プラトニック ラブ

伊咲 汐恩

文字の大きさ
23 / 60
第四章

22.前倒しになっていた留学日程

しおりを挟む



  ーーセイの留学日が7日前に迫った、3月上旬のある日の朝。
  紗南とセイ。
  2人の恋の障害が色濃く描かれ始めた。

  制服に着替え終えた紗南はダイニングに降りてパンの香りが漂ってくる食卓椅子に腰を落として、テレビの電源スイッチを入れていつもの情報番組にチャンネルを合わせると、衝撃的なニュースが目に飛び込んできた。



「えっ⋯⋯」



  本日のトップニュース。
  それは⋯⋯。

  《KGK、2年間芸能活動休止!アメリカにダンス留学へ…》
  《ダンス専任講師は、元TOPSメンバー マイケル・リー》
  《衝撃!1週間後には渡米》

  紗南はマシンガンで胸を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。
  何故なら、本人から告げられた留学予定日よりも2週間も早い出発だったから。


  誤報だと思った。
  先に話を聞いていただけにマスコミが信じられない。
  聞き間違えていなければ、彼はあと3週間ほど日本で過ごす予定だ。
  渡米までまだ時間があるから、残された時間をどうやって充実させていこうかと考えていたところだった。

  それなのに、テロップどころか番組のキャスターまでもが、彼との2年間の別れに拍車をかけるように渡米は1週間後と伝えている。

  しかも、それはテレビだけじゃない。
  父親がいま大きく広げている新聞の一面トップですら1週間後の渡米日を濃厚にさせている。

  セイくんが1週間後にアメリカに?
  信じられない。
  日程が変更になっていたら一番に教えてくれてもおかしくないのに……。

  紗南はメディアから間接的に留学日程を知らされると、まるで自分だけが世間に置いてきぼりにされたような気分になった。


  次第にいてもたってもいられなくなって、食事を口にせぬまま席を離れた。
  顔色が悪い娘を心配した母親は、心配の眼差しで背中を追う。



「紗南、朝ごはんは?」

「ごめん、後で食べる」



  階段を駆け上がりながら背中でそう伝えた。
  リズミカルに叩きつける足音が耳に入らないほど、渡米日の事で頭がいっぱいになっている。

  部屋に到着すると、ベッドの上に置きっ放しにしていたスマホを鷲掴みにして混乱状態のまま震えた指先を叩きつけるようにセイにLINEメッセージを打つ。



『留学は1週間後になったの?』



  たった一行だけの短いメッセージに全ての問いを詰め込んだ。
  長文は彼の負担になるから。

  送信後、10分間ベッドの上でスマホ画面をじっと見つめたまま返信を待った。
  でも、返信どころか既読マークすらつかない。
  過去の経験からして返信してくれるかどうかも不明だ。

  セイは時間差でメッセージを受け取ると、じっと画面を見つめていた。
  日程の件は顔を見て伝えようと思っているが、それ以前に仕事が忙しくて会えるかどうかわからない。
  手間を省いて返事をするのであれば、彼女の表情を見ないままになってしまう。
  紗南との恋は慎重に進めていきたい分、小さな事ですれ違いたくないと思っていた。


  デビュー以降、海外ツアーを度々こなしているせいか、アメリカは然程遠い場所ではないと考えているセイ。
  丸2年間一度も会えないと思い込んでいる紗南との考え方に、若干温度差が生じていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

処理中です...