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第一章

7.十字架のネックレス

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澪「怜とは別々の高校になれるように祈ってたのにさ~。同じ学校どころか運悪く同じクラスになっちゃうし。怜はほーんとにチャラてうざいからさ」

怜「俺はいつも好きな子に一途だよ!  これから仲良くしてね、美那っち!」



  彼が笑顔でそう言った途端、ブレザーの中の白いワイシャツの隙間から銀色の何かがキラリと光った。
  しかし、その何かは十字架のネックレス。
  それを視界を捉えると、身体は真っ先に反応した。


  うわ……、苦しい…………。
  十字架は身体が受け付けないと聞いてたけど、実際見たのは今が初めて。
  まさか首を絞めつけられるくらい息が苦しくなるなんて……。

  私は青い顔で「うっ」と声を漏らしながら喉元を押さえて廊下へ駆け込んだ。
  壁一枚挟んだ裏で胸に手を当てながらはぁはぁと呼吸を整えていると、怜くんは後を追って来て横につくなり顔を覗き込んだ。



「美那っち、いきなり教室を出て行ってどうしたの?  俺、何かまずい事言ったかな」

「……っ、はぁ……はぁ……」


「もし気に触る事を言ってたならごめん。悪気はないから許して欲しい」



  彼は謝ってきたけど、問題はそこじゃない。
  以前から話には聞いていたけど、十字架にこんなに強い効力があるなんて。

  彼の方に目を向ける事が出来なくて目をぎゅっとつぶりながら肩を縮こませていると……。



「嫌がってんだろ。やめろよ」



  正面から滝原くんの声が届いた。
  目をうっすら開けると、そこには滝原くんは嫌気に満ちた目で怜くんの腕を掴み上げている。



「ちょっと待って。俺は嫌がる事をしてるつもりはないし、夏都にも関係ない」



  怜くんは眉間にシワを寄せたまま手を振り解いた。
  だが、滝原くんも冷淡な目で冷たくあしらう。



「お前、中学ん時から全然懲りないな。好き勝手してても最後は周りが何とかしてくれると思ってんだろ」

「……それ、何の話?」


「別に。……ただ、自分の事ばかりだけじゃなくて周りを見ろって事。今だって彼女が嫌がってんのにしつこく迫り過ぎだろ」

「俺はただ避けられた原因を知りたくて謝りに来ただけ」



  どうしよう……。
  よくわからないけど、私が原因でケンカっぽい雰囲気になってる。
  しかも、話の内容からして、この2人は知り合いなのかな。
  でも、私がトラブルの元なんて嫌。



「避けられてるとわかってんなら放っておいてやれよ」

「お前には関係ないだろ。何も見てないくせに余計な口を叩くんじゃねーよ」



  怜くんはそう言って滝原くんの胸元を掴み上げた瞬間、私は大声を発して引き止めた。



「あっ、あのっ!  私、怜くんを嫌がってる訳じゃなくて。ネックレスをしてる男性が人一倍苦手で……」



  すると、2人は言い争っている口を止めて私に目線を向けた。



「男性がしてるネックレスを見ていられないというか、なかなか理解してもらえないかもしれないけど…………。とにかくっ、教室を出て行ったのは怜くんが原因じゃないから……。嫌な気持ちにさせてしまってごめんなさい」



  顔を上げれずに俯いたまま謝ると、怜くんは滝原くんの胸元から手を離してクッと笑った。



「そっか、ごめんごめん。美那ちゃんが不機嫌になったのは、このネックレスが原因だったんだ。じゃあ、外す」

「ありがと……」



  怜くんは胸元のチェーンをするりと解いてスラックスのポケットにしまうと、滝原くんは何も言わずに教室へ戻って行った。

  十字架が消えた途端、息苦しさがスッと消える。
  私は2人の不協和音を感じ取った瞬間、何故か心に引っかかりを感じていた。


  教室に戻って本鈴が鳴って入室した教師から配布物が回ってきて後ろに手をやると、澪は私に手紙を握らせた。
  それに気付いてこっそり手紙を開く。



『さっきは怜がごめんね。あいつ、ちょっと強引な所があってさ。自分が納得いかない所に関しては絶対に引かないタイプなんだよね。嫌な気分になった?』



  私はメモを読んだ後、文字の下に返事を書いて澪に渡す。



『ううん、そんな事ない。私が嫌な気分にさせちゃっただけ』

『でもさ、滝原が割って入るなんて予想外だった。ちなみに滝原も中学から一緒だったの。あいつらさ、中学ん時から仲が悪くて……』


『どうして仲が悪いの?』

『知らない。でも、中二の春までは親友のように仲が良かったんだよ。それだけは自信を持って言える』



  さっき廊下で言い合ってた時は、仲が良かった頃が想像出来ないくらい歪みあってた。
  胸ぐらを掴んで怒鳴り合うくらいだから、2人の間に何か大きな事件があったのかな。

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