ポンコツヴァンパイアが貧血男子を好きになってもいいですか?

風音

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第三章

21.あいつ

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  ーー場所は体育館の更衣室。
  年季が入り古く錆びた傷だらけのロッカー前で着替え終えると、澪は今朝見た話題に触れた。



「そういえば、見たよ、見たよ~!!  今朝、下駄箱で滝原にお弁当渡してたでしょ」

「えっ!」


「何なに~?  滝原と秘密の何かがあったの~?  しらばっくれようとしても無駄だからね」



  澪は薄笑いでそう言うと、ひじで二回腕を突く。



「ううぅ、見られてたか……」

「ねぇねぇ、どうしてお弁当を渡してたの?  もしかして、滝原に気が……」
「そんなんじゃないっっ!  ……ただ、滝原くんの体調が優れないみたいだから、少しでも栄養になるものをと思って」



  貧血話は口止めされてたけど、話を遠回りにしたらややこしくなると思って素直に答えた。
  多分【貧血】というキーワードを出さなきゃ平気だよね。

  

「そんなの滝原の親に任せとけば良いじゃん」

「実は滝原くん一人暮らしだから上手く栄養バランスが摂れないと思って」



  2人は着替え終えると、ロッカールームを出て校庭に向かいながら話を続ける。
  


「へぇ、あいつ一人暮らししてるんだ。でも、どうして美那がそれを知ってんの?」

「(ギクッ)たまたま話をしてたらそういう流れになって……」


「ふぅん。てっきり滝原に気があるかと思った」

「違うよ!  ……ただ、話を聞いてるうちに体調が気になっちゃってね(その栄養を私が頂くと知ったらドン引きするだろうな)」


「あ!  お弁当の話題で思い出した。昨日怜に昼食代を貸したのに返してもらってない!  もしかしたら、このままバックれようとしてるんじゃ……」

「澪ったら、口を開けば怜くんの話をしてるね」


「え、そう?」

「人の気持ちを詮索してくるクセに、澪こそ怜くんに気があるんじゃないの~?」



  と、澪と同じ手口でにやけ眼のまま肘で小突いた。



「そっ、そんな訳ない!  わっ……わわわ、私が怜に気があるなんてありえない!」

「そう?(そんなに否定しなくても……)でも、2人ともすごく仲が良いのに」


「小学生の頃から仲良くしてるからね。……でもさ、昔から人一倍努力してるのを知ってるから尊敬はしてる。あいつさ、負けず嫌いなんだよね」




  澪は校庭で一人リフティングしてる怜くんの姿を見ながらそう言った。

  口では否定してるけど、怜くんを見つめてる眼差しがとても柔らかくて穏やかで全てを物語っていた。
  だから、それ以上問い詰めるのをやめた。

  すると、隣から校庭に出てきたクラスの女子二人組が噂話を始めた。



「ねぇ、あっち見て!  滝原くんと河合さんが二人きりで話してる。美男美女ってやっぱり絵になるよね~」

「本当だ~。うっわ、ライバルが河合さんなんてレベチで勝てる気がしないよ」


  
  噂を始めた女子の目線を辿っていくと、滝原くんと河合さんが何か楽しそうに話をしている。

  2人が話してる様子はもちろん気になるけど、あの無愛想な河合さんが笑顔を見せるなんて、地味に吸血の本気度が伝わってくる。

  河合さんは、滝原くんが貧血持ちという事を知ってるのかな。
  いや、この秘密を知ってるのは私だけと言ってたし。
  滝原くんにとって吸血がどれだけ身体に負担がかかるか知らないのに意気込んでたしなぁ。
  トホホ……。


  ガックリと肩を落として佇んでいると、足元にサッカーボールが転がってきた。
  見上げると10メートルほど先には怜くんが笑顔で両手を振っている。



「美那っち~、ボール蹴り返して~」

「いいよ!  えいっ」



  怜くんの方に力を込めて蹴り返したのはいいものの、ボールは左側に回転しながらコロコロと転がっていく。



怜「うわっ、美那っちボール蹴るのヘタ!」と、怜は小走りでボールを取りに行く。

美那「ストレートにヘタって言わないでよ~。これでも真っ直ぐに蹴ったつもりなのに」

澪「ねぇねぇ、三人でボール蹴りの練習しようよ」


怜「賛成!  美那っち、次は絶対キャッチしろよ。いっくぜ~!  スーパーミラクルキーック!」



  怜くんが私をめがけてボールを蹴ると、私は足でキャッチ出来ずに転がるボールを追いかけて行った。



美那「こんな早いボール受け取れないよ~っ!」

澪「あんたさぁ、サッカー部なんだから少しは手加減してやんなって」

怜「俺、サッカーと女は一歩も引く気ないから」


澪「何それ~!  ばっかじゃないの?」



  3人がケラケラ笑いながら仲良く三角形になってボールを蹴り合いしてると、夏都はその様子に気付いた。

  美那が怜に笑いかける度に唇をかみしめていく。
  彩綾は隣で異変に気付くが、何も言わずに見守った。

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