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第十二章
338.拓真の気持ち
しおりを挟む最後まで見届けていた祐宇と凛は、お互いの顔を見合わせてハイタッチをして恋の成立を祝福。
他の生徒達は、ヒューヒューと熱く冷やかす声や、歓喜の声や悲鳴を上げていた。
カップル成立となった二人を包み込むような温かい拍手は暫く鳴り止まない。
まるで氷のように冷たいコンクリートに腰を落としている和葉は、返事が鮮明に思い出せなくなってしまうほど頭が混乱していた。
もしかして、告白の返事はイエスって意味……?
えっっ、嘘!
まさか、これは夢っ?!
だとしたら、まだまだ覚めて欲しくないけど、そんな訳ないか。
だって、つい先日まで口も利いてくれない状態だったのに……。
あ、わかった!
拓真は意地悪だから、『金絡みで近づいたお前となんて付き合う訳ないだろ』とか、後になって難癖をつけてくるのかもしれない。
きっと、そう。
返事一つで勝手に期待しちゃダメ。
あー、危ない危ない。
返事を鵜呑みにして期待した後に裏切られたら、もう二度と立ち直れなくなるところだった
若しくは、私に二度目の大恥をかかせないようにうまく取り繕ってくれた可能性もある。
でも、その後に本音を聞いたらシンドイよなぁ。
和葉は拓真の返事が信じ難いあまりに警戒深くなっていた。
すると、背後から屋上扉が開く鈍い音が耳に飛び込んできた。
ガチャ…… キィィーー
誰かが向かって来るのはわかっているが、和葉は精神面が弱っているせいか振り返る事が出来ない。
その間、パタパタといった足音は徐々に近付く。
そして、和葉の目の前に周った人物は、地べたに小さく座り込んでいる和葉の前で軽くしゃがんでぐしゃぐしゃと頭を撫でた。
和葉は顔を見上げると、そこには拓真の姿が。
「拓真……」
「ばぁーか。二度も恥ずかしい思いをさせるなよ。受け身側の気持ちも少しは考えてくんない?」
拓真の手が髪から離れていくと、ふわりと香りが漂った。
今となっては懐かしい香り。
拓真特有のこの香りにずっと包まれていたいと思ってた。
それに、昨日まではあんなに遠い存在だったのに、今は手に届くところにいる。
しかし、和葉は先程の返答が覆されに来たのかと思うと、胸がぎゅーっと苦しくなった。
「お前ってほんっと不器用だな。大胆にやらかしやがって」
「ごめん……」
消沈するあまり語尾が絞られるように小さくなった。
これから返事が覆されるかと思うだけで、鼻の奥がツンと痛くなる。
「賭けで俺に近付いたなんて最低だと思ってたけど……。以前も今も、数ヶ月間傍で見てきたまんまじゃん」
「えっ、それってどういう意味? もしかして清楚系と言ってるの?」
「……は? ひとこともそんな事を言ってないけど。相変わらずお前の妄想は桁外れだな」
若干二人の解釈の違いが生じると、拓真はバカにしたように苦笑した。
その瞬間、拓真が告白の返事を覆しに来た訳ではないと思い始める。
「俺、ようやく気付いたんだ。俺の幸せはお前との思い出とセットだってね」
「えっ……」
「賭けで近付いたと知った時は裏切られたという気持ちになったけど、同時に大事なものを見失っていた。その大事なものを気付かされたのは、ついさっき。お前の告白が落雷したかのように胸に響いた瞬間、これが大事なものだったんだなって。お前を許せなかったのは、自分の片割れのように信じていたから」
「……」
拓真の気持ちがじわじわと伝わって来ると、高鳴る鼓動を全身で感じた。
瞳に溜まりだした涙が頬に流れ落ちるのは、もう時間の問題に。
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