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第十二章
318.祐宇の決心
しおりを挟む1月下旬の、ある日の朝。
登校したばかりの祐宇は教室にカバンを置くと、騒々しく床に足を叩きつけてある場所へ向かった。
先に登校していた凛は、祐宇の異変に気づいてある事案が思い描かれたと同時に後を追った。
「ねぇっ……ねぇっ……、祐宇ってば。やめなって。ここは私達の出る幕じゃない。こんな事をしても和葉の為にならないって!」
「私は絶対やめない。凛が止めても私はアイツに話をするから」
凛は足を引き止めようとして手を伸ばすが、祐宇はパッと振り払って一度も振り返らずに足を進めた。
祐宇は決心していた。
それは、誰に何を言われても揺るぎない思い。
いま向かっているある場所とは、北校舎に位置する拓真の教室。
祐宇は拓真とマンツーマンで話をするつもりでいる。
二人は拓真の教室に到着。
扉の奥から教室内を軽く覗き込んだが、まだ登校していない。
祐宇は腕組みしながら廊下に寄りかかって到着を待つ事に……。
その間、凛は隣からしきりに説得していたが、今日は耳を貸さない。
ーーそれから、約2分後。
拓真は廊下の向こう側から教室に向かって歩いて来た。
祐宇は登校に気付いて教室の前まで足を運ばせて行く手を阻んだ。
「弘崎 拓真」
「……え?」
「ちょっと話があるんだけどいいかな」
昨日から心を決めていたが、自然と表情がこわばった。
拓真はこれから決闘が行われるかのような雰囲気に、少し驚いたように黒目を凝縮させる。
「あんたは確か和葉の友達の……」
「私は篠原 祐宇。和葉の事で弘崎くんと話がしたいの」
「祐宇! やめなって。私達がこんな事をしても意味がない」
「いいの。私は弘崎くんに話すって決めたんだから」
決意を固めて来た祐宇は、強気な態度でピシャリと言った。
祐宇は栞から話を聞いてから一人で頭を悩ませていた。
一人で悩みを抱えてる和葉に友達としてどうしたら力になれるか。
そして、どうすれば心が軽くなるのかと、和葉の気持ちだけを一点に絞って考えていた。
先日、凛と二人で話し合った結果、栞から伝えられた件を本人に言うのをやめた。
だから、あの日から誰ひとり一歩も先に進めない状況が続いている。
しかも、賭けの責任は和葉だけではない。
にも拘らず、和葉一人だけに責任を押し付けるのはどうかと思って気持ちが背中を後押ししていた。
「いいよ。……でも、俺はあんた達が思ってるような返事は出来ないから、期待しないで」
拓真は相変わらずクールな態度で持っていたカバンを教室に置いてから、二人の後に大人しくついて行った。
祐宇と凛と拓真の三人は北校舎裏に場所を移した。
この場所を選んだ理由は、南校舎に登校して来る和葉にバレないようにする為。
凛は拓真に和葉の話をしようとしている祐宇に対して、未だに理解を示さない。
道中、何度も祐宇の制服の袖を引っ張ってやめろと言わんばかりに目で訴えていたが、祐宇の気持ちは一方通行だった。
目的の場所に到着すると、祐宇はすぐに口を開いた。
「私達は弘崎くんと和葉の関係を知らなかったの。藤田さんからこの前初めて話を聞いて知ったの」
「……栞がどうしてあんた達に?」
「藤田さんから私達に伝えたい話があったから。勿論、和葉抜きでね」
「ふーん。……で、俺に何の用?」
拓真は和葉の親友二人が本人に頼まれて来たと思っていたせいか、栞の話が浮上した途端、一瞬心が狂わされた。
しかし、自分のところへ来た理由を明確にしたいと思っている。
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