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第十一章
290.一番最新のデータ
しおりを挟むだけど、そんな矢先。
和葉に接近する男が現れた。
俺は二人が一緒にいる姿を見ると、何故か歯がゆい感覚に。
それが何故だかわからない。
こういったソワソワとした感情を持つ経験が無くて、正直自分とどう向き合ったらいいかわからなかった。
その上、あの男は和葉に気があった。
俺自身もあの男が気に食わない存在としてインプットしていた。
それから、俺は栞に告白されて付き合う事に。
栞が俺に会う為に街に戻って来た時点で、なんとなくこんな日が来るんじゃないかと思っていた。
栞を好きだった幼い頃の自分だったら、きっと今頃幸せを噛み締めていただろう。
しかし、栞と恋人になった同日の深夜。
和葉は酔っ払って自宅に怒鳴り込みに来るほど、心を痛めている事実を知った。
ベッドで涙を流しながら寝言で本音を語っている様子を見て、本気で俺に恋をしてると実感した。
でも、気持ちに応えてあげれない自分は情けないほど保守的に。
それなのに、アイツが近づいて来た理由は賭け金目的だという。
友達との話が耳に入ってきた時は、吸血鬼に生き血を吸われたような絶望感に襲われた。
アイツを信用しきっていた分、裏切られた時の失望感が半端なかった。
あの時は言い訳をしたそうだったけど、最後まで話を聞いていられるような精神状態じゃなかった。
思い出というデータにデリートボタンを押されたような感覚になったが、バグが発生しているのか、全ての思い出が消え去らない。
片隅に残っていたのは、アイツが涙を流していたデータだけ。
……そう、一番最新のデータだけがしっかりと残されている。
自分にはもう関係ないからさっさと忘れればいいものの、自然とアイツの事ばかり考えているせいかストレスは増していく一方で、知らぬうちに栞に刺々しい態度で接してしまった。
本当は間違っていた。
栞だけを真っ直ぐに見ていかなければならないのに、心の目は栞に向けていなかった。
そのせいで、寂しい想いをさせた上に最後まで深く傷付けてしまった。
残念な事に、俺の心の中には14年間想いを寄せてくれていた栞じゃなくて、思い出を上書きしてきた和葉が棲み続けている。
これじゃあダメだと思って自分を見つめ直しても、アイツとの思い出は簡単に消えない。
「俺、どーすればいいんだよ……」
拓真は頭の中がぐちゃぐちゃになって、やりきれない気持ちと葛藤していた。
栞のお陰で事故のトラウマから少し解放されたが、和葉の存在の大きさにも気付いてしまった分、裏切りが許せない。
金目当てで近付いたなんて本当は嘘だろ。
じゃあ、あいつが今までしてきた事は、一体何だったんだよ。
出会ってから裏切りが発覚した日まで、全て計算尽くしだった?
あの幸せそうな笑顔はいつも作り笑顔だった?
目の前で流した涙は嘘の涙だった?
それに、どうして俺をターゲットに……。
思い出を一つ一つ振り返ると疑問ばかりが沸き起こる。
本当は出会ってからの気持ちを信じたい一心だった。
そして、頭の片隅ではどうかあの話が嘘であって欲しいと心から願っている。
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