36 / 41
カーテン越しの君
35.温もりに包まれた手
しおりを挟む「皆川くんはもうとっくに私との約束なんて忘れてるよ。きっと、私とは別の新しい人生を歩んでいるはず」
気持ちの温度差に胸が締め付けられた紗南は、肩を震わせながら可愛げもなくボソリと返事を跳ね返した。
「いいや、奴はあんたとの約束を忘れてないかもよ」
「…え?」
悲観的に返事をした紗南とは対照的に、セイはまだ過去の話を繋ぐ。
今は皆川くんよりも、隣にいるセイくんの事で頭が一杯なのに。
皆川くんとの再会に期待を持たす彼の一言は、まるで目の前に閉ざされたカーテンのよう。
私との間に一線を引いている。
すると、突然。
「ゴホッゴホッ。あの…さ、喉の調子が悪いから、いつもの飴ちょうだい」
「…え、喉の調子が悪いの? 大丈夫? ちょっと待ってね」
セイは会話の途中で咳き込んだ。
紗南はブレザーのポケットから出した飴をいつものようにカーテンの下から手を目一杯伸ばして差し出した。
「はい、飴どうぞ」
「ん、サンキュー」
だが、セイがカーテンの下から伸びた手が包み込んだのは、紗南が差し出した飴ではなく、飴を握りしめていた紗南の手。
紗南の手の平は、飴を受け取るはずだったセイの手の温もりに包まれた。
離れたベッドのそれぞれのカーテンの下から伸びた手と手。
それは、まるで橋渡しのように宙でしっかりと繋がれていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる