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第十二章
312.鈍感な娘
しおりを挟む「まだ気付いていなかったの? 血の繋がった父親が一緒に暮らしていても、意外に気付かないものなのね」
「えっ、それどーゆー事? おじさんが血が繋がった父親って事?」
「そうよ」
「そうよと言われても……」
「じゃあ、本物の父親だと証明してあげる。私と雅和さんの名前の漢字を組み合わせたら、どんな名前が完成するの?」
「どんな名前が完成するといきなり言われても……。ええっと、ええっと……」
母親に言われた通り、二人の名前を思い描いた。
すっかり調子が狂わされているけど、今は急になぞなぞを出題されたような気分に。
「雅和と葉月。雅和葉月……、……和……葉。ええええぇっ? うそーっ!! 二人の名前を合わせたら私の名前に……」
ブツブツと名前を連呼しているうちにカラクリの謎が解けていくと、和葉は驚愕の悲鳴と共に顔のパーツが開ききった。
まさか、両親の名前に出生のヒントが隠されているとは……。
「娘なのに気づかなかったの? 背が低いところや、感情深いところなんて父親そっくりなのにね」
あまりにも鈍感な和葉に呆れた母親はため息混じりでそう言う。
しかし、和葉は両親の名前が合体して自分の名前が完成したと知っただけじゃ、まだ信用出来ない。
父親の名前にたまたま《和》の文字が入っていて、後に付け足した可能性もあるから。
「いいや、信じられない。二人の名前がたまたま合体して私の名前が完成したのかもしれないし。……私、結構疑り深いの」
「相変わらず面倒くさい子ね」
「面倒臭くて結構っっ! 私には大事な問題なの! 昔、お母さんが留守の隙を狙って父親の情報源になるものを家中探したけど、痕跡が一つも見当たらなかった。だから、ちょっとやそっとじゃ信用しきれないの」
私は肉親の情報を小学5年生の頃からずっと探していた。
タンスやクローゼットの中。
そして、押入れの奥や洗面所下や、食器棚の中まで、あらゆる箇所を狙って父親の痕跡を探していた。
せめて、写真一枚でも残されているんじゃないかと思っていたから。
しかし、どんなに時間をかけても父親に繋がる情報は見当たらなかった。
家族写真や書類など、何か一つくらいは残されていると思っていたのに……。
あまりにも見つからないから、お母さんは行動を先読みして処分した思っていた。
だから、いつしか探す事を諦めた。
こんなに家中漁っても何も見つからないのに、必死になって父親の痕跡を探している自分が、虚しく思ったりもしたから。
「あんたは私の知らないところで、痕跡探しなんてしてたのね。でも、そこまで言うなら、決定的な証拠があるけど」
「何よ、決定的な証拠って……」
「まぁまぁ、二人とも少し落ち着いて」
生意気な口調で語る母親に対しして、興奮気味に食ってかかる和葉の間に、父親が割って入った。
しかし、言い争いをしている二人の耳に声は届かない。
「実はお父さんは立ち会い出産をしてくれたから、昔使ってた携帯電話に産院の分娩室で撮ってもらった家族の3ショットの写真があるけど見てみる?」
「そんなものが存在していたの? 早く見せてっっ」
「そんなものとは失礼ね。私にとっては大切な写真よ」
「そこにしか証拠が残されていないのなら、家中探しても見つからないはずだよね」
そう言って、和葉は目の色を変えると、母親はリビングのテレビ台の引き出しに入っている携帯電話を持ち出して、17年前当時の画像を見せた。
和葉は中に映し出された写真をよく見る為に、母親から携帯電話を奪い取って目を凝らす。
すると、分娩室のベッドに横たわる母親の隣には、白いバスタオルを身にまとった小さな赤ちゃんが。
そしてベッドの脇には若かりし頃の父親。
それは、新しい命が誕生したばかりの微笑ましい三人の家族写真。
残念な事に一番必要としていた真相は、母親の昔の携帯電話の中だけに大切に保存されていた。
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