁当袋をさっと取り上げて横目でそう言うと、教室へ向かって行った。
その場に取り残された私と彼女は、彼の方を向いたままポカンと口を開ける。
すると、頭が真っ白な状態で……、
「美那っち、おはよー! ねねっ、夏都に弁当作ってんの?」
怜くんが陽気な態度で後ろから現れた。
そこでいま目が覚めたかのように肩がビクッと揺れ動く。
「……あ、うん」
「どうして?」
「一人暮らしだから栄養面が気になって」
「あ、そう……? じゃあさ、俺の分も一緒に作ってよ」
「えっ!」
「一つも二つも変わんないし。俺も美那っちの弁当が食いたい」
「でも、いま一人分でも時間がいっぱいいっぱいで……」
「美那っちぃ~! お願~い」
怜くんが困惑している私にふざけながらそう言うと、後ろから現れた澪が学生カバンでバシッと背中を叩いた。
「ばーか! あんたに作りたくないって言ってんのにわかんない?」
「えっ? そうなの?」
「あはは……。実はお弁当を作る時間がギリギリで。ごめんね」
靴を履き替えながらそう言った会話をして廊下に上がると、滝原くんにお弁当を渡せなかった女子が私にキッと不機嫌な目を向けて横を走り去って行った。
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