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第四章
29.誤算
しおりを挟むーー翌日。
滝原くんの家に到着してから昨晩作成したポスターを冷蔵庫に貼った。
彼は横から驚いた目を向ける。
「す、すげぇ……。『貧血対策栄養リスト』? このポスターは全部手書きだし、イラストの食材は全て色塗りしてるけど、結構時間かかったんじゃない?」
「えへへ。最初はA4のレポート用紙に書いてたんだけど、没頭してたらあれこれこだわりたくなっちゃって。気付いたらポスターの上で朝を迎えてたよ」
「お弁当やご飯を作ってくれるだけでも有難いのに悪いな。……煮干しに豚レバーに鶏レバーに生卵やあさりやマグロの刺身やかつお。納豆、枝豆、豆乳。小松菜、ほうれん草、プルーンかぁ。これを食べていれば貧血が改善するような気がする」
「うん。栄養をたっぷり摂って元気になろうね!(吸血しても倒れないようにしないとね)……あ、今日はエプロンも持ってきたよ。」
「なんか、いいね」
「えっ?」
「美那といるとあったかい」
ニコリとそう言われた瞬間、胸がドキッとした。
最近、変だ……。
滝原くんと一緒にいるだけでも心臓が変な反応をしている。
「私はただ滝原くんが道端で倒れない身体になって欲しくて(吸血したいからなんて死んでも言えない)」
「そんなにしょっちゅう倒れないよ。あの時はたまたま……」
「でも倒れられたら困るから栄養補給だよ!」
今日のメニューはレバニラ炒めに小松菜のおひたしにあさりの味噌汁。
ここまで鉄分重視で攻めれば体調は万全かもね。
食事を終えて洗い物を終えると、彼はリビングで耳かきを始めた。
すると、そこである名案が閃く。
こっ……、これだっ!!
ナイスアイデア。
人に耳かきをしてもらっている時は何故か自然と眠くなる。
この原理を活かして眠らせればいい。
滝原くんが眠った隙を狙って吸血すれば一石二鳥じゃない?
どうしてこんな素晴らしいアイデアが早く思い浮かばなかったんだろう。
私は濡れた手をタオルで拭いてから彼の元へ。
「ねねっ、私が耳かきしてあげるよ」
「ええっ? いいよ……。自分で出来るから」
「私、意外に耳かき上手なんだよ? 今から膝枕するから頭を乗せて」
「そーゆー意味じゃなくてさ……。自分が言ってる意味わかってんの?」
「言ってる意味って?」
「膝……枕ってさ、簡単に言うけど男にとってちょっとハードル高いから」
滝原くんが赤面しながらそう言うと、私は急に恥ずかしくなって顔がボッと赤くなった。
確かに言われてみれば恋人や家族でもないのに膝枕なんて恥ずかしい。
しかも、膝から滝原くんの体温が直に伝わってくるというのに、私ったら……。
「わっ、私ならだっ……大丈夫……。だから、え……遠慮しないで……」
「えぇっ……。でも、美那がいいって言うなら……」
彼が膝の上に頭を乗せると、私は緊張でカチンコチンになりながら耳かきを始めた。
耳かき棒からドキンドキンと鳴り響く鼓動が伝わっていきそうな気がしてならない。
「慣れてる訳じゃないから痛かったら言ってね」
「わかった」
彼が口を開く度に膝から振動が伝わってくる。
も~~っ、恥ずかしくて余裕ない。
でも、先日からある事が気になっていたので、恥ずかしついでに聞いてみる事に。
「あの……、滝原くんに一つ聞きたい事があって」
「何?」
「どうして私の名前を呼び捨てにしたの?」
「仲良い友達を呼び捨てにするのは普通じゃない? ……もしかして嫌だった?」
「ううんっ、全然嫌じゃない! むしろ嬉しかったよ」
何度も心を救ってくれた唇がいま最も接近している。
それが不思議と平和で心地よくて……。
私を頼りにして耳を貸してるんだと思ったら、なんか少し嬉しくなった。
それから5分ほど耳かきをしていると、スーッと寝息が聞こえてきた。
「あれ……、滝原くん? もう眠ってるの?」
膝の上で眠る彼。
寝顔を見るのはおよそ1ヶ月ぶりの事。
その寝顔があまりにも平和だったからずっと眺めていたかったけど、本来の目的は吸血。
無事に眠ってくれたし、今が吸血のチャンスだ!
……と思って身体を傾けるが。
「あれっ、あれっ……」
彼の頭で両膝がロックされてしまったせいで、彼の首元まで自分の顔が届かない。
「ふんぬぬぬっ……。ふんぬぬぬっ……。だっ、ダメだぁ! どんなに身体を傾けても首元まで全然届かないよ~っ!」
勢いをつけたり。
身体の角度を変えたり。
工夫しながら何度か背中を丸めたものの、身体を傾けるには限界があった。
私のバカバカバカー!
ただ眠らせればいい訳じゃなかった。
これって完全に誤算じゃん。
もっと真剣に吸血方法を考えれば良かったよ……。
私はじ~んとしびれた足で正座をしたまま後悔する。
しかし、無邪気な寝顔を見ているうちに穏やかな気持ちに。
こんな近くで滝原くんの顔を見たの初めて。
まつ毛が長い。
それに、見ているだけで不思議とあったかい気持ちになる。
ウットリとした目で滝原くんを眺めていると、口元からボソボソと寝言が聞こえてきた。
「むにゃむにゃ……絶対許さないから……」
「ひぇっ!!」
吸血を狙っている私にはあまりにもピンポイントな寝言だったから、一瞬起きているかどうか確認してしまった。
言ってる本人はとうに夢の中だけど、邪な気持ちに塗り固められている私にとっては吸血したら許さないと警告しているかのように聞こえた。
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