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第十一章
292.負い目
しおりを挟むそれまで黙って耳を傾けていた二人は、真実を知った途端言葉を失った。
今日まで明かされる事がなかった想いは、恋のライバルの口から明かされる事になるとは……。
すると、栞は膝に置いている握りこぶしに力を加えて、寂しそうにまつ毛を伏せた。
栞「別れた今でも拓真が好きです。『やり直そう』と言われたら迷わず戻るでしょう。それがもし本音じゃなくても、そのひと言で辛い過去を帳消しにしてしまうかもしれません」
祐宇「本気だったんだね」
栞「はい……。でも、途中で気づいたんです。笑顔を向けてるのは私じゃないって。それどころか、拓真は日に日に笑顔を失っていきました。特に最近は機嫌が悪くて顔色を伺う日々が続いて、とても幸せな恋愛をしてると言えるものではありませんでした。でも、辛そうにしてるって思われたくなかったから誰にも相談出来なくて」
祐宇「藤田さん……」
栞「本人はまだ気持ちに気付いてないかもしれないけど、拓真はきっと和葉さんを……」
声をところどころ詰まらせていた栞はとうとう我慢に限界を迎えて、目元を光らせると口元に両手を添えた。
憔悴しきっている様子を目の当たりにした祐宇と凛は、お互いの顔を見合わせて困惑した表情を浮かべた。
凛「藤田さんはどうしてそうだと思ったの?」
栞「私が気持ちに気付いた理由は、拓真の目がいつも和葉さんを追っていたから。それは、一人でいる時も二人でいる時も。当然、自分が損する事をわかっていたから、見て見ぬ振りを続けました。自分を宥めるにはこうやってやり過ごすしかなかったんです」
祐宇・凛「………」
栞「でも、それが日常的に行われていたから、次第に耐えられなくなりました。きっと、拓真は無意識に見ていたんでしょうね。きっと私が和葉さんに意地悪をしたから。二人の仲を無理に引き裂いたからバチが当たったんです」
凛「意地悪って。あの子に何かをしたの?」
栞「……はい、私が『正々堂々と勝負しましょう』とライバル宣言しておきながら裏切ってしまったから。二人はあんなに仲よさそうにしてたのに、笑顔を奪ってしまったのは私なんです。だから、どうしても和葉さんに謝りたくて。でも、勇気がないから直接謝れなくて……」
栞は辛い日々の想いがこみ上げてくると、顔を上げられなくなって両目から涙をこぼした。
想いを受け取ったばかりの祐宇と凛は、栞が自分を戒めている様子に胸を痛める。
祐宇「でも、藤田さんの気持ちも何となくわかる。恋愛してるとさ、上手くいく事よりも上手くいかない事の方が多かったりするもん」
穏やかな目線で呟くように返事をした祐宇は、同時に自身の恋愛模様を思い描いていた。
栞「ホントにそうですね。付き合えたとしても、一方的に好きなだけじゃ恋は成就しないとわかりました」
凛「藤田さんだって怪我を負って辛い想いをしているのに……」
栞「どんなに不幸が身に降りかかってきても、好きだと許せちゃうんです。父親に突き放されながらも、毎日めげずに頭を下げに来てくれている姿を遠目から見ているうちに、彼の誠意が伝わってきました。ひょっとしたら、私バカなのかもしれない……」
凛「そんな事ない。寛大な心で許してあげたんでしょ。しかも、責任から解放してあげる為に嘘をついたなんて優し過ぎるよ」
栞「寛大な心なんてありません。……ただ、好きな人が苦しんでいる姿をこれ以上見たくなかっただけです」
祐宇「私だったら、一生残る傷を負わされたら許せないかも」
栞は本音を吐き出すのがずっと怖かった。
しかし、二人に吐き出した途端、気持ちが少し楽になった。
しかし、和葉への負い目が消える事はない。
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