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第十二章
328.見守る敦士
しおりを挟む祐宇と凛は北校舎と連結する二階の渡り廊下を抜けて、二クラス分の教室の前を通って、和葉がいる一階の非常階段を目掛けて、校舎内の階段を降りた。
すると、凛は二階と一階の階段の踊り場付近でいきなり祐宇の腕をグンと手前に引くと、右手で祐宇の口を覆った。
「もごっっ……。ひふひはひ?!(急に何?!)」
「しっ……。いま非常階段の手前に敦士くんが一人で座ってる。ほら、あそこを見て」
凛は小声で階段の向こうに人差し指を向けると、その先には敦士が壁に背中をくっつけながら両膝を立てて手をプランと膝にかけて座っていた。
敦士は軽く瞼を伏せて寂しそうな目で何処か遠くを見つめている。
そして、壁越しの非常階段には和葉が。
祐宇は和葉を想って壁越しの寄り添う敦士の姿が目に焼き付くと、想いの強さが伝わってくる。
「もしかしたら、敦士くんはまだ和葉の事を……」
「そうかもしれないね」
「敦士くんは、きっと和葉の気持ちを知ってるよね。いっときは相談役を引き受けてくれたから」
拓真を想いながら非常階段で一人でうずくまっている和葉と、壁に身を隠しながら傍にいる敦士。
間に壁一枚挟んでいるお互いの想いは、それぞれ別方向の恋の矢印が向けられている。
遠目から見ている側も、胸が締め付けられるほど切ない気持ちがしみじみと伝わってくる。
敦士は、和葉が非常階段で一人で泣いてると知ったあの日から、壁越しに付き添うのが日課になっていた。
そっとしておくのが正解だが、和葉の取り巻く環境をかき乱してしまうほどお節介を繰り返している。
まだ和葉が忘れられそうにない。
だから、自分からちゃんと忘れられるように、背中越しではあるが恋を応援してあげようと思っている。
この場に到着しておよそ10分ほど経過すると、敦士は静かに腰を上げて祐宇達がいる階段を上り始めた。
焦った二人は覗き見していた事がバレぬように足音を立てずに更に上にのぼった。
トン……トン……トン……
リズムを刻んだ足音は徐々に接近。
一刻を争う事態に冷や汗を滲ませながらしゃがんで身を伏せていると、敦士の口からひとり言が漏れた。
「お前の好きな奴がどうして俺じゃなかったんだろう。俺なら今まで流した涙の量以上に幸せにしてやる自信があるのに……」
敦士の足は階段から離れて渡り廊下へ向かった。
階段上からひょこっと二つ顔が出てその様子を確認すると、安心したようにストンと腰を落とした。
「ふぅ……。敦士くんに覗き見がバレなくて助かったね」
「でもさ、私達が何の手立てもしない結果が、こんなに辛い状況を生み出していたなんて」
「和葉、藤田さん、そして敦士くん。残念ながら、みんなの恋はそれぞれ一方通行だったかぁ」
賭けをしていた事が拓真にバレたあの日から様子を見届けていた祐宇は、このまま自分達が黙り続けていてもいい結果に結びつかないと思った。
だから、言った。
「……凛。もうそろそろいいかな」
「うん、もう十分。そろそろ行こっか。和葉の元へ……」
二人は和葉が自分の口から悩みを吐き出してくれるのを待っていたが、和葉が一人で苦しんでいる姿や、和葉を背中越しに見守っている敦士と、和葉に直接謝りたいと思っている栞の様子を目の当たりにしたら、このまま黙り続けても誰の為にもならないと思った。
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