カーテン越しの君

風音

文字の大きさ
上 下
35 / 41
カーテン越しの君

34.複雑な心境

しおりを挟む



「セイくん、ここで会うのは久しぶりだね。私の声をまだ覚えてる?」

「うん、覚えてる。今日は大雪だね」


「あっ…。あ、うん」



養護教諭の不在時に保健室で交わしたこんな些細な会話さえ、胸がドキンと弾んだ。



私はセイくんに恋をしている。
クラスも名前も顔も知らない。

他人から見たらバカバカしいって思うかもしれないけど、ここ(保健室)で共に過ごした時間が私の全て。
あなたの姿が見えなくても、私の心があなたを求めている。




今から『会いたかったよ』って言ったら、少し何かが変わるかな。

いきなりそう伝えても、芸能人は綺麗な人が多いから、カーテン越しの顔もわからない一般人の私になんて興味が湧かないかな。



一ヶ月ぶりに保健室に彼が現れたのに、私はあと少しの勇気がないから臆病になった。



「もう10センチ近く雪が積もっているから、ひょっとしたらあんたが会いたい人に会えるんじゃない?」

「どうかな。あれからもう六年も経ってるし、あの時彼と待ち合わせ場所とか細かい事を決めなかったから、多分会えないよ」



既に皆川くんからセイくんに気持ちがシフトしていたから、彼の些細な一言で複雑な心境に陥り少し卑屈になった。


今は皆川くんが姿を現す事よりも、カーテン越しにセイくんが現れた事の方が、よっぽど嬉しい。



彼の声を全身で聞き取ると、久々のあまり感無量になった。
閉ざされたカーテン内で想いを溢れさせながら、ポケットから出したハンカチを目に押し当て、彼にバレないようにと声を押し殺して泣いた。



「ふーん。もう会えないだなんて寂しいな」



隣からポツリと小さく呟く声が私の耳に届く。


皆川くんの話をした当初から気持ちは変わったのに、彼はまだ私の気持ちを知らないから、良かれと思い少し前の思い出話を語ってる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

処理中です...