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第十一章
299.伝えられない気持ち
しおりを挟む一度母屋戻ってから、お婆さんに作業着を出してもらった。
久しぶりに花柄シャツに袖を通して、ぴったりサイズのモンペに足を通す。
たった二ヶ月前まで毎週のように着ていたモンペが懐かしくて思わず涙が浮かんだ。
季節は冬。
今日は防寒着のジャンパーも貸してもらったから、これで冬の寒さからもしのげそうだ。
作業着に着替え終えた和葉は、母屋を出てから再びハウスに戻った。
拓真は物音一つで戻った事に気付いていたが、顔も意識も向けようとしない。
引き続き、黙々と作業に取り組んでいる。
和葉は久しぶりに農作業に参加するせいか、今日の段取りがわからない。
以前は指示を仰いでくれたから、次の段取りまで把握出来た。
軽くハウス内を見回してみると、隅から隅まで小松菜が整列して植えられている。
今日これを全部一人でこなそうとしているのか。
小松菜の成長具合からして収穫期が近い。
今すぐ食べれそうなくらい葉つやが良くて立派に成長している。
次に拓真の足元に目線を移すと、化成肥料と書いてある大きな袋が置かれている。
そこからなぞるように拓真に目線を当てると、小松菜の間の土を手でかき分けて軽く握っていた肥料を埋めている。
どうやら、肥料は目分量で埋めてる様子。
本人に確認したいところだけど、きっと話してくれない。
だから、見よう見まねで手伝っていこうと思った。
拓真は私の存在をかき消すかのように小松菜の追肥作業に没頭している。
逃げようがない場所に押しかけて来たから、きっと迷惑に思ってるはず。
ビニールハウス内は緊張感が漂っている。
拓真は目すら合わせてくれないし、私は謝罪の言葉を口に出来ない。
だから、気が狂いそうなほど辛い。
言いたい事は沢山あるのに。
早く謝りたいのに。
好きという気持ちは100パーセントを超えているのに、今は1パーセントの想いすら信じてもらえない。
でも、今日は敢えてこの道を選んだ。
限られた時間内で成果を上げようと思うのは、無謀な挑戦なのだろうか。
和葉は横目でチラリと拓真の方を向いた。
しかし、単調な作業を繰り返していて、傍にいる事を意識していない様子。
平行線なお互いの距離感。
温度差の激しい心。
まるで心電図のように、この二つの狭間で揺れ動いてる感情だけは大きく波打っている。
和葉は作業を進めながら、何も出来ない自分と葛藤していた。
「ズビッ……」
拓真に与えてしまった心の痛みを想像したら、胸苦しくなって涙が浮かび上がった。
今日まで何度も拓真の気持ちを思い描いていたけど、実際隣にいる拓真を見たら余計現実味帯びて苦しくなった。
土を触り続けて軍手は泥だらけだから、鼻水が垂れないように鼻をすすった。
泣いても意味がない。
そんなのわかっている。
だけど、出てきてしまうものは仕方ない。
『好きだよ』
数ヶ月前まで毎日のように伝えていた気持ちは、今は簡単に伝えられない。
伝えられない苦しさと、伝えてはならない切なさの狭間に苦しめられている。
一方、拓真にはシンと静まり返ったハウス内で、和葉が鼻をすする音が耳に入った。
泣いている事に気付いているが、引き下がる気はない。
煮え滾る感情と葛藤を繰り返しながら、敢えて聞かないふりをして作業の手を進めた。
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