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第十二章
322.話の続き
しおりを挟むでも、それ以上にネックなのが、何度も冷たく突き返しても、早く忘れようとしても、あいつの事が気になっている自分。
正直、最近はあいつの事しか考えていない。
早く忘れればいいものの、農作業に集中しようとしていても家まで押しかけて来るし、勉強で机に向かっていても、涙を流しているあいつの残像が思い浮かんでいる。
ムカついてるし、嫌なら放っておけばいいのに。
これ以上、関わらないように距離を置けばいいのに。
まるで栞との交際がなかったかのように、俺の脳内は支配されていた。
でも、許せない気持ちは平行線のまま。
そして、一度刻まれてしまった心の溝は想像以上に深い。
ただの喧嘩とは違う。
信用問題とは、時に力任せの争いに発展してしまうほど切実な問題だ。
このゲームが行われた当初、俺が恋に落ちて友達から金を受け取ったら、その後はどうするつもりだったのだろう。
最終的に残酷な結果を知らされるハメになるなら、最初からチャンスなんて与えなければよかった。
しつこく付きまとわれても無視して、何処かのタイミングで縁を断ち切っておけばよかった。
それまで脳内に栞しかなかったスペースは、必要以上に空けてしまわなければよかった。
今になって後悔ばかりが押し寄せて来る。
俺達はこんな出会い方さえしなければ、きっと今と違う未来があっただろう。
それに、あいつは LOVE HUNTER。
俺はそのターゲットとして選ばれた。
しかし、それは表向き。
本当は人一倍愛されたいと願う愛の欠乏者だという事を知った。
思い返してみると、それを証明出来るのは四人目の父親の話をした時。
『和葉はずっと一人ぼっちで寂しかったから、誰かが傍にいないと辛いんだ。母親からの愛情が欠乏していた分、しわ寄せが来たのかな。和葉は愛されて育ってきてないから、愛され方がわからないんだけどね』
親から将来を期待されて息苦しい毎日を送っていた俺とは対照的だった。
家族として愛されたい一心で、四人目の父親を大切にしている。
更に自分と同じように寂しい想いをさせたくないと。
本物の父親のように大切にしている姿勢を見て、思わず感銘を受けた。
それは、俺に対しても言える事だったのかもしれない。
冷たく突き返されても、口を利いてもらえなくても我慢していたのは、愛に喰らい付こうとしていたから。
しかし、残念な事にたった一度きりの裏切りが、嘘と本音の境目をぼやかせている。
そして、今朝。
あいつの友達から過去を振り返って考えろと言われてじっくり考えてみたけど、あいつを信じたいと思う気持ちと、まだ信じきれないという気持ちの両極端が心の中で葛藤を繰り返している。
『時には相手の言い分に耳を傾けるのも人として成長していく過程の一つなんだよ』
先日婆ちゃんに言われた言葉ですら胸を窮屈に締め付けてくる。
婆ちゃんは泣きべそをかきながら農作業をしているあいつを見て何かに気付いた様子。
当然、賭けの件を知らないから仲直りして欲しいと思っている。
婆ちゃんは幼い頃から知ってる栞よりも、あいつを可愛がっていたから。
でも、期待に応えられそうにない。
そして、一切指示を与えなかった農作業終了後、あいつは壁一枚挟んだ向こうから謝罪の言葉と共に想いをぶつけてきた。
『……でもっ、誤解はされたくない。確かにあの時は友達と賭けをしたけど、私の本当の気持ちは……』
本当はあの話の続きがわかっている。
しかし、どんなに耳を澄ましてもあいつの言葉を信じれそうになかったから、敢えて聞くのをやめた。
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