LOVE HUNTER

風音

文字の大きさ
上 下
312 / 340
第十二章

312.鈍感な娘

しおりを挟む


「まだ気付いていなかったの?  血の繋がった父親が一緒に暮らしていても、意外に気付かないものなのね」

「えっ、それどーゆー事?  おじさんが血が繋がった父親って事?」


「そうよ」

「そうよと言われても……」


「じゃあ、本物の父親だと証明してあげる。私と雅和さんの名前の漢字を組み合わせたら、どんな名前が完成するの?」

「どんな名前が完成するといきなり言われても……。ええっと、ええっと……」



  母親に言われた通り、二人の名前を思い描いた。
  すっかり調子が狂わされているけど、今は急になぞなぞを出題されたような気分に。



「雅和と葉月。雅和葉月……、……和……葉。ええええぇっ?  うそーっ!!  二人の名前を合わせたら私の名前に……」



  ブツブツと名前を連呼しているうちにカラクリの謎が解けていくと、和葉は驚愕の悲鳴と共に顔のパーツが開ききった。
  まさか、両親の名前に出生のヒントが隠されているとは……。



「娘なのに気づかなかったの?  背が低いところや、感情深いところなんて父親そっくりなのにね」



  あまりにも鈍感な和葉に呆れた母親はため息混じりでそう言う。
  しかし、和葉は両親の名前が合体して自分の名前が完成したと知っただけじゃ、まだ信用出来ない。

  父親の名前にたまたま《和》の文字が入っていて、後に付け足した可能性もあるから。



「いいや、信じられない。二人の名前がたまたま合体して私の名前が完成したのかもしれないし。……私、結構疑り深いの」

「相変わらず面倒くさい子ね」


「面倒臭くて結構っっ!  私には大事な問題なの!  昔、お母さんが留守の隙を狙って父親の情報源になるものを家中探したけど、痕跡が一つも見当たらなかった。だから、ちょっとやそっとじゃ信用しきれないの」



  私は肉親の情報を小学5年生の頃からずっと探していた。
  タンスやクローゼットの中。
  そして、押入れの奥や洗面所下や、食器棚の中まで、あらゆる箇所を狙って父親の痕跡を探していた。

  せめて、写真一枚でも残されているんじゃないかと思っていたから。



  しかし、どんなに時間をかけても父親に繋がる情報は見当たらなかった。
  家族写真や書類など、何か一つくらいは残されていると思っていたのに……。


  あまりにも見つからないから、お母さんは行動を先読みして処分した思っていた。

  だから、いつしか探す事を諦めた。
  こんなに家中漁っても何も見つからないのに、必死になって父親の痕跡を探している自分が、虚しく思ったりもしたから。



「あんたは私の知らないところで、痕跡探しなんてしてたのね。でも、そこまで言うなら、決定的な証拠があるけど」

「何よ、決定的な証拠って……」

「まぁまぁ、二人とも少し落ち着いて」



  生意気な口調で語る母親に対しして、興奮気味に食ってかかる和葉の間に、父親が割って入った。
  しかし、言い争いをしている二人の耳に声は届かない。



「実はお父さんは立ち会い出産をしてくれたから、昔使ってた携帯電話に産院の分娩室で撮ってもらった家族の3ショットの写真があるけど見てみる?」

「そんなものが存在していたの?  早く見せてっっ」


「そんなものとは失礼ね。私にとっては大切な写真よ」

「そこにしか証拠が残されていないのなら、家中探しても見つからないはずだよね」



  そう言って、和葉は目の色を変えると、母親はリビングのテレビ台の引き出しに入っている携帯電話を持ち出して、17年前当時の画像を見せた。

  和葉は中に映し出された写真をよく見る為に、母親から携帯電話を奪い取って目を凝らす。


  すると、分娩室のベッドに横たわる母親の隣には、白いバスタオルを身にまとった小さな赤ちゃんが。
  そしてベッドの脇には若かりし頃の父親。

  それは、新しい命が誕生したばかりの微笑ましい三人の家族写真。


  残念な事に一番必要としていた真相は、母親の昔の携帯電話の中だけに大切に保存されていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

処理中です...