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第十二章
326.最後のプレゼント
しおりを挟む敦士はネクタイの結び目に人差し指を差し込み、ネクタイを軽く左右にゆすって首元を軽く緩めた。
今まで吐き出される事のなかった想いは、水道の蛇口が壊れてしまったかのように放水している。
「だからガキは扱いに困るんだよ! 和葉が入れ込んでいる姿を見て本当に何も感じなかったのかよ! 本当は気になるんだろ。それに、俺が無性に気に食わないんだろ? でも、俺だってムカついてるよ」
「…………」
「さっきお前の気持ちを知る為に嘘をついた。和葉のいいところなんてとっくに知り尽くしてるよ。今でも和葉の心が手に入るのなら何でも手放せる。……でもな、俺がどんな手を使っても、あいつの心にお前に残されてる限りお前に勝つ事が出来ない。だから、いつも泣いてる姿を我慢して見届けてやる事しか出来ねぇんだよ」
「あいつが、いつも……泣いてる……?」
「付き合う気がないなら、あいつの心から消えてくれよ……。俺はあんたとは違って死ぬほど愛してやる自信があるから」
「……っ」
「でも、あんたがもし少しでも気があるなら、遠回りばかりしてないでさっさと迎えに行けよ。いつまでも泣かせてんじゃねぇよ」
敦士は拓真の口を塞いでしまうほどの勢いで伝え終えると、拳に力を入れて返事も聞かぬまま不機嫌な足取りで去って行った。
ーーこれが、敦士がいま自分に出来る精一杯の想い。
和葉の教室前を通り過ぎる時は、無意識に教室内を覗き込み。
和葉が非常階段で一人で泣いてる時は、そっと背中越しに見守っている。
例え口を利かなくなったとしても。
友達じゃなくなったとしても……。
燃え盛っている恋心が、自然消火していく事はなかった。
自分の役目はもうとっくに終えているけど、約1ヶ月後の卒業式までの間、和葉に再び笑顔の花を咲かせてあげたいと思っている。
一方、中庭に一人取り残された拓真は敦士の想いを痛感していた。
あの男は本気で和葉に想いを寄せていた。
だから、最後の判断を迫ってきた。
それに加えて、俺は和葉を毎日泣かせてるという事実を、あの男と和葉の友達から知らされる事に。
あんなに毎日幸せそうに笑っていた和葉から笑顔を奪ったのは、紛れもなく俺自身。
俺が栞と付き合い始めた時も。
そして、賭けで俺を落とそうとしていた事を知った時に、誤解を解こうとしていたあいつの話を聞いてやらなかった時も。
和葉は俺に謝る為に手段を選ばず頭を下げていた。
俺はあいつ自身をちゃんと見ていたのに、本当に気持ちが傾いていないのだろうか……。
一方、中庭にいる拓真の元を離れた敦士は、誰もいない体育館裏に身を置き、やりきれない気持ちを一気に吐き出すかのように、大きく唸り声を挙げた。
「ああ゛あぁあ゛っ!! ぜんっぜん、面白くねぇ……」
あの男にだけは何もしてやりたくないって思っていたのに、お節介が過ぎた。
でも、俺に幸せを与えてくれた和葉に、幸せ行きへの片道切符を用意してあげたかった。
もう辛い過去を振り向かなくてもいいように、切符は片道分だけ。
これが、卒業前に出来る最後のプレゼントだから。
「かーっ!! 俺っていい人過ぎ。……こりゃ当分マジ恋愛出来ねぇわ」
失恋のストレスが溜まってイライラしていた敦士は、ぐしゃぐしゃと頭をかきむしりながら、ひとりごとを言って教室へ戻って行った。
和葉が毎日涙を流している事を知っているからこそ、一日でも早く笑顔を取り戻して欲しいと願っている。
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