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第十二章
332.ごめんなさい
しおりを挟む私……。
我慢しなくてもいいのかな。
素直に気持ちを吐き出してもいいのかな。
祐宇と凛を心から信じてもいいのかな。
トラウマを抱えたあの日からすっかり臆病になってたけど、祐宇の涙で未来が切り開かれて、凛の優しさで第一歩を踏み出す勇気を与えてもらった。
和葉はリボンの固い結び目が解けたかのように心が開き始めると、浮き上がっていた涙が不揃いにこぼれ落ちた。
「今まで相談出来なくてごめん……。こんなに心配してくれるなんて思わなかった」
鼻頭を赤く染めて瞳から涙をポロポロと零した和葉は、両手で顔を覆って肩を震わせながら咽び泣いた。
同じく鼻頭を赤くして泣いている祐宇は和葉の隣に腰を下ろして和葉の肩に手を添えて、隣の凛は和葉の肩を抱き寄せた。
それから和葉はしこりのようになっていた今日までの想いを吐き出した。
信用していた親友に裏切られて、友達に恋愛相談がしづらくなってしまった事。
拓真へ14年間の想いを届ける為に、親の猛反対を押しきって街に戻ってきた栞の事。
好意を寄せてくれたにも拘らず、体調面を気遣いながら傍で力になってくれていた敦士の事。
そして、拓真と恋愛に発展してから謝罪を続けても取り合ってもらえない現状を余す事なく打ち明けた。
感情が込み上げてベソをかいているが、そこには殻を覆っている自分はいない。
興奮を落ち着かせるように涙を拭っていると、二人は優しく語りかけた。
祐宇「辛かったでしょ。もっと早く話してくれれば、少しは力になれたかもしれないのに」
凛「言葉にしてくれないとわかんないんだよ。私達はあんたを大切に思ってるのに裏切る訳ないでしょ。……ってか、信用しなさ過ぎ」
和葉「えへへ、疑っちゃってごめんね。私、もしかしたら人を信じる以前に自分自身が信じれられなくなっていたのかもしれない」
長らく彷徨っていた心の闇のトンネルから抜け出すと、その先には眩しいくらいの温かい笑顔が二つ並んでいた。
今までどうして黙っていたんだろうと不思議に思うくらい、心が晴れ晴れとした気分に……。
トラウマが克服出来たのは、口を割った自分じゃなくて、道を切り開いてくれた友達のお陰。
私はこうやって色んな人に少しずつ力を与えてもらいながら、人として成長していくものだと痛感した。
祐宇「皆が皆同じ考えを持ってる訳じゃない。一度嫌な思いをしても、二度目も同じ結果とは限らないんだよ。それに、和葉が応援をしてくれたから私は元彼とやり直す事が出来たの」
凛「私達は毎日あんたの事を心配してるのに、易々と裏切ると思う? あんたが味方でいてくれてるように、私達はいつでも味方だよ」
嬉しくて胸から熱いものが込み上げてきた途端、涙で視界がぼやけ始めた。
土砂降りのような涙の狭間から、太陽のような笑顔が生まれた。
まるで全身の力が抜けてしまったかのように安堵すると、嬉し涙は更に加速していく。
私は一人ぼっちなんかじゃない。
固い殻を破ろうとしなかったから、臆病になっていただけ。
本当は人一倍心強い宝物を持っていた事に気付かなかっただけ。
思いきって本音を伝えて良かった。
私は大好きな親友のお陰で、毎日不安でいっぱいだった自分から卒業出来た。
話がひと息つくと、凛は何かを思い出したかのようにハッと目を開かせた。
「あっ、そうだ! 実はね、藤田さんから伝言を預かってるの」
「栞ちゃんが私に?」
「和葉に『ごめんなさい』って伝えてくれって。……もうかれこれ3週間くらい前の話なのに言うのが遅くなってごめん」
「『ごめんなさい』って、どう言う意味だろう」
拓真と付き合ってごめんなさい?
廊下ですれ違いざまに無視してごめんなさい?
それとも、農作業に加わってごめんなさい?
いっぱいいっぱいになってるせいか、栞からの『ごめんなさい』が思い当たらない。
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