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第三章
24.彼の家
しおりを挟むーー午後6時。
場所は、滝原くんが暮らしているマンション。
一階エントランスでインターフォンを押した後に自動ドアが開いて、二階の彼の部屋の前でもう一度インターフォンを押す。
人間界はどうしてこんなに人を警戒してるのかわからない。
ヴァンパイア界は自宅に鍵すらついてなかったし。
今日は約束した通り夕飯を作りに来た。
手には先ほどスーパーで購入した食材が入ったレジ袋をぶら下げている。
ガチャ……
「いらっしゃい。散らかってるけど入って」
「あっ、うん。お邪魔します……」
黒いオープンカラーの半袖シャツの中に白いTシャツ。
スリムな黒のパンツ姿。
初めて見た私服姿はシンプルで私好み。
玄関を上がった奥にはワンルームの小さな部屋で、家具はモノトーンで統一されている。
嗅ぎ慣れない部屋の香りに胸がクスクスしてきた。
玄関からすぐ側のキッチン台にレジ袋を置いて広げると、彼は横から覗き込んできた。
「買い物して来たの?」
「うん。冷蔵庫に何があるかわからないから適当に。トマトは身体にいいからミネストローネを作ろうかと思って」
「ミネストローネかぁ……。あっ、それならいい物あるよ」
彼がキッチン台の横の冷蔵庫から取り出してきたのは、ななな……何とニンニクチューブ!
ニンニクは十字架に次いで苦手。
蓋を開ける前だけど匂いが臭ってくるような気がする……。
「ねぇ、どうしてトイレの扉の奥に隠れるの?」
「私……、実はニンニク臭が苦手で……」
「ミネストローネにニンニクを入れたら美味しいのに」
「とっ、とにかくっ!! 早く冷蔵庫に閉まって……」
十字架のネックレスの件にニンニクチューブ。
滝原くんにヴァンパイアという事がいつ判明してもおかしくないくらい過敏に反応してしまった。
それから私はチキンステーキとミネストローネとサラダを作って完成させた。
料理初心者だから見栄えはあまり良くないけど、味はまぁまぁ。
しかし、家に来た目的は料理だけじゃない。
私のヴァスピスは赤いハートがまだ1つだけ。
つまり、近日中に残り2つをクリアしなければならない。
食事の片付けを終えると、センターテーブルを挟むように座ってテレビを観ながらくつろいだ。
前回は彼が保健室で寝ている時に吸血したけど、今回はどうしよう。
思いきって「吸血させてください」と頼んでみる?
ダメダメ……。
吸血の二文字でヴァンパイアという事がバレちゃう。
じゃあ、寝るのを待つ?
ううん、おばさんが私の帰りを待ってるからそんなに長く待てない。
どうしたら寝てくれるかな……。
いっその事、眠くなる方法を本人に聞くのがベストかもしれないね。
「ねぇ、滝原くんはどんな時に眠気が起こるの?」
「んー、授業中とか」
「それ以外は?」
「食後」
「じゃあ、さっきご飯食べたばかりだからいま眠い?」
「いや、別に眠くない」
「(くぅぅ……。いま眠くないとはっきり言わたれら先が見えない)じゃあ、それ以外にどうしたら眠くなるの?」
質問があまりにもしつこかったせいか、彼は口を塞いだままじーっと見つめてきた。
……まっ、まずい!
急に変な質問をしたから怪しまれてるかもしれない。
何とか誤魔化さなきゃ。
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