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第十二章
313.入籍の鍵
しおりを挟む「画像に写ってるのは、お母さんとおじさんだという事はわかるけど。……この赤ちゃんは、私?」
「あんた以外誰がいるのよ。そこの日付は、紛れもなくあんたの誕生日でしょ。これが決定的な証拠」
「……す、すると。お……おじさんが…………、わわわ……私の…………ほほほ本当のお父さんなの……?」
想像をはるかに超えるくらい願ったり叶ったりで声が吃った。
「そうよ。でも、肉親という事を隠していたのはお父さんの希望なの」
「えっ、おじさんの?」
「だから、雅和さんは本物の父親だって言ってるじゃない!」
「あ……そっか。でも言い慣れちゃって」
「和葉ちゃんは真実を知ったばかりだし、急に父親として受け入れるのは難しいから、ゆっくりで大丈夫だよ」
さっきは勢い余って口から飛び出してしまったけど、今は急展開にただただ気持ちが追いつけない事と、やっぱりおじさんと呼ぶのが馴れてしまっているせいか、急に『お父さん』と言うのは、正直呼びにくかったりもする。
「私達は再び結婚生活を決めたけど、入籍するかしないかは、和葉が『お父さん』と呼ぶ事と、父親としてちゃんと認めてもらう事が条件だった。すぐに入籍してもらえなかったのは、当時浮気をした私へのペナルティだったわ」
「私が二人の入籍の鍵を握っていたんだね」
「そーゆー事。お父さんは離婚してから和葉に父親らしい事を何一つしてあげてない事が心残りだったみたい。ちゃんと父親の役割を果たして、愛娘に認めてもらえたら入籍してくれると約束してくれたの」
「だから、以前『お父さんって呼ばないの?』って質問したんだね」
「そうよ。しかも、あんたは自分の口で言っておきながら、暫く名字が変わってない事に気付いていなかったし」
「あっ、そう言えば……」
「本当にバカね。……でも、早く入籍しないと、お腹の赤ちゃんが父親がいない子として誕生しちゃうから、一日でも早く入籍したかったの。和葉ったら『お父さん』って全然呼ばないし、こっちは出産まで時間がなくなってきたから焦ったわよ」
お母さんが物的証拠を見せてくれたお陰でおじさんが実の父親だと言う事が証明された。
そして、入籍の条件が、私がおじさんの事を『お父さん』と呼んで父親として認めるという事。
そこまでは詳しい説明があったからわかった。
ところが、『お腹の中の赤ちゃん』という、新たなキーワードが浮上すると、脳内処理は更に追いつけなくなった。
「お腹の赤ちゃんって?」
「あら、まだ気付いてなかったの? 私、妊娠しててあんたはもうすぐでお姉ちゃんになるのよ。ちなみに、もう7ヶ月だから」
母親は妊婦と思えないくらいスリムなお腹に手を当てて、愛情たっぷりにさすり始めた。
なかなか人のお腹に目線を当てる機会はないし、母親は具合がよくないせいか最近ゆったりめの服を着ていると思っていたが、まさかの妊娠。
和葉は再び衝撃的な事実を知ると、開いた口が塞がらなかった。
こんなにビックリするのは、もう顎が外れそうなレベルに。
「えぇ?! 私、もうすぐで妹か弟が出来るの?」
「つわりが酷かったし、妊娠の症状の頭痛が酷かったから、もうとっくに気付いてるかと……」
「吐き気は二日酔いかと……。頭痛は何かの病気の症状じゃなかったんだ」
「ちょっと待って、勝手に病気にしないでよ。しかも、お正月に『来年は三人で食卓を囲んでない』ってヒントを出したから、わかっていたと思っていたのに」
「あれは来年は四人で食卓を囲むって意味だったの? ………あっ、しかも思い返してみたら、お母さん『名字も変わってるかもしれない』とも言っていた。それはおじさんと入籍するからって意味だったの? だから、時間がないって……」
「……ってか、気付くの遅」
「もーっ! ちゃんと言ってくれないとわかんないよ!」
新しい情報が頭の中で渋滞を起こしていた。
結婚離婚を繰り返していてもきょうだいが出来る気配がなかったから、てっきりこの先もずっと一人っ子だと思ってたけど、数ヶ月後にはまさかの妹か弟が……。
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