LOVE HUNTER

風音

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第十一章

288.嘘をついた理由

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  深い事情があったとしても、命をかけてまでバイクに轢かれたいと思わない。
  さすがの私もこれからバイクに轢かれるのを想定して、自ら飛び出す勇気はない。


  ーーそう、いま拓真に大きな嘘をついた。



  あの時は、バイクの進行方向に身体を寄せてなんていない。
  記憶が間違っていなければ、拓真がハンドルを切った瞬間にはもう轢かれていた。

  次に目を覚ました時は病院のベッドの上。
  両親から事故の状況の説明を聞いたのは、一晩経った翌日の朝の事。

  涙で瞼を腫らした母親の顔を見た瞬間、私は今回の事故の大きさを知らされた。
  そして、ふくらはぎに刻まれてしまった傷跡は、永遠に残されてしまうものだと……。


  傷があまりにも大きいから、この傷と一生付き合っていかなきゃいけないと思うと、やりきれないけど……。

  退院後、自宅の玄関の外で父親に怒号を浴びせられて突き返されながらも、毎日土下座をしてまで謝りに来てくれていた拓真が誠意を示している姿を見たら、謝罪を受け入れる以外方法が見つからなかった。

  そこには14年という長年の愛があったから。


  事故から1年以上経っても、彼の心には根強く事故の爪痕が残されていた。
  口から咄嗟に飛び出した嘘を素直に信じてしまうほど、罪悪感に塗り固められている。

  だから、この嘘すら信じるか信じないかといった、賭けの中のうちのたった一つにしか過ぎなかった。



  私が拓真に嘘をついた理由は三つ。

  一つ目は、話を最後まで確実に聞いてもらう為。
  二つ目は、被害者の自分から、拓真が抱えていた事故のショックを軽減させようと思った為。
  三つ目は、気持ちを確かめる為。




  でも、本当は薄々気付いていた。
  拓真が傍にいてくれる理由が。

  冬休みに2週間ほど離れ離れで過ごしているうちに、何となくこうではないかといった結論に辿り着いてしまった。

  しかし、この答えが本当かどうか確信が持てなかったから、敢えて事故の話を蒸し返した。



  拓真のお爺さんが亡くなって代々受け継がれて来た畑を守ろうとするほど責任感が強い。
  だから、好きでもない私に事故の責任を果たす為に交際にイエスの返事をした。



  実際恋人になって隣から顔を眺めていても、私と恋をしたいような目つきではなかった。
  恋人として傍にいてくれるけど、拓真の目が自然と和葉さんを追ってると感じた瞬間から心のズレが始まっていた。


  それに、以前和葉さんの男友達が言っていた『深い絆』という意味も、時間をかけながら考えていた。
  そして、最終的に考え抜いた結果、それが恋愛に当てはまらないと思ったから、情という意味に捉えた。

  しかし、情は恋ではない。

  だから、その情というものは何処で大きな変化を迎えたかと思って再会する以前の記憶を遡ってみたら、拓真が起こした接触事故に繋がった。


  謝罪を受け入れてから、心を繋ぎとめていたのは事故じゃないと思い込んでいたけど、拓真は想像以上に怪我に対する恐怖心が植え付けられていた。

  それに加えて『これから二人にどんな障害が起こっても関係は揺らぎないんだね』と言ってた彼の言葉が、最後の賭けに出るきっかけの一つに。


  事故が原因で繋がり合う関係なら、この先も愛してもらえないと思った。
  過去も今もずっと大好きだからこそ欲深くなってしまった。


  本当は別れ話なんて口にしたくなかった。
  手放したくなかった。
  長年ずっと拓真だけを想っていたから。

  でも、好きになってもらえないなら意味がない。
  この先も一生片想いじゃ辛いから、最後に下した判断はきっと間違っていなかったはず。

  だから、これで良かったんだ……。



「……バカ。嘘を鵜呑みにしないでよ。今日まで頑張ってきたのが虚しくてたまらないよ」



  拓真の視界から完全に姿を消したと同時に、涙で頬を濡らしていた栞は、思わずひとり言が漏れた。

  だけど、毎日何処と無く辛そうにしていた心を少しでも解放してあげたいとも思っていた。

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