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第十一章
305.やり場のない怒り
しおりを挟む拓真はベッドに腰をかけたまま深いため息をついた後、なだれ込むかのように髪に手ぐしを指し込んで両手で頭を抱えた。
一方、和葉はもうこれ以上の言葉が見つからない。
拓真は『帰れ』の一点張りだし、無理に自分の気持ちを押し付けてしまうのは逆効果だと思った。
「わかった。今日はもう帰るね。……バイバイ」
和葉は聞こえるか聞こえないかくらいのか細い鼻声を扉に向けると、足音を立てずに部屋を離れた。
今日は睨まれても怒鳴られても話をするつもりだった。
でも、まともに取り合ってもらえないから、私の心は未知の世界を彷徨っている迷子のよう。
誠意が足りないのか。
若しくは、心の傷がかさぶたになる前に膿が溜まっているのだろうか。
今の時点で、関係回復する可能性はゼロに等しい。
この先は、広い砂浜の中に紛れ込んでいる小さなビーズを探し当てるくらい難しい戦いになるだろう。
一方の拓真も、和葉と同様心の中で葛藤していた。
昼間に言っていたお婆さんの言葉が、やけに頭の中でこだましている。
『人間という生き物はね、相手を腹立たしかったり憎らしく思っていても、簡単に縁を断ち切る事が出来ないんだよ。あんたがこうやって何かを思うように、和葉ちゃんも色々思い巡らせているんだよ』
『過去を振り返ってごらんなさい。バイク事故を起こした時、栞ちゃんは寛大な心であんたを許した』
『栞ちゃんの身体の傷と心の傷を一度思い返してみなさい。それと同時に今の自分を考えてみなさい。そうすれば自然と答えは出て来るはずだよ』
『時には相手の言い分に耳を傾けるのも人として成長していく過程の一つなんだよ』
ドンッ……
拓真は拳を思いっきり膝に叩きつけた。
やりきれない思いが、まるで台風に巻き込まれてしまったかのようにぐるぐるとかき乱している。
アイツの過失を許すなんて、俺には出来ない。
しかも、こんなに頑なに拒んでいるのに、どうしてわざわざ家に押しかけて来るんだ。
今さら謝って俺にどうして欲しい。
友達としてもやり直す気は無いのに……。
「くっそ……」
拓真はやり場のない怒りと、お婆さんの言葉に板挟みにされて苦しんでいた。
しかし、やりきれない想いとは裏腹に、過去に経験した事のない感覚に襲われた。
硬く見えるけど、柔らかく。
尖っているように見えるけど、丸く。
冷たいようで、温かく。
色褪せたように思えるけど、鮮明で。
遠いように思えるけど、実は一番近い。
この不思議な感覚は一体何を示しているものだろうか。
そして、アイツが現れた途端から、まるで銃を持ったテロリストに包囲されてしまったかのように思考が占領された。
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