328 / 340
第十二章
328.見守る敦士
しおりを挟む祐宇と凛は北校舎と連結する二階の渡り廊下を抜けて、二クラス分の教室の前を通って、和葉がいる一階の非常階段を目掛けて、校舎内の階段を降りた。
すると、凛は二階と一階の階段の踊り場付近でいきなり祐宇の腕をグンと手前に引くと、右手で祐宇の口を覆った。
「もごっっ……。ひふひはひ?!(急に何?!)」
「しっ……。いま非常階段の手前に敦士くんが一人で座ってる。ほら、あそこを見て」
凛は小声で階段の向こうに人差し指を向けると、その先には敦士が壁に背中をくっつけながら両膝を立てて手をプランと膝にかけて座っていた。
敦士は軽く瞼を伏せて寂しそうな目で何処か遠くを見つめている。
そして、壁越しの非常階段には和葉が。
祐宇は和葉を想って壁越しの寄り添う敦士の姿が目に焼き付くと、想いの強さが伝わってくる。
「もしかしたら、敦士くんはまだ和葉の事を……」
「そうかもしれないね」
「敦士くんは、きっと和葉の気持ちを知ってるよね。いっときは相談役を引き受けてくれたから」
拓真を想いながら非常階段で一人でうずくまっている和葉と、壁に身を隠しながら傍にいる敦士。
間に壁一枚挟んでいるお互いの想いは、それぞれ別方向の恋の矢印が向けられている。
遠目から見ている側も、胸が締め付けられるほど切ない気持ちがしみじみと伝わってくる。
敦士は、和葉が非常階段で一人で泣いてると知ったあの日から、壁越しに付き添うのが日課になっていた。
そっとしておくのが正解だが、和葉の取り巻く環境をかき乱してしまうほどお節介を繰り返している。
まだ和葉が忘れられそうにない。
だから、自分からちゃんと忘れられるように、背中越しではあるが恋を応援してあげようと思っている。
この場に到着しておよそ10分ほど経過すると、敦士は静かに腰を上げて祐宇達がいる階段を上り始めた。
焦った二人は覗き見していた事がバレぬように足音を立てずに更に上にのぼった。
トン……トン……トン……
リズムを刻んだ足音は徐々に接近。
一刻を争う事態に冷や汗を滲ませながらしゃがんで身を伏せていると、敦士の口からひとり言が漏れた。
「お前の好きな奴がどうして俺じゃなかったんだろう。俺なら今まで流した涙の量以上に幸せにしてやる自信があるのに……」
敦士の足は階段から離れて渡り廊下へ向かった。
階段上からひょこっと二つ顔が出てその様子を確認すると、安心したようにストンと腰を落とした。
「ふぅ……。敦士くんに覗き見がバレなくて助かったね」
「でもさ、私達が何の手立てもしない結果が、こんなに辛い状況を生み出していたなんて」
「和葉、藤田さん、そして敦士くん。残念ながら、みんなの恋はそれぞれ一方通行だったかぁ」
賭けをしていた事が拓真にバレたあの日から様子を見届けていた祐宇は、このまま自分達が黙り続けていてもいい結果に結びつかないと思った。
だから、言った。
「……凛。もうそろそろいいかな」
「うん、もう十分。そろそろ行こっか。和葉の元へ……」
二人は和葉が自分の口から悩みを吐き出してくれるのを待っていたが、和葉が一人で苦しんでいる姿や、和葉を背中越しに見守っている敦士と、和葉に直接謝りたいと思っている栞の様子を目の当たりにしたら、このまま黙り続けても誰の為にもならないと思った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる