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第十二章
311.お父さん
しおりを挟む「ふざけないでっ! お母さんはお父さんの努力を知らないクセに」
「えっ……」
「和葉……、ちゃん……」
父親と母親の目線は、涙を一直線に流して感情的に怒鳴りつけている和葉へと向けられる。
「お母さんがそんなにだらしないから和葉は昔から父親の顔が覚えられないんだよ。それに、お父さんは物じゃないから簡単に別れないで! 今お母さんの隣にいる人は、血は繋がってなくても私の大切なお父さんなんだから……」
父・母「……」
「一生のお願いだから離婚しないでよ! お父さんは私に家族として受け入れてもらおうと思って、毎日ご飯を作ってくれたり、身の回りの世話をしてくれたり、相談に乗ってくれたりして頑張っているのに可愛そうだよ……。なのに、離婚を考えているお母さんなんて、大嫌い!」
幼い頃から愛を知らずに育ったから、愛に包まれてると知ってから愛を大切にするようになった。
おじさんと出会ってからの期間は短いけど、毎日愛情たっぷりに寄り添ってくれた。
放置教育したお母さんよりも、ずっと肉親らしい。
私は放ったらかしにしてもおかしくないくらいの年齢なのに、一切手放さなかった。
こんな素敵な人、世界のどこを探しても見つからないよ。
だから。
だから……。
私から大切なお父さんを奪わないで。
「お父さんに謝ってよ。離婚なんてしないって、今すぐお母さんの口から言って」
「和葉……」
「毎日温かい料理を作って帰りを待っていてくれる。どんなに疲れていても、どんなに体調が優れない日でも、私の体調を考えて栄養満点のご飯を用意してくれる、100点満点の父親なんだよ。本質を見抜けないお母さんなんて嫌い。和葉の大切なお父さんを奪ったら、もう二度と許さないんだからっ……」
和葉は両目から大量の涙を滴らせながら、歯をむき出しにして母親を睨んだ。
他のお父さんは良くても、四人目のお父さんだけは絶対にダメ。
学校から帰宅すると、心の天気を見ながらいつも温かい目で見守ってくれていた。
家庭というものが温かいものなんだと教えてくれたのは彼一人だけ。
だから、家で温かいお味噌汁を作って、私の帰りを待っていてくれるお父さんの為に真っ直ぐ帰るようになった。
すると、母親は大号泣している和葉とは対照的にプッと吹き出すと、右目に涙を光らせながら隣の父親と目線を合わせた。
「……だってさ。聞いた? 雅和さん」
「あぁ、愛娘の口からしっかり聞いたよ。しかも『お父さん』という、これとないくらい最高の土産付きでね。……でも、ちょっとやり過ぎだよ。和葉の気持ちを逆撫でするようなやり方は良くない」
「いいのよ、これくらい。だって、和葉がなかなか『お父さん』って呼んでくれないんだもん」
両親が急に和やかムードで話し始めた途端、和葉はだるま落としの木片がスコーンと叩き落とされてしまったかのような気分に。
「……え?」
もはや返答は蚊帳の外。
しかも、二人の会話は何故か私の随分先を行ってる。
何なの、何なの?
娘を差し置いてどんな展開に向かっているの?
「じゃあ、和葉に父親の許可をもらったから、約束通り籍を入れましょ」
「……え? 愛娘って……ちょっとちょっと、なんの話? しかも、離婚どころかまだ入籍してないの?」
「んー、そうねぇ。籍をまだ入れてないから離婚しようがないわね」
混乱するあまり頭にクエスチョンマークを描いている和葉とは対照的に、母親はケタケタと笑った。
その瞬間、離婚話は母親のでっち上げだったと知る。
しかも、父親が自分を愛娘と言っていた事が気になっていた。
和葉はエンスト状態でポカンと口を開けてると、母親は話を続けた。
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